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きのこふしぎ発見

きのこで医者いらず?古代人の生活にも欠かせなかったきのこの薬効とは

2022.07.01
きのこで医者いらず?古代人の生活にも欠かせなかったきのこの薬効とは

かつてない高齢化社会が到来し、健康寿命を伸ばすことが、増大する医療費を抑えるためにもますます重要になってきています。また、生活習慣病の予防も日本を含めた先進国が抱える大きな課題です。そこで、日常的に健康を増進するためのさまざまな方策のひとつとして、きのこの持つ健康機能性の利用に世界中から期待が寄せられています。

しかし、実は現代のようにきのこの健康機能性が明らかになるずっと前から、きのこは薬効があるものとして重宝されてきました。そこで今回は、薬としてのきのこの性質にクローズアップしていきます。

不老長寿の仙薬とされた「霊芝」

生薬としてのきのこの歴史は古く、紀元前3世紀頃の古代中国に広まった「神仙思想」の書物の中にも、きのこの服用法が説かれています。
神仙思想とはのちの道教に影響を与えた原始宗教の一種で、人は修行することで不老不死である「仙人」になることができると考えられていました。書物の中では、この仙人が「芝菌(シキン)」というきのこを食べていたと記録されています。

また、紀元前221年に中国を統一した秦の始皇帝は、生涯にわたって不老不死の妙薬を探し続けましたが、そのひとつが「霊芝(レイシ)」というきのこだったという言い伝えがあります。霊芝は現在でも漢方やサプリメントとして使われているサルノコシカケ科のきのこ。別名「マンネンタケ」とも呼ばれ、さまざまな効能があると考えられています。

霊芝は、東洋医学最古の薬物学書だといわれる「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」にも記載されています。1世紀から2世紀頃に中国で編纂された「神農本草経」には365種類の生薬が収録されており、「上薬」120種、「中薬」120種、「下薬」125種に分類されています。それぞれの区分は以下の通りです。

『上薬』・・生命を養うための薬で、無毒で副作用がなく、長期的に服用することができ、不老長寿の効用があるもの。
『中薬』・・体力を養うための薬で、使い方によっては毒にもなりうるため注意が必要。病気の予防や、虚弱体質改善に使われる。
『下薬』・・病気を治すための薬で、毒性が強いため、長期の服用は避けた方がよいと記載されている。

霊芝が分類されているのは『上薬』で、難聴・関節の動きの改善や、良好な精神の維持、強壮、筋骨の強化、血色良好などの薬効が記されており、霊芝は最上級の薬物として珍重されていました。日本書紀にも「芝草」という名前で登場し、これを取って煮て食べた親子が、無病長寿を得たという逸話が書かれています。

霊芝は古くから薬として利用されてきた代表的なきのこですが、同じくサルノコシカケ科の茯苓(ぶくりょう:マツホドの菌核)や、猪苓(ちょれい:チョレイマイタケの菌核)なども昔から薬効が知られており、現在も漢方薬として使われています。

※写真:漢方の茯苓

「アイスマン」の薬はきのこ?

さらに遡ると、実は人類は、「神仙思想」「神農本草経」などの書籍に記録されるよりも遥か昔から、きのこの薬効を利用していたようです。
1991年、イタリアとオーストラリアの国境付近の、アルプス山地の氷河から男性のミイラが発見されました。「アイスマン」と名付けられたこの男性のミイラは、調査の結果、約5300年前の新石器時代後期に生きた人物であることがわかりました。近くで発見された彼の所持品の中に、石器や食糧のスモモの実と一緒に入っていたのが干したカンバタケというきのこ。カンバタケは薬効があるサルノコシカケ科のきのこで、いまから約5300年前のアイスマンが、薬として使っていた可能性があります。

先人の知恵は真実だった。現代の研究で明らかになるきのこの薬理効果

古代中国で不老長寿の仙薬とされた霊芝は、明の時代に書かれた薬学書「草本綱目」にも登場し、更年期障害の改善や予防の効果があるとされていましたが、現在の研究により、霊芝の抽出物には女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があることがわかっています。例えば、ラットを使った実験では、霊芝の抽出物が骨密度を改善することが示されており、更年期障害による骨粗しょう症の改善、予防の効果が期待されています。
まだ培養細胞や動物実験の段階ですが、霊芝にはほかにも、抗がん作用や免疫を活性化する作用、肥満を抑制する効果などが報告されており、科学的にもその可能性が実証されつつあります。

また、身近なきのこについていえば、たとえばシイタケの「エリタデニン」という成分に血中コレステロールを下げる作用があることが示されていたり、エリンギには体脂肪を低減する働きが示唆されていたりと、きのこ全般の健康価値が改めて見直されています。

毎日きのこを食べよう!おススメの摂取量は50g以上

さまざまな健康機能性を持つきのこですが、どのくらいの量を食べる必要があるのでしょうか。それについては、きのこの摂取量と効果の関係について調べた実験があります。被験者を5つのグループに分けて、各グループの1日のきのこ摂取量を0g 、20g、50g、100g、200gとし、4週間調査しました。その結果、生のきのこの重さで毎日50gから100g程度摂食するのが最もよいということがわかりました。現在、日本人が1日に摂取するきのこの量は平均約17g(令和元年調べ)。きのこは美味しく健康にもよいため、意識して多めに食べるようにしたいものです。

石器時代から人はきのこの薬効を利用し、健康に役立ててきました。現代では科学技術の進歩により、これまで知られていなかったきのこの機能性や新しい利用法が研究・開発されており、今後ますます発展する分野として期待されています。
これからもずっと、きのこは私たちの健康を支えてくれることでしょう。

参考文献

  1. きのこの新たな機能性の探索、日本 きの こ 学会誌,Vo1.21(4 )155 .164,2014
  2. きのこの多機能性を科学する、MOKUZAI HOZON 42(1),12-17(2016)
  3. 仙人の飲食、人文学論集.36,p1-41
生命力を食べる。 人と菌の物語

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