【きのこを旅するvol.1】世界のきのこ、その食文化を旅する!日本でも世界でも愛されるきのこは変幻自在
2023.06.01今まで、きのこの新たな可能性や、様々な形で活用されている実例をご紹介しながらきのこの奥深さを紐解いてきた「きのこふしぎ発見」。ここからは、「きのこを旅する」をテーマに、食事や芸術、文学など、より私たちの“暮らし”に密着した、世界中の様々なきのこ文化を紐解いていきます。味わいだけでなく、見た目や生態など、世界中の人々が愛してやまない「きのこ」の不思議で魅力的な世界を旅していきましょう。
今回は、日本だけではなく世界中で愛される“美味しいきのこ料理”について触れてみたいと思います。
世界ではどんなきのこ料理が食べられているのでしょうか。日本のきのこ食文化とともに、諸外国のきのこ食事情を紐解きます。
森があるところにきのこあり!山の恵みを愛してきた民族
そもそも「きのこ」というのは通称であり、本来は森林生態系において重要な役割を果たす菌類というカテゴリーの中にあります。
日本は前方に海を、後方に山を持つ独特の地勢から、「海の幸、山の幸」という言葉があります。この山の幸の代表格が、きのこというわけです。
それならば、世界中で森林周辺に住んでいる人々はみなきのこを食べていたのか、といわれれば、そうではありません。
きのこを食べる地域は意外と限られており、日本や中国を中心とするアジア圏、ロシア、北欧や地中海エリアのヨーロッパ、そしてアメリカの一部地域などなど。現代でこそ、洋食や中華料理にもきのこの登場頻度が高いため「きのこは世界中で食べられている」という印象も持たれがちですが、実は日本は世界でも有数の「きのこを愛する国」なのです。
一方、欧米に目を向けてみると、きのこの食文化を持つ代表的な国としてイタリアがあります。イタリアも日本と同じく、海と森林を持つ国。イタリア半島のきのこを食べる食文化は、キリスト教徒を介在してドイツをはじめとする欧州各地に広がったともいわれており、イタリアはまさに欧州のきのこ食文化の発祥ともいえるようです。
いずれにしても、きのこに関する記述は数世紀前までさかのぼることができます。
たとえば欧州では1世紀の古代ローマ時代の医師が、また日本では平安時代末期に記された『梁塵秘抄』という書物に、きのこの存在を見出すことができるのです。
日本の郷土料理にみるきのこ
古くから日本人が食してきたきのこは松茸、平茸、しめじなどなど。
きのこに対する日本人の美味の感覚は、昔も今も変わらないといったところでしょうか。
日本の郷土料理にはきのこを使ったものが数多く存在します。たとえば、秋田の郷土料理きりたんぽには、舞茸などのきのこが使われています。秋田県にはこのほか、里芋ときのこを主原料にした「いものこ汁」「芋煮」という料理もあります。北国の秋の空気にふさわしい、温かなきのこ料理といった趣です。
また、栃木県にも「ちたけ」というお盆の時期に採れるきのこがあり、郷土料理である「ちたけそば」に使われているほか、新潟県を代表する煮物である「のっぺ」にも椎茸などのきのこの姿を見ることができます。
現在では超高級品、その取引額が世界でも話題になることが多い松茸は、実は日本では古来最もポピュラーなきのこでした。かつては松茸はごく一般的なお惣菜の材料であり、「また松茸か」なんていう台詞もあちこちで聞かれたとか。
松茸といえば松茸ご飯やどびんむしが定番料理ですが、かつてはすき焼きや炭焼きにして惜しげもなく食べていたというから豪快です。
世界のきのこ料理
日本で食べる洋食にはきのこが用いられていることが多いのですが、本場でもきのこは安定した人気を誇ります。そのいくつかの例をご紹介します。
イタリア
たとえば、きのこ料理の発祥地といわれるイタリアを見れば、ポルチーニが有名です。
秋に出回るポルチーニは欧州の松茸といわれ、リゾットやパスタの具、フリットと呼ばれる揚げ物として供されます。
あまり知られていませんが、イタリアのきのこを使った食材の代表には、パテがあります。
パテとは、きのこを使ったクリーム状の食材です。
特にフィレンツェを州都とするトスカーナの前菜によく登場するこのパテ、パンに厚く塗ってワインと楽しみます。
フランス
美食の国、フランスといえばトリュフ。
