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Do My Best, GO! 〜アスリートインタビュー

プロアスリートを支える食事に迫る。第44回 体操競技・村上 茉愛さんインタビュー

2024.07.01
プロアスリートを支える食事に迫る。第44回 体操競技・村上 茉愛さんインタビュー

明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回は2021年夏の東京五輪にて、女子体操・種目別床で銅メダルを獲得し、現在は後進の指導に当たっている元体操選手の村上茉愛さん。体操を始めたきっかけや思春期の成長と挫折、リオデジャネイロ五輪での悔しさ、東京五輪での経験、そしてアスリートとしての食生活まで幅広くお聞きしました。

はじめに、体操はいつ頃から始められたのでしょうか?

4つ上の兄と2つ上の姉がいて、私が生まれた時に4歳の兄が体操を始めていたんです。なので、自分も赤ちゃんの時から体操場に行っていて、よちよち歩きしながらマットで遊んだりしていたようです。だから0歳から始めたという感じかな。「本格的に習いたい」と自分から言い出したのは、3~4歳の頃だったみたいです。

村上さんは小学校入学時から、ソウル・バルセロナの五輪メダリスト・池谷幸雄さんが主宰する池谷体操教室に入ったとお聞きしました。

はい、池谷さんは清風高校・日本体育大学出身で、父の高校・大学の先輩に当たります。その池谷さんの体操クラブが東京にできると聞いて、家族全員で引っ越して、私は1期生として加入することになりました。

指導の素晴らしさだけではなく、これから表舞台に出たときに緊張しないようメンタルを鍛えたり、大人に対する受け答えや挨拶をしっかりできるようになるために生徒をテレビ出演させたりするという方針がありました。独特な考え方ですけど、「大人になった時に自分の感情をきちんと表現することはすごく大事だよ」と言われ続けていたので、そのことは今も自分の中に刻まれています。

体操に打ち込む中で小学校6年生のときにH難度のシリバスを成功させたことが大きな話題となりましたね。その後は中学を経て、明星高校に入学し、高校2年生の時には世界選手権にも出場されています。当時を振り返っていかがでしょうか。

2013年に初めて世界選手権に出た頃は気持ち的に前を向いていましたが、そこから高校3年生にかけては「体操をやめようかな」と悩むようになりました。世界選手権のときに周りから「メダルが取れる」と言ってもらえていて、自分自身もその時の演技構成ならメダルに手が届くと思い挑みましたが、それが過信だと思い知らされたのが大きかったです。

海外の有力選手にボロボロに負けて、メダルも逃し、燃え尽きた感覚になった。体も全然動かないし、気持ちが下を向いて、「もうやらなくていいかな」というところまで行っていましたね。

そこから再び前向きになれたきっかけは?

ジュニア時代からの指導者に「そもそもお前ができるかできないかで今、判断していたら、できるわけないだろ」とズバリ言われて、衝撃を受けたこと。池谷さんにもつねにカツを入れられていましたけど、やっぱりアスリートには厳しい言葉も必要。弱い部分をちゃんと指摘してくれる人がいるかいないかはすごく大きいと思います。

その後は日体大に進学し、恵まれた環境で自己研鑽を図り、大学2年だった2016年にはリオデジャネイロ五輪に挑みました。しかし女子団体は4位、個人種目別床もメダルに届かない結果でしたが、振り返っていかがでしょうか。

リオの時は結構、簡単な技でポンと床に手を突いてしまって、それでメダルを逃してしまいました。体操人生で初めて後悔しました。自分としてはしっかり向き合っているつもりでしたが、きちんと向き合っていなかったのでは、と考えるようになりました。だからこそ、そこから本気でいろんなことに取り組むようになりました。

それまでの私は「大学生になれば精神的にも肉体的にも落ち着く」と言われてきて、その言葉を頼りにしていたし、「いつか収まるでしょ」と楽観視していたところがあったと思います。でもそれじゃダメだと気付いた。励ましてくれるいい仲間もいましたし、体のことを含めて本気で自分自身と向き合うように変化したと思います。

リオの悔しさが、東京五輪への闘志に火をつけたんですね。その後、コロナ禍を経て1年延期して迎えた2021年夏の東京五輪。特に記憶に残っていることはありますか?

