きのこふしぎ発見

きのこの遺伝資源が未来の私たちの新たな力に?!カギは「きのこライブラリー」

2021.08.01
きのこの遺伝資源が未来の私たちの新たな力に?!カギは「きのこライブラリー」

食卓を彩り、人の健康を支え続けるきのこ。きのこにはまだまだ未知の力を秘めていると研究が日夜続けられています。一方、環境汚染などで絶滅の危険もすぐそこまで迫っており、きのこの遺伝資源を後世に残す重要性にも注目が集まっています。今回は、そんなきのこの遺伝資源に迫ります!

さまざまな分野での活躍が期待されるきのこのパワー!

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きのこは、食用や薬用としてだけでなく、将来的にバイオマス変換や物質分解など、多方面に利用できる可能性がある、利用価値の高い貴重な「遺伝資源」でもあります。

例えば、薬用としては皆さんご存じの通り、和漢薬や漢方薬、レンチナンなどの抗腫瘍剤、健康維持をサポートするサプリメントなどがあげられます。また、バイオマス変換の具体的な例としては、樹木中の多糖類(セルロースなど)の糖化や、エタノール発酵などへの利用が考えられ、また、きのこによってダイオキシンなどの環境汚染物質が分解できる可能性も研究されています。

このように、きのこには私たちの生活を豊かにする可能性が多大にあり、きのこは潜在的な価値のある貴重な「遺伝資源」といえます。

しかし、森林の減少や環境汚染に伴う生態系の変化などによって、太古の昔から地球上に存在してきたきのこの遺伝資源が次第に失われていく危険性があります。

ここでクエスチョン!

IUCN(国際自然保護連合)作成の「絶滅の恐れのある野生動植物の種のリスト」にあるきのこはどれでしょう?

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正解

正解

不正解

不正解

答え

Cマツタケ

近年、「絶滅の恐れのある野生動植物の種のリスト」にマツタケが加えられました。

既に活用されている種だけではなく、将来利用が期待できる種や絶滅の恐れがある種なども広く対象にして、それらを遺伝資源として集める、すなわち「きのこライブラリー」を収集しておくことが大切です。

きのこライブラリーを集めることできのこの利用価値はさらに高まる!

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同じ種類のきのこでも、菌株によって性質が異なります。例えば、栽培きのこの育種(遺伝的形質を利用して改良し、有益な品種を育成すること)の際、様々な性質の遺伝資源を収集しておけば、栽培形態や消費者のニーズに適った栽培品種を開発することも可能になります。

逆に、育種素材となる遺伝資源が少ないと、栽培品種の画一化や、特定の病害による被害が拡大する原因にもなります。

育種素材の遺伝的多様性を確保するためにも、変異に富んだ遺伝資源をできるだけ多く収集することが人ときのこの未来には重要です。

また種内においてより多くの変異を得るためには、それぞれのきのこの分布範囲について調査するとともに、可能な限り広範囲から野生株を収集することが大切です。また、子実体の発生温度に差が認められる種では、同じ地域からも時期を変えて収集することで、より多くの変異が得られる可能性があります。

日本と外国のシイタケは遺伝的に同じ?

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ところで、東洋人と西洋人のような遺伝的な違いが、きのこの遺伝資源にも存在するのでしょうか?ここでは、きのこの地理的分布と遺伝変異の関係について、シイタケを例に紹介したいと思います。

野生のシイタケは、日本や中国などの東アジア地域、パプア・ニューギニアなどの東南アジア地域、ニュージーランドなどのオセアニア地域に分布しています。

ここでクエスチョン!

以下の国のうち、日本の野生シイタケと遺伝的に異なる野生シイタケが生息している国はどこでしょう?

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正解

正解

不正解

不正解

答え

DA〜Cの全て

パプア・ニューギニア、ニュージーランド、ネパール、すべての国のシイタケがそれぞれ異なります。

シイタケ野生株間の遺伝的関係を推定するために、DNAレベルの解析が行われています。その結果、日本、パプア・ニューギニア、ニュージーランド、ネパールのそれぞれの地域の野生シイタケは、互いに遺伝的に大きく異なる自然集団を形成していることが示されています。恐らく、地理的に遠く離れた集団間では自然交配する機会がなく、それぞれの地域ごとに遺伝的に固有な集団を形成しているのだと思います。

一方、日本国内の野生シイタケについては、北海道から九州までの広範囲から収集されたものが調査されていますが、地域による大きな差は認められていません。同様の関係は、日本産のヒラタケやナメコなどでも示されています。このことは、きのこの胞子が広範囲に飛散し、遺伝子が広く拡散していることを連想させます。

1本の木の中でも違う?!多様なシイタケの遺伝資源

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それでは1本の木に発生した野生のシイタケには遺伝的差異があるのでしょうか?

きのこ採取に出かけると、同じ種類のきのこの子実体が同時に複数発生している腐朽木をしばしば目にします。それら野生株を遺伝資源として採取する場合、それらが遺伝的に同じものか否かについては頭を悩ませるところです。仮に、発生している子実体が全て単一菌株に由来する個体(ジェネットとします)であれば、それらの中から1個体だけ採集すればよいですし、逆に互いに異なるものならば遺伝資源として個別に採集する方が望ましいからです。

きのこのジェネットのテリトリーの大きさは、それぞれのきのこの生態によって大きく異なります。寄生性のきのこの単一ジェネットのテリトリーは意外に広いことが知られています。

5月のきのこふしぎ発見でもお話したように、顕著な例は樹木の病原菌として有名なナラタケ属のきのこで、単一ジェネットが15ヘクタールの範囲にもおよぶ例もあります。

一方、シイタケなど木材腐朽性きのこの単一のジェネットのテリトリーはそれほど広くありません。

ここでクエスチョン!

シイタケなどの木材腐朽性きのこの単一のジェネットのテリトリーの大きさは大体どのくらいでしょうか?

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正解

正解

不正解

不正解

答え

B1メートル

1本の自然倒木(約8メートル)から同時に採取した野生シイタケの例では、交配因子やミトコンドリアDNAのタイプによって6つのジェネットに分けられています。また、単一のジェネットのテリトリーの大きさは、概ね直径約1メートル程度でした。つまり、1メートル以上離れた位置には遺伝的に異なる野生株が存在することになります。

さらに、1本の自然腐朽木の約8メートルの範囲から採集した野生シイタケ18菌株間の遺伝変異の幅が、北海道から九州までの日本の広範囲の地域から採集した野生シイタケ38菌株の間の遺伝変異の幅より若干小さいだけだったことが、ミトコンドリアDNAの構造比較により示されています。

このように、1本の自然倒木などの狭い範囲にも、ある程度変異に富んだ野生株が存在している場合があるので、遺伝資源収集の際には留意しています。

残念ながら、ここで紹介した野生シイタケのような調査が行われている種はあまり多くありません。今後、きのこの地理的分布と遺伝変異の関係などを明らかにしていきながら、きのこライブラリーの収集や有効利用方法を模索していくことが、私たちの未来をより豊かで持続的なものにすることに繋がると思います。

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福田正樹 教授

信州大学 農学部 農学生命科学科 応用きのこ学研究室
人類にとって有益なきのこを、遺伝資源を栽培食用として効率的に利用するために、きのこ遺伝資源の系統解析やバイオテクノロジーを利用したきのこの育種技術の研究・開発などを行う。

生命力を食べる。 人と菌の物語

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