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きのこふしぎ発見

【きのこを旅するvol.6】漫画や絵本そして映像作品の中に登場するきのこ

2023.11.01
【きのこを旅するvol.6】漫画や絵本そして映像作品の中に登場するきのこ

11月に入り、寒い日が少しずつ増えてきました。日によっては外出するのがおっくうになり、日照時間も短くなったために、家で映画鑑賞や漫画を読むための時間が増えているかもしれません。

こうした映画や漫画、絵本の中にも、さまざまなシーンできのこが登場しています。きのこの不思議さが作者の創作意欲をかきたて、そして、わたしたちの想像力をもかきたてているのかもしれません。

今回は、きのこが登場する絵本、漫画、映像作品を紹介します。お子さんのいらっしゃる方は、今回ご紹介する作品を、ぜひ親子で楽しんでみてください。

絵になる食材?絵本に登場するきのこ

まずは「絵本」にフォーカスしていきます。
世界で最初の絵本は17世紀中ごろのロンドンで誕生し、幼年期の子どもへの教育目的で絵が使われたと言われています。身近な存在であり見た目も特徴的なきのこは、教育的観点からも有益だったのかもしれません。今回は日本をはじめ、世界中で読まれている作品を2つご紹介します。

ウラジミール・ステーエフ『あめのひ きのこは…』

あめのひ きのこは…

(原作:ウラジミール・ステーエフ/再話:ギンズバーグ/絵:ホセ・アルエーゴ、エーリアン・デューイ/訳:厨川圭子/出版:偕成社)

はじめに紹介するのは、世界中で読まれている絵本『あめのひ きのこは…』。
本作品は、ありやねずみ、うさぎなどの動物たちがきのこの下に雨宿りに来るというおはなしで、きのこを中心に繰り広げられる動物たちのやり取りが愛おしい作品です。
ウラジミール・ステーエフ(1903-1993)はソ連(現在のロシア)の絵本作家であり、世界で最初のアニメーション映画を1930年代に創作した人物でもあります。ステーエフのような芸術の世界で成功した人もきのこに着目していたことがわかります。

ジビュレ・フォン・オルファース『もりのおひめさま』

もりのおひめさま

次に紹介するのは、100年近く読み継がれている、ドイツの古典傑作絵本『もりのおひめさま』。本作品は、小さなおひめさまの動物やきのこの精霊たちとの日々をみずみずしく描いたおはなしです。
以前のコラムで、宗教画や静物画にきのこがしばしば描かれていることを紹介しました。『もりのおひめさま』の作者である東プロイセン出身のジビュレ・フォン・オルファース(1881-1916)も宗教画で生計を立てていた美術の先生であり、それゆえ、作品中にも多数のきのこのイラストが登場しています。

こどもたちも楽しめる児童文学や漫画の中のきのこ

絵本に続いて、次は児童文学や漫画の世界を見ていきましょう。
小学校に入学し、国語を勉強し始めて、読み書きができるようになったこども向けの児童文学や漫画にも、きのこをテーマにした作品が数々登場しています。

セルマ・ラーゲルレーブ『ニルスのふしぎな旅』

ニルスのふしぎな旅

『ニルスの不思議な旅』はスウェーデンの子どもに、自国の地理を学ばせるために作られた冒険物語です。
作者であるセルマ・ラーゲルレーブ(1858-1940)は女性初のノーベル文学賞作家であり、本作品はアニメ化されたこともあり知っている方が多いかもしれません。作中にベリーときのこが植生しているシーンが登場しますが、スウェーデンではこれらの生物を採集するのが人気であり、同時に暮らしの一部でもあることが象徴されています。

エレノア・カメロン『きのこ星たんけん』

本作品は、エレノア・カメロン(1912-1996)のSF「きのこ星シリーズ」の一つ。本シリーズでは、地球から五万マイル離れた第二の月「きのこ星」を舞台にしており、「きのこ星」は多種多様のキノコ類で覆われ、緑色の小人たちが暮らしています。
『きのこ星たんけん』は作った宇宙船できのこ星に向かい、現地を探検するおはなしで、有人での宇宙探査が多数計画されている現在を予見する内容となっています。エレノア・カメロンはカナダ出身の児童文学作家で、こども向けのSFとして同書を執筆しました。

エルジェ『ふしぎな流れ星』

(『ふしぎな流れ星』作:エルジェ/訳:川口恵子/出版:福音館書店)

『ふしぎな流れ星』は、ベルギー出身の漫画家エルジェ(1907-1983)が描いた『タンタンの冒険』シリーズの一つで、本シリーズは80ヵ国以上に翻訳されるなど世界中で愛されている漫画です。
『ふしぎな流れ星』は、タンタンが北極海に落下した隕石の調査に向かうおはなし。巨大なきのこを発見してタンタンが驚くシーンを表した表紙のイラストが印象的です。

白土三平『栬𨊂𠎁潢(いしみつ)』

『栬𨊂𠎁潢』は日本のきのこ文学の中でも有名な作品で、『カムイ伝』など忍者をモチーフにした劇画作品で有名な白土三平(1932-2021)の短編集です。
不老不死の薬草「イシミツ」の正体を探るおはなしで、平安時代から江戸時代にかけて4編構成となっています。本作品内の解説によると、動物に寄生するノムシタケ属のきのこに近い存在であることが示唆されています。

