きのこふしぎ発見

火星にきのこの家が建つ?人類の宇宙進出を助けるきのこの力

2022.08.01
火星にきのこの家が建つ?人類の宇宙進出を助けるきのこの力

宇宙を52億キロ旅した日本の探査機「はやぶさ2」やアメリカの火星探査車、ブラックホールの撮影など、広大な宇宙の話題にわくわくする方も多いのではないでしょうか。科学技術の進歩にともない、人類は活動の場を宇宙にも広げるようになりました。

今回は、人類とともに宇宙へ進出する、夢のようなきのこの研究をご紹介します。

私たちの生活の豊かさにつながる宇宙開発

宇宙ステーション建設や火星探査など壮大なプロジェクトから、私たちの生活に直接かかわりのある通信衛星やGPS衛星まで、宇宙開発には人類のために宇宙空間を役立てる活動の全てが含まれます。

宇宙開発の目的は次のような3つがあります。

①通信衛星や気象衛星など人々の生活を便利にし、文明を発展させる
②宇宙空間を解明し、宇宙の法則や生命とは何かを知る
③宇宙から地球を観測することで、地球および地球の環境を保護する

今はまだ有人ロケットの到達点は月までですが、将来、人類が地球から遠く離れて活動する日がきっとくるでしょう。そのときに活躍するかもしれないのが、きのこです。

未来の人類は宇宙できのこの家に住む?

NASAでは、将来人類が月や火星へ進出したときの住居として、きのこを素材とした成長する建造物の研究をしています。きのこなどの真菌類を構成する「菌糸」の集合体を「菌糸体」と呼びますが、菌糸体で作ったレンガは木材よりも圧縮に耐えることができ、鉄筋コンクリートよりも曲げ強さがあります。さらに耐火性があり断熱材としても優秀です。そこで休眠状態のきのこ素材の住居をコンパクトな形で運び、目的の星に到着したのちに展開、水を与えて家に育てるというアイデアが考えられています。
きのこの家は、三層のドームとしてデザインされています。

外側の層:【氷の層】太陽の放射線を防ぎます。
中間の層:【シアノバクテリアの層】氷の層から解けた水と太陽の光、二酸化炭素を使って光合成し、酸素と栄養物質を生産します。
内側の層:【きのこの層】構造物の頑丈な土台として育てられます。

さらには、菌糸体がもつ水をろ過する機能や廃水からミネラルを抽出する機能(バイオマイニング)や、生物発光による照明、湿度調整機能、自己複製・復元する能力も利用することが考えられています。まさに夢のようなマッシュ”ルーム”だといえるでしょう。

宇宙の「ごみ問題」

科学技術の向上や経済効果など、私たちの生活に多くの恩恵を与えてくれる宇宙開発ですが、問題もあります。
そのひとつが「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」です。スペースデブリとは、運用を終えた人工衛星や多段ロケットの切り離された部分、またそれらが衝突してできた破片のこと。地球の軌道上をまわっているスペースデブリの数は膨大で、地上から追跡されているだけでも、10センチ以上のもので約2万個、1センチ以上では50万から70万個、1mm以上のものでは1億個を超えるとされています。それらが軌道の高さにより秒速3キロメートルから8キロメートルという高速度で移動しているので、衝突したときの破壊力は相当です。スペースデブリの直径が10センチもあれば宇宙船を破壊するのに十分で、数センチの大きさでも致命的な損傷を与えるエネルギーがあります。

スペースデブリを軌道から動かして大気圏に再突入させるなど、スペースデブリ除去の技術開発をJAXAなど国の機関や民間事業者が進めていますが、まだ除去技術が確立されるまでには至っていません。また、大気圏に突入して燃え尽きるときに微小なアルミニウム粒子が大気圏中に残ってしまうのも課題です。

きのこで作った人工衛星?

そこで、別方面からの対策も考えられています。それは、運用終了後もスペースデブリができないような素材を使った人工衛星の開発です。京都大学と住友林業が共同で取り組んでいるのは、木造人工衛星の打ち上げを目指すプロジェクト。木造の人工衛星なら、運用終了後は大気圏に再突入することで完全に燃え尽き、アルミニウム粒子も発生しません。

この木造人工衛星に着想を得て考えられたのが、きのこの人工衛星です。菌糸体は乾燥させると軽量かつ丈夫で柔軟性があり難燃性も高いので、種類によっては木材よりも人工衛星の素材に適していると考えられます。もちろん大気圏再突入の際にも微小物質は出ません。きのこの人工衛星はまだアイデアの域を出ませんが、木造人工衛星がうまくいけば、いつかはきのこの人工衛星も打ち上げられるかもしれません。

宇宙食としても!健康に役立つきのこ

きのこを宇宙食に利用する研究もされています。宇宙空間は無重力であるため、骨粗しょう症が進む速度は地上の10倍であるといわれており、紫外線照射による皮膚でのビタミンDの生成も困難です。そこで、ビタミンDを多く含むきのこに注目が集まっており、天日干しによりビタミンDの含有量を上げたキクラゲのジェル加工品が宇宙食として開発されています。また実際にJAXAに認証された宇宙食のカレーには3種類のきのこ(マッシュルーム、エリンギ、まいたけ)が使われており、歯ごたえを楽しめるようになっています。

宇宙食のみならず、人工衛星や惑星の住居など、宇宙開発においても驚くべき活用法があるきのこ。まさにきのこは宇宙と同じく、無限の可能性を秘めているといえるでしょう。

参考文献

  1. https://www.nasa.gov/feature/ames/myco-architectur
  2. https://sfc.jp/information/news/2021/2021-08-25.html
  3. https://www.universetoday.com/150960/a-solution-to-space-junk-satellites-made-of-mushrooms/
  4. https://www.atpress.ne.jp/news/250484
生命力を食べる。 人と菌の物語

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