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きのこふしぎ発見

きのこは縄文時代から現代まで続く日本人の「食」のパートナー

2021.06.01
きのこは縄文時代から現代まで続く日本人の「食」のパートナー

「攝津名所圖會」秋里籬嶌 著述[他](1798年)

今回は、日本におけるきのこ食の歴史と今につながるふしぎについて話ししたいと思います。

縄文時代から愛されていた「きのこ」!

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4月の「きのこふしぎ発見」でもお話ししたように、きのこ類は今から1.5~2億年前には既に地球上にいたと考えられています。私たちの直接の祖先である新人類が誕生したのが今から約20万年前と考えられていますので、私たちの祖先は現在とほぼ同じ種類のきのこを山野などで見ていたことでしょう。

日本人は世界的にもきのこ好きの民族といわれていますので、恐らく様々なきのこを口にしていたと思われます。

日本人ときのこの関わりを示すもっとも古い証拠が残っているのは縄文時代です。今から約4千年前の縄文時代の遺跡から、様々な形をしたきのこ(子実体)の土器が発見されているのです。

縄文遺跡からは、イワシ、ブリ、ヒラメなどの多彩な魚類、クルミ、クリなどの堅果類、イネ科植物などを縄文人が食料にしていた痕跡も見つかっています。

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「キノコ形土製品」秋田県北秋田市伊勢堂岱遺跡出土
高さ5.2cm(最大)縄文時代(後期)・前2000〜前1000年
秋田・北秋田市教育委員会蔵(秋田県立博物館保管)

その中でも縄文人がなぜきのこ型の土器を作ったのか?どのように利用されていたのか?は想像するしかありません。しかし、様々な形をしたきのこの土器が造られていたことから、食べられるきのこを見分ける食品サンプル的な用途があったのかも知れません。何にせよ、種々のきのこ類も縄文人にとって貴重な食料だったに違いありません。

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歴史書に最も多く登場するきのこは何でしょう?

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B松茸

日本人ときのこの関わりは、古文書からも推定することができます。例えば、万葉集や古今和歌集に松茸を題材にした歌が詠まれているように、古くから日本人にとって特別なきのこだったようです。
「また松茸か」などの記載もありますので、現在よりも豊富に発生していたのかも知れません。奈良時代から室町時代にかけては、松茸が最も多く文献に出てきますので、当時の日本人の人気ナンバーワンのきのこだったのだと思います。
江戸時代になると、庶民が松茸狩りをしている様子を描いた図(摂津名所図会「松茸狩り」)がありますし、料理本(本朝食鑑)にも記載があります。現在は高根の花になってしまった松茸も、江戸時代は今より普通に食べられていたきのこだったのかも知れません。

きのこの人工栽培の歴史を知ろう!

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松茸とともに実は、椎茸も古くから書物に多く登場しています。

ここでクエスチョン!

椎茸の人工栽培が始まったのはいつからでしょうか?

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答え

A江戸時代

椎茸が書物に登場し始めたのは、江戸時代からです。江戸時代初期の17世紀中頃から、日本で椎茸の人工栽培が始まったことが、理由の一つと言われています。

当時の椎茸の人工栽培は、倒した樹木に傷を入れ、そこに胞子を落とす方法でした(ナタ目式栽培)。それでも生産量は増加し、主に乾燥椎茸として利用されていたようです。乾椎茸は中国にも輸出され、日本産は中国でも人気があったようです。国内で広く流通されるようになったのは江戸時代からですが、普段の食事に使われることはあまりなく、正月などの特別の日の料理の食材だったようです。

現在主流の菌床栽培は昭和から

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現在のきのこ栽培の主流である菌床栽培は、昭和3年にエノキタケで開発されたのが始まりです。戦後になって、これまで原木で栽培されていたナメコやヒラタケでも菌床栽培がされるようになりました。

そして、1970年代に入ってからは、ブナシメジを始めとする様々な種類のきのこで菌床栽培が行われるようになりました。人工栽培が始まる以前、自然の恵みだった野生きのこは秋の味覚のひとつでしたが、今では栽培きのこのほとんどは四季を問わず店頭で手に入る食材になっています。

現代人のきのこの摂取量はどのくらい?

令和元年度の国民健康・栄養調査によると、日本人のきのこの摂取量は約17g/日(約120g/週)です。

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日本で一人あたり一番きのこを摂取している県はどこでしょうか?

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C長野県

長野県は、きのこの生産量も全国第1位です。こちらは全国生産量の約3分の1を占めるほど。そして長寿県としても有名です。その理由にはきのこが深く関わっているかもしれません。

きのこの適切な摂取量はいくらなのかは意見の分かれるところですが、現状よりもっと多く食べた方が私たちの健康維持などにとって有益だと思われます。その考えの参考になる以下のような疫学的データがあります。

最もきのこの消費量が多いとされる長野県において、エノキタケ栽培家庭(エノキタケ摂取量約240グラム/週)のがん死亡率は、長野県全体の死亡率に比べ有意に低いという疫学的データがあります。特に、食道がんや胃がんの死亡率が低かったようです。

また、エノキタケ栽培家庭の中でも、エノキタケをあまり食べないグループ(月に3回以下)に比べると、積極的に食べるグループ(週に3回以上)では、がんの死亡率は約半数だったことが示されています。

また、近年「第六の栄養素」として注目を集めている「食物繊維」もきのこに豊富に含まれています。腸内環境を整えたり、脂質や糖質の吸収を穏やかにしたりという働きがあり、健康維持には欠かせない栄養素。腸の善玉菌のエサとなって善玉菌を増やすのにも役立つので、できるだけ毎日食べると良いですね。

古代からあらゆるかたちで日本の食卓を彩り続ける「きのこ」

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きのこは、その多様な種類、栄養素の高さ、幅広く料理に使用できる柔軟な食材である特徴から、縄文時代から日本人の「食」に関わり、日本の食文化とともに歩み続けてきました。はるか古代から、現在、毎日の食卓を彩るきのこを見て、「縄文時代の人もこのきのこを食べていたんだ…長い歴史の間、人の健康を支え続けてきたきのこが今、目の前に並んでいる…」と思うと、どこか不思議な浪漫を感じます。

profile

福田正樹 教授

信州大学 農学部 農学生命科学科 応用きのこ学研究室
人類にとって有益なきのこを、遺伝資源を栽培食用として効率的に利用するために、きのこ遺伝資源の系統解析やバイオテクノロジーを利用したきのこの育種技術の研究・開発などを行う。

生命力を食べる。 人と菌の物語

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