無観客で試合をするのが辛かったですね。両親も普通にチケットに応募して、外れたのに、知り合いの人に譲ってもらえて来るのを楽しみにしていたので、体操場で見せられなかったのはすごく残念でした。

ただ、五輪に対しては「夢を叶えられるところまで来ている」という感覚を持てていました。自分はもともと得意な床で五輪のメダルを取りたいというイメージを描いていて、そこから個人総合、チームでもメダルというのが大きな夢になった。そこに近づいている喜びがあったんだと思います。

実を言うと、床の日の朝に表彰台に乗っている夢を見たんです。その時は1位だったんですけどね。それで本番前練習にのぞみましたけど、何をやってもすごくいい感触があって、「今日はイケる日だな」という確信がありました。「夢で見たことを話してしまうと叶わない」と聞いていたので、夢のことはずっと黙っていました。

実際の本番の時もゾーンに入っている感覚だった。アスリートは気持ちで左右されると思いますけど、最終的にはメンタルが強い人が勝つのかなと。結果的には3番だったけど、夢で見た景色と一緒でした。大学時代の仲間も試合中にLINEのメッセージを送ってくれましたし、みんなに励まされて表彰台に上がれたと思います。

集大成を最高の形で終えて、2021年に引退されましたね。

「どういう結果でも東京で引退する」と決意していたので、自分の中ではやり切ったという感じです。体操を普及し、日本を強くするための活動に力を入れていきたいと思いながら、今は日々を過ごしています。

ここからは、食事面でお話しをお伺いしたいと思います。村上さんはどのように体重のコントロールをしていましたか?

アスリートにはみんなベスト体重があると思います。それをキープする人もいれば、あえて増やしたり、減らしたりする人もいるでしょう。私の場合は同じ数字をキープすることだけ考えていた感じですね。

競技特性を考えても、瞬間的に動く体操は他のスポーツに比べると消費カロリーが少ないので、私は日頃からパワーのつく食事を摂って、練習で減らすという意識で取り組んでいました。とはいっても、そこまで制限することなく好きなものを食べていましたし、外にご飯を食べに行くこともありました。疲れていたら自然とご飯とかエネルギー源を多く摂りたくなりますし、体のサインに従って食事をしていた感じです。

体が変化する思春期の頃は食事にどう向き合っていましたか?

正直言って、バランスのいい食事はしていなかったと思います。フルーツしか食べないとか、その場の軽さでどうにかしようとしていたのかな。もともと野菜は嫌いじゃないけど、積極的には手に取らなかったですし、やっぱり肉とかを好んで食べていましたね。アスリートとしての食事というのは、今考えると全然していなかったと思います。

大学生以降は考え方が変わったということですか?

はい。大学2年の時にリオデジャネイロ五輪に出て、選手村で食事を摂っていた時に、監督から「ちょっと来て」と言われて、マンツーマンの栄養講習を受けることになったんです。私が食べていたものが偏っていたからだと思います。

「この1週間で食べたものを書きなさい」「あなたが緑黄色野菜だと思うもの、タンパク質だと思うものをかき出して」と言われて、実際にやってみたら、圧倒的に野菜が足りなかった。海外だと生ものはあまり摂らない方がいいと言われていたんですけど、火が通っている温野菜とかなら問題ないですよね。それもあまり摂取していなかったので、偏りが生じてしまっていました。

そこからは食事や栄養バランスとしっかり向き合うようになりましたね。それが体重コントロールにもプラスに働いたと思います。

栄養豊富な食材「きのこ」を活用することもありましたか?

はい。私はもともと便秘体質で、食物繊維を摂らないと腸内環境がすぐ悪くなりがちです。そのストレスが体調面にマイナスの影響を及ぼすことも少なくない。そこできのこをより多く摂取するように心がけていました。

自分の体は割と単純で、きちんと栄養素を取れば排出もスムーズになるタイプ。きのこを意識して摂るだけでも全然違いましたし、「最近、調子がよくないから、リセットしたいな」と思う時には、きのこを食べるようにしていましたね。基本的には全部好きですけど、よく食べていたのはブナシメジですね。友達を呼んでバーベキューをやる時にはエリンギとか他のきのこも入れますよ。

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では最後に、ご自身の経験を踏まえて、アスリートに向けた食事面でのアドバイスをお願いします。

摂るべきものはちゃんと摂った方がいいということですね。競技によっては体重や数字にこだわらないといけないですし、食べたくなくても食べなければいけないものもあると思います。ですが、やっぱり人間のエネルギーや活力は栄養と睡眠が源になると思います。

以前、栄養士さんから言われましたが、食べたものの効果は2週間後に体に出るんだそうです。食べ方が悪いと肌荒れや腸内環境の悪化などにもつながりますよね。試合がある場合は2週間前から調整していくことが大切。今となれば、自分のそういう知識をしっかり学んで、当時からやりたかったなと思います。


村上さんのDo my best,Go!

