プロアスリートを支える食事に迫る。第41回 アーティスティックスイミング・三井 梨紗子さんインタビュー
2024.04.01アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場するのは2016年リオデジャネイロオリンピックのアーティスティックスイミングで、デュエットとチームの銅メダルに輝いた三井梨紗子さん。2012年ロンドンオリンピックにもチーム最年少の18歳で出場するなど、10代からトップで活躍してきた三井さんに、現役時代の苦労や活躍を支えてきた食事へのこだわりをお聞きしました。
はじめに、アーティスティックスイミングを始めた頃のことを教えてください。
3歳の時に水泳を始めて、小学校3年生でアーティスティックスイミングに転向しました。最初に通っていたスイミングスクールでは4泳法(自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ)を泳げるようになって大会にも出たのですが、母の目にはあまり競争が得意ではないと映ったようで、母がアーティスティックスイミングの体験会を見つけてくれて参加したのがきっかけです。
どんなところが楽しかったのですか?
演技を作ることや自分を表現することですね。音楽に乗りながら表現を磨いていくところも魅力でした。
小学校5年生の時に、全国から有望な選手を集めてアーティスティックスイミング選手を育成するための「エリート教育メンバー」に選出。その後はジュニアの日本代表を経て、高校2年生で日本代表に選ばれましたね。最年少での代表入りとなりましたが、その時を振り返っていかがでしょうか。
自分は泳ぐことがあまり得意ではなく、体力もなくて、ジュニアで通用していたこともシニアでは通用しないことが山のようにありました。どうやって差を埋めれば良いのだろうと悩みながらも、先輩方に引っ張ってもらい、可愛がってもらいながら、気づいたら1、2年が経っていたという感じでした。
2012年のロンドンオリンピックにはチームに最年少で出場。その後2013年から井村雅代コーチの指導を受けるようになりましたね。井村コーチと言えば指導の厳しさには定評がありますが、実際はどうでしたか?
最初は怖くて目も合わせられなかったのですが、その時からチームに加えてデュエットも泳ぐことになっていたので、そんなことは言っていられませんでした。
井村コーチのすごいところは何を聞いても答えが返ってくることです。質問をすると、「それはこういうことだから、こういうトレーニングをしてみなさい。それができなかったらまた聞きに来なさい」と明確な指示を出してくださいます。自分でも変化に気づけるようなトレーニングを指示してくれましたし、「何でも聞いて来なさい」と言ってくれたので、それにもすごく助けられました。
2016年のリオ大会、デュエットでは乾選手と組んでの出場で銅メダル。どんなコンビでしたか?
乾選手が得意なことと、自分が得意なことが全く逆だったんですよ。私と乾選手は互いにうまく補い合えるようなパートナーだったので、それで自分も上手になることができたと思います。
リオまでの日々はロンドンと違いましたか?
ロンドンの時は焦ったまま行った感じなのですが、リオまではしっかりと準備ができていました。毎日、「これがリオの決勝でもいい」と思うような練習を積み重ねていたので、むしろ早くリオに行きたかったくらいです。
今だから話せることなのですが、試合の前日、乾さんと夜寝る前に2人で「明日の結果がどうなろうと、自分たちはやり切ったからいいよね」「負けてもちゃんと相手にCongratulations(おめでとう)と言いに行こうね」と話せて、それがすごくホッとした瞬間だったんです。この時間があったことで、本番前の練習をやる時もスイッチがうまく入って自分たちの演技にすごく集中できました。
ここからは食生活についてお聞きします。子どもの頃はどのような食生活でしたか?
幼少期から食べることがすごく好きで、好きなものを好きなだけ食べていましたが、小学校5年生の時に「エリート教育メンバー」に選ばれて、その時に初めて栄養指導をしてもらったんです。そこで基本的な知識をいろいろと教わってからは栄養を理解して食べ物を選ぶようになっていきました。ちょうどオリンピックを視野に入れ始めた時期でもあって、どの食材にどういう栄養素が入っているのかとか、女の子だからこういうものを摂った方が良いよとか、色味や飲み物のチョイスなども含めていろいろなことを気にしながら食事をするようになりました。
特に意識していたことはありますか?
鉄分をしっかり摂ることですね。ほうれん草やひじき、レバーなどを意識的に摂るようにしていて、色味に関してもブロッコリーやトマトなど、赤い色や濃い緑など緑黄色野菜を意識的に摂ることでビタミンをしっかり補給するようにしました。合宿ではいつもビュッフェなので、野菜の色を見て選んでいました。飲み物はオレンジジュースが好きで牛乳をあまり飲んでいなかったのですが、朝ごはんに牛乳とオレンジジュースを両方飲むと決めて摂っていました。
大学生になってからはチームだけでなくデュエットにも出場するようになったので、食事もさらに変化したのではないでしょうか?
大学生になってからは練習の内容もハードになりましたし、高校生の頃は太りやすかったのですが、大学生になると体重が落ち着いて、むしろ痩せやすくなっていったんです。私は筋肉質な方なので食べても食べても痩せていきやすく、栄養士に相談して必要なカロリーを細かく指導してもらいました。
だいたい何カロリーくらい摂取していたのですか?