一度嗅いだら忘れられないトリュフの濃厚な香りは、日本の繊細なきのこの風味とは対照的、いかにもヨーロッパ的な食材といえるかもしれません。
フランスを代表するトリュフを使った料理には、トゥルヌド・ロッシーニがあります。牛フィレ肉、フォアグラを使った豪奢な一皿の極めつけに、黒トリュフのスライスが乗せられているのです。きのこは肉類と相性がよいとされ、欧州ではきのこを肉料理に加える傾向がありますが、トゥルヌド・ロッシーニはその最高峰といったところ。
犬の嗅覚を頼って収穫するトリュフ、毎年の収穫量や質によって値段が上下することでも有名です。
また、日本でもよく知られるパイ料理キッシュはフランスのメニューのひとつです。
キッシュにはよく、マッシュルームきのこが具材として使われています。
スペイン
近年、日本でも人気のスペイン料理にアヒージョがあります。
オリーブオイルとニンニクをきかせたアヒージョの具材としては海鮮類が人気ですが、本場ではマッシュルームも定番メニュー。
日本の家庭でもトライできそうな一品です。
このほかにもきのこは、ピザやクリーム煮、酢漬けなどにきのこがよく用いられ、ヨーロッパでもきのこは森の恵みとして愛されていることがわかります。
アジアのきのこ料理
アジアにはどんなきのこ料理があるでしょうか。
同じアジアに属しながら、日本とは異なる食文化を持つ国々では、きのこをどのように食べているのでしょうか。
タイ
東南アジアではフクロタケというきのこがメジャーで、中華料理やエスニック料理によく登場します。
日本の椎茸、西洋のマッシュルームとならんで、世界三大きのこのひとつといわれているフクロタケ、これを使った代表的な料理が、タイのトムヤムクンです。
魚醤(ナンプラー)をはじめさまざまなスパイスを使ったトムヤムクンは、辛味や酸味が病みつきになる美味しさで、日本でもファンが多いタイ料理のひとつです。
海老やタケノコとともにトムヤムクンに使われているのが、フクロタケなのです。
中国
中華料理にももちろん、フクロタケが使用されたレシピが少なくありません。
しかし、私たち日本人になじみ深い中華料理でよく目にするきのこといえばキクラゲでしょうか。
波形の独特の形状を持つキクラゲは、中華料理には欠かせない食材としてスープや肉料理に使われています。
かつては不老長生の食品として珍重された歴史もあり、中国や台湾で栽培が盛んです。
今も昔も変わらぬ森の恵み
古来より世界各地で愛されてきたきのこ。
かつては森や山の恵みとして珍重されてきたきのこも、品種によっては栽培が可能になり、私たちの食卓に普及しているきのこもたくさんあります。
和食として繊細な味わいを楽しむのもよし、洋風に贅沢に楽しむのもよし、あるいはアジアンでエスニックなきのこを堪能するのもよし。
きのこのは和洋中、いずれの味付けでも美味しく食べられるのが嬉しいところの一つ。
食の多様化が進み、日本にいながらにしてこうした各国のきのこ料理を楽しめる時代になりました。
夏に向かい暑さが増すこの時期、皆さんはどんなきのこ料理を楽しまれるでしょうか。
栄養も豊富なきのこ料理で、元気いっぱいの身体を作っていきましょう。
参考文献
- 平凡社世界大百科事典(キノコ)
- Nuova Micologia「Storia della Micologia」
- 小学館日本大百科全書(キノコ)
- 農林水産省「いものこ汁」
- 農林水産省「ちたけとなすの油炒め(ちたけとなすのあぶらいため)」
- きのこらぼ「きのこは縄文時代から現代まで続く日本人の「食」のパートナー」
- 日林誌「戦後の家庭料理に見られるマツタケ高級化の過程」
- Skytf24「https://tg24.sky.it/lifestyle/ricette/ricetta-tagliatelle-funghi-porcini」
- Il Cucchiaio d’Argento「Risotto ai funghi porcini」
- ヘルシーでおいしい秋の味覚の代表格!作ってみたい、世界のきのこ料理10選
- 小学館日本大百科全書「ふくろたけ」
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