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きのこふしぎ発見

パワーアップしたきのこで人の健康を支える! 進化し続ける新しい「きのこづくり」

2021.09.01
パワーアップしたきのこで人の健康を支える! 進化し続ける新しい「きのこづくり」

店頭に並んでいるきのこを見ると、同じ種類のきのこでも色や形、大きさに違いがありますよね。例えば、栽培エノキタケは白色のものがほとんどですが、最近はブラウン色のエノキタケも見かけるようになってきました。
このようなきのこの形態の違いは、きのこの栽培環境にもよりますが、栽培に使用されている「品種」によっても変わります。
栽培きのこには多数の品種があり、品種によって収量性、きのこの大きさ、色などの性質が異なります。今回は、きのこの品種改良がどのように行われているかをご紹介します。

野生株の中に潜む優良品種を探す!

野生株の中に潜む優良品種を探す!

4月のきのこふしぎ発見でもお話ししたように、きのこは1.5~2億年前には既に地球上に誕生していたと考えられています。現在発生している野生のきのこは、地球環境が様々に変化する中、それぞれの地域の環境に適応したものが、長い年月を経て自然の中で選抜されたものといえます(きのこふしぎ発見5月参照)

自然環境に適応する野生株がある、ということは、野生株の中には人工栽培に適したものも存在している可能性があります。実際に、6月のきのこふしぎ発見でお話しした「きのこライブラリー」の中から、栽培に適したものが選ばれて品種なった例もあります。優良な遺伝資源を導入して利用する、また遺伝資源をもとに自国の風土に適した品種を選びだす育種方法は、「導入育種」と呼ばれています。

様々な組み合わせで交配して優良品種きのこをつくる!

5月にもお話ししましたが、きのこが子孫をつくり、再びきのこになるまでのライフサイクルは下の図のように行われます。

ライフサイクル

「二次菌糸」が増殖した状態で、気温や湿度などの条件が揃うと、普段私たちの見ているようなきのこ=「子実体」を形成します。つまり、子実体を形成する能力を持っているのは交配してできた二次菌糸であり、どの一次菌糸同士を交配させて二次菌糸をつくるか、がとても重要になってきます。このとき、遺伝的な違いが大きい一次菌糸同士を交配させると、より様々な品種が生まれる可能性があるため、優良な品種が得られる可能性が高くなります。

このように、一次菌糸同士を人為的に交配して、その中から優良な二次菌糸を選抜する方法を「交配育種」といいます。
現在店頭に並んでいる栽培きのこの品種は、この交配育種により品種改良されたものがほとんどです。

ここでクエスチョン!

スーパーでよく見かける次のきのこのなかで、一つだけ「交配育種」を中心とした品種改良によって誕生したきのこではないものがあります。それはどれでしょう?

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正解

正解

不正解

不正解

答え

Cマイタケ

マイタケの遺伝子は変異しやすいことから、一般的に導入育種により栽培されています。(交配育種も行われていますが、導入育種が一般的です)

きのこにも性別があった!無数の交配を繰り返し、生み出される新しいきのこ

ライフサイクル
※交配試験の例:異なる一次菌糸を接種して25℃で約2週間培養したもの(菌糸体コロニー周辺部に二次菌糸が形成されている)

きのこにも人間と同じで「性」があり、性(交配因子)が異なる一次菌糸の間でなければ交配しません。まずは、きのこの性(交配因子)の仕組みはどのようなものなのか簡単に説明します。

きのこの交配の可否は、1種類の交配因子(A因子)によって決まるもの(ナメコやマッシュルームなど)と、2種類交配因子(A因子とB因子)によって決まるもの(シイタケやエノキタケなど)があります。交配因子には通し番号を付け、A1、A2などのように表します。
例えば、A1を持った一次菌糸とA2を持った一次菌糸の間では交配可能ですが、A1を持ったもの同士やA2を持ったもの同士では交配は起こりません。

また、一見、交配の確率は50%のように思えますが、実際にはかなりの確率で交配します。その理由は、A因子の種類が多数あるからです。例えば、ナメコでは少なくとも63種類のA因子(A1~A63)が存在すると推定されています。

つまり、任意の組合せで交配すれば、A因子が異なる確率は98%(62/63×100)以上ですので、高い確率で交配できることになります。さらに、これにB因子が加わると相当数の交配因子の組合せが存在することになります。

例えば、北海道の野生シイタケには152種類のA因子と205種類のB因子が存在すると推定されていますが、この数を基に算出すると、シイタケの交配因子の組合せ数は、31,160(152×205)にもなります。このように、多くの組み合わせで人為的に交配株を作出することができますが、作出した多数の交配株を繰り返し栽培試験して,それらの中から優良なものを選抜するには長い時間が必要です。

突然変異で品種改良されることも!

Fresh white and brown Shimeji mushroom in a bowl, Asian mushroom

ここでクエスチョン!

突然変異を利用し品種改良されたきのこの代表例は以下のどれでしょう?

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正解

正解

不正解

不正解

答え

Dエノキタケ

突然変異を利用した品種改良の代表例は、エノキタケをはじめとする白色系のきのこの開発です。

野生のエノキタケは元々ブラウン色のきのこです。近年はブラウン色の栽培エノキタケを店頭で見かける頻度も多くなってきましたが、実は、以前はブラウン色であったためにあまり食卓になじめず(諸説あります)、光をあまり当てない環境下で栽培することで着色しないようにしていました。

しかし現在では、作業のしやすい明るい環境下で栽培しても着色しない(色素を合成する遺伝子が変異した)白色系の品種が開発され、それらが使用されています。

また、きのこは人工栽培過程において、胞子飛散による栽培施設の汚染が問題になる場合もあるのですが、それを防ぐために、エリンギなどでは胞子を形成しない突然変異株も開発されています。

きのこのさらなる進化を探求する品種改良

ライフサイクル

品種改良では、どのような性質の品種を育成するか、つまり育種目標の設定を大切にしています。これまでの育種目標は、主に生産者や市場のニーズ(収量性や形態など)によって決められてきたようです。しかし、現在は美味しさや栄養面の機能性なども重要視されるようになってきました。

これはひとえに、今までは食卓に並ぶ機会の少なかったきのこが、品種開発や栽培技術の向上により安定栽培されるようになり、食材の一つとして馴染み、愛されるようになったことで、よりよいきのこを求める人が増えたことの結果ともいえるかもしれません。

そのような時代背景に加え、健康志向が高まる現代においては、今後さらに美味しさや栄養面の機能性についてより優れた品種が開発されるようになるでしょう。きのこの育種目標は、時代の流れとともにこれからますます多様になることが予想されます。よりおいしく、より健康価値の高まったきのこで、これからの未来が更に明るくなることを願いながら、これからも日夜研究が続いていきます。

profile

福田正樹 教授

信州大学 農学部 農学生命科学科 応用きのこ学研究室
人類にとって有益なきのこを、遺伝資源を栽培食用として効率的に利用するために、きのこ遺伝資源の系統解析やバイオテクノロジーを利用したきのこの育種技術の研究・開発などを行う。

生命力を食べる。 人と菌の物語

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