つげ義春『初茸がり』

こちらも有名なきのこ文学作品の一つで、初茸がりを楽しみにする少年と祖父の姿を描いた作品です。
つげ義春(1937-)が白土三平と一緒に温泉宿に宿泊し、初茸がりに出かけた際に思いついた作品といわれています。『ガロ』1966年4月号に掲載された初期作品で、つげ義春の作風が形作られた時期の作品だと位置づけられています。

新國みなみ『きのこくーちか』

きのこくーちか

続いて、現代の漫画作品をご紹介します。『きのこくーちか』(2015-2017連載)は京都のロシア雑貨店でバイヤーとして働くワーニャと、きのこアーティストのゆん太がルームシェアすることになったところから始まる、所謂「ゆるーい」おはなしで、各話でひとつのきのこがテーマとなっています。
ロシア雑貨店の名前が、「ダーチャ」という(きのこ狩りのための)週末の別荘のロシア語だったり、タイトルの「クーチカ」がロシア語で仲間を意味したりするなど、きのこに関係しそうなことばを探すだけでも楽しめる作品です。

SF小説にもきのこの存在が!

続いて、大人向けの小説作品を見ていきましょう。SF小説の中にもきのこをテーマにした作品があります。

ウィリアム・H・ホジスン『夜の声』

まずご紹介するのはウィリアム・H・ホジスン(1877-1918)の『夜の声』。ウィリアム・H・ホジスンは19世紀のイギリスの怪奇小説作家で、『夜の声』はきのこに覆われた島の怪奇談です。1963年に公開されたきのこをモチーフとした映画『マタンゴ』という映像作品の原案ともなっている作品です。

レイ・ブラッドベリ『僕の地下室へおいで』

続いてご紹介するのは『僕の地下室へおいで』というSF作品。本作品は、ある少年に届けられたきのこを通じて、家族、ひいては人類が蝕まれてしまうというおはなしで、のちに日本の漫画家・萩尾望都が漫画化しています。
作者であるレイ・ブラッドベリ(1920-2012)は代表的な初期のSF作家のひとりであり、『華氏451度』などの作品で知られています。なお、本作品に登場する「マラスミウス・オレアデス」は、実在する食用のきのこです。

映画やTV作品に登場するきのこ

最後に、映像作品についてご紹介します。
ファンタジーからドキュメンタリー、SF作品まで、きのこの特性をモチーフにしたさまざまな映像作品が登場しています。今回は、中でも話題となった現代作品2作品をご紹介します。

『素晴らしき、きのこの世界』(2019)

素晴らしき、きのこの世界

菌類学者のポール・スタメッツの著作をもとにしたドキュメンタリー映画です。
菌類が土の中に作る菌糸体ネットワークがほかの生物に及ぼす影響や、免疫力向上といった人体への薬理作用など、きのこの不思議なパワーについて多角的に紹介されます。ハイスピード撮影したきのこの成長していく姿の美しさを鑑賞するだけでも大いに楽しめる作品です。

『スター・トレック・ディスカバリー』(2018~)

1960年代に開始したSFテレビドラマシリーズの続編で、科学調査宇宙船「ディスカバリー」号を中心に船員たちや宇宙人たちとの戦争を描いています。
本作品の重要な要素として「胞子ドライブ」という菌類を利用した長距離瞬間移動を実現する装置が登場しますが、その研究している宇宙菌類学者として、上述のポール・スタメッツと同姓同名のキャラクターが登場します。現代科学の要素が数多く取り込まれている作品となっており、きのこのもつパワーをファンタジックに描いているともいえます。

まとめ

様々な文学作品をみていくと、きのこのもつ可愛らしさや不思議さ、地球環境に与える偉大さなどが、文学の世界や奇怪な世界、SFの世界とマッチしたからこそ、様々な作品に「きのこ」が登場しているのだと伺えます。
家で過ごす時間が増えるこの時期、食材として「きのこ」を楽しむだけではなく、様々な時代を生きる様々な作者の視点から描かれた「きのこ」の世界にも触れ、楽しんでみてはいかがでしょうか。

参考文献

  1. A Brief History of Picture Books (Publishers Weekly)
  2. Science, Fiction, and Fungi: What The Last of Us Gets Right (Tor.com)
  3. A History of Science Fiction: Ray Bradbury & Arthur C. Clarke (Central Rappahannock Regional Library)
  4. Mycelium Running: The Book That May Reveal Where Star Trek: Discovery Goes Next Season (Tor.com)
  5. 3 Real-Life Inspirations For The ‘Star Trek: Discovery’ Spore Drive (Forbes)
  6. 『素晴らしき、きのこの世界 : ヴィジュアル版 : 人と菌類の共生と環境、そして未来』
  7. 『白土三平論』
  8. 『つげ義春を旅する』
  9. 『「ニルスのふしぎな旅」と日本人』
  10. 『きのこ文学ワンダーランド』
  11. 「きのこ文学の方へ(第6回)マタンゴ、恐怖の「キノコ人間」」(『文學界』2010年6月号)
生命力を食べる。 人と菌の物語

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