■ 好きな言葉は?
「物事を『できるかできないか』で判断するんじゃなくて、『やるかやらないか』で判断する」っていうのが私のモットーですね。
「これができないからやめよう」とか「できるからやる」という判断じゃなくて、「やると決めたらやる」という精神で、そこだけはブレないように体操選手としても、1人の人間としても歩んできました。
その言葉をくれたのは、ジュニア時代に教わっていた先生です。高校生の時、体操を続けるかどうかも含めて迷っていた時期があったんですけど、私が毎日コツコツとできないタイプの性格だと知って「できるかできないかで判断していたら、できるわけがない」とあえて厳しい言葉をかけてくれたんだと思います。
それを聞いて「確かにそうだ」と痛感したし、「自分で決めたらできるんだ」と前向きになれた。何かに迷っている時は、この言葉を思い出して取り組むようにしています。

■ 忘れられない大会は?
やっぱり東京五輪の印象はすごく強いですね。コロナ禍とかいろいろあって、それを乗り越えて、体操人生の集大成にしたいと思ったのが東京大会。もちろん賭ける思いは強かったですね。
スポーツができなくなる環境、観客のいない試合、お客さんが声を出せない状態など、この先もうないだろうと思うような出来事が多くて、残念だと思う部分はあります。お客さんの声は自分の一番の力になるので、そういう人たちがいない、しかも、両親も会場に来られない中での試合ということで、不思議な感情にはなりました。
それでも、テレビで見てくれる方も多かったでしょうし、1つ1つの情報の衝撃は大きかったはず。そういう中、種目別床で銅メダルを取れたことを嬉しく思っています。

■ ご自身にとって体操とはどんなもの?
自分の人生を表しているものだと思っています。女子の床運動は音楽を使ってダンスを盛り込みながら演技を構成するんですけど、そういうところにも性格が結構出ますし、自分の思いも込められる。練習段階でやりたいことにトライして、だんだんよくなっていくことも多い。そういった過程を含めて自分自身を表現するものが体操なんですよね。

■ リラックスや切り替え方法は?
 もともと音楽を聴くのが大好きで、30分しか移動時間がない時でもかけています。私はダンスが好きなので、特によく聴くのはK-POP系。音のリズムに乗ってテンションを上げながら、演技や練習に臨んでいました。
もう1つは、試合後のご褒美としてご飯を食べに行くことですね。試合前にリサーチして「ここに行く」と決めておいて、モチベーションを上げていました。
よく行っていたのはハンバーガーショップ。東京の有名店は結構、行きましたけど、一番お勧めなのは、池袋の『No.18』というお店、ハンバーガーは肉にこだわっている店が多いですけど、そこはパンにもこだわりがあるんです。パンにレタス、肉と卵とかを挟めば、炭水化物、ビタミン、タンパク質が揃って摂れますよね。「しっかり栄養もあるじゃん」と思いながら食べていました。

■ 今後の目標は?
五輪や世界選手権に出る強化選手、ジュニアのトップ選手の指導を行い、日本全体が強くなるように仕向けていきたいという気持ちが凄く強いですね。

村上さんが今食べたい菌勝メシ

コメント

現役時代は食事の栄養バランスや、練習終了後1時間以内に食事をとることを意識していました。また便秘体質なので、食物繊維の豊富なきのこは現役時代から貴重な存在。きのこが入ったハンバーグは疲労回復にもなりますし、ヘルシーで食べ応えのある点も良いですね。

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profile

村上 茉愛

(むらかみ まい)

1996年8月5日生まれ、神奈川県相模原市出身。
小平第3小学校―武蔵野東中学校―明星高校―日本体育大学―日体クラブ

3歳の時に母親に勧められ体操を始める。小学校時代から池谷幸雄体操倶楽部に所属し、数々のジュニア競技会で多くの優勝を飾り、14歳の時には全日本種目別選手権のゆかで優勝し脚光を浴びる。また、9歳の頃、阿川佐和子原作のTBS系スペシャルドラマ『ウメ子』 (2005年12月5日放送) に、薬師丸ひろ子、深田恭子等と共に主役の河合ウメ子役として出演した経歴を持つ。

2012年に明星高等学校に入学。同年の全日本種目別選手権のゆかで2度目の優勝を果たす。2015年に日本体育大学に入学し、2016年リオデジャネイロオリンピック団体総合に出場しメダル獲得にあと一歩と迫る4位入賞に大きく貢献した。

2017年はカナダ・モントリオールで行われた世界選手権種目別のゆかで、日本女子としては63年ぶりとなる金メダルを獲得。2018年はワールドカップ東京大会、全日本選手権個人総合で3連覇、NHK杯個人総合で2連覇。さらにカタール・ドーハでの世界選手権個人総合で日本女子初の銀メダルを獲得。2021年の全日本体操個人総合選手権とNHK杯でも連続優勝し、東京オリンピック代表の座を掴んだ。

東京オリンピックでは、女子個人総合で日本人歴代最高順位となる5位入賞を果たすと、個人種目別ゆかでは日本の女子で史上初となる銅メダルに輝いた。2021年10月、世界選手権種目別のゆかで2度目の金メダルを獲得し現役引退を表明。引退後は次世代を担う後進の育成の他、メディア出演や体操の普及活動に励んでいる。

協力:THE DIGEST

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