1日4500~5000キロカロリーです。ご飯は朝昼夕とも300グラム以上。メインは魚と肉を両方食べて、夜は夕食のほかに寝る前に夜食を食べていました。合宿ではホットプレートを用意してくれていて、痩せやすい選手は寝る前にも切り餅をホットプレートで焼いて食べるのですが、多い日は5個。深夜12時くらいにみんなでプールサイドで食べて次の日を迎えるということをしていましたね。
小学生のうちから栄養を意識していたということですが、「きのこ」も食事に取り入れていましたか?
小学校5、6年の時から栄養指導を受けていましたから、早い時期からきちんとした料理を食べる環境にはありました。そこにきのこを使った料理も組み込まれていたので、自然と食べていました。でもきのこはもともと好きで、焼き肉に行っても椎茸などは必ず注文して焼いて食べたいです。焼いて醤油をかけて食べることもよくありますね。
現役時代、どんな時にきのこをよく食べていましたか?
たくさん食べなくてはいけない時期なのに胃が弱っているときなどには、きのこに助けられていたと思います。それと、胃の調子が悪い時は、最初は温かいお味噌汁から食べ始めて、次にサラダや野菜やきのこ、肉はその後に食べるなど、順序も意識して食べていました。アーティスティックスイミングは水の中の競技なので常に体が冷えますから、お味噌汁などの汁物はいつも食べていました。
引退後にご結婚して現在はお子さんもいらっしゃいます。ご家庭できのこを使う料理は作りますか?
きのこのお味噌汁はよく作りますし、カットされているしめじを冷凍庫に常備して頻繁に使っています。豚肉と卵であえて炒めて、オイスターソースで味付けする料理は嵩(かさ)も増えてヘルシーだし、作るのも簡単。重宝しています。
また、今もエキシビションなどで泳ぐ機会もあるので、体作りは意識しています。現役時代と同じように食べていると太ってしまうので、カサを増やしながらも低カロリーで、なおかつ食物繊維もしっかり入っている「きのこ」は今も重宝しています。
最後になりますが、現役時代、厳しい練習に取り組むために何か意識していたことはありますか?
練習も勉強も継続が大事ですが、自分を甘やかしてあげる時間を作るのも必要かなと思います。すごく怒られてメンタルをやられたとしても、それは自分を高めるために言ってくれた言葉だという捉え方をして、それをできたら必ず自分にご褒美を与えてあげようとか、できなかったら次にどうしたらいいかをもう一回考える時間を作ろうとか、そういうことを意識していました。悔しさは時に一番役に立つパワー源になります。悔しい思いを消化できる時を待つためにパワーを蓄えるという気持ちで辛さを乗り越えられたらいいなと思います。
きのこらぼ限定公開 INTERVIEW
食生活に関して、スポーツを楽しむアスリートの方へのアドバイスをお願いします。
おそらく今のアスリートは栄養のことを調べようと思えばすぐ調べられると思います。中でもジュニア時代は体作りの大切な時期です。食は子どもから大人まで、アスリートとして考えなきゃいけない重要なポイントだと思うので、まずは食に興味を持って欲しいです。
それと、体調は自己管理がすごく重要です。アーティスティックスイミングではケガは比較的少ないですし、外傷はそもそも起きにくい競技ではありますが、それでも疲労がケガにつながることもあります。私自身は高校生の頃、リフトの土台をやっているときに肋骨が疲労骨折したことがありました。それもあって、食事を大切にしていただきたいですね。
三井さんの Do my best,GO!
■座右の銘は?
一番好きな言葉は「挑戦」です。オリンピックに出場した時もそうでしたが、自分が成長できている時は挑戦し続けている時だと思っています。
■思い出のシーンは?
一番はリオデジャネイロオリンピックのデュエットです。チームとデュエットの両方に出たのですが、デュエットが先の日程でした。日本はウクライナと3位争いをする状況で、私たちが先に泳いでウクライナが後。ミックスゾーンのモニターで井村先生と私と乾さんと3人でウクライナの点を見て、私たちの方が上でメダルが確定した瞬間、私も乾さんも「良かった!」と膝から崩れていました。井村先生だけは万歳していたんですよ。
■リフレッシュ方法は?
お風呂ですね。合宿をしていたJISSには大浴場があって、どんなに夜遅くなってもシャワーで済ませることなく、意識的に大きいお風呂に行くことにしていました。お風呂で会う違う競技のアスリート仲間と話す時間がリラックスできる時間でした。
■今後の夢・目標は?
引退後に大学院で博士号を取り、今は大学でコーチングとスポーツ心理学の研究をしています。私の博士論文のテーマは「エキスパートコーチ」と呼ばれる、日本代表などトップレベルの選手を育てているコーチについての研究です。エキスパートコーチと呼ばれる人には、どんな世界が見えているのか、それを研究しています。アーティスティックスイミングが好きなので、普及や競技の課題の改善をするような仕事をしていきたいです。
■三井さんにとってアーティスティックスイミングとは?
この競技に出合わなかったら今の自分はありません。成長するきっかけをくれたものですし、これからの人生にも絶対に欠かせないものです。
三井さんが今食べたい菌勝メシ
コメント
現役時代は腸内環境を意識しながら、食事のバランスや量、食べ方を大切にしていました。きのこはヘルシーで腸にも良いですし、オムレツは現役時代から良く食べていたので、きのこなど具材がたくさん入ったオムレツは色んな栄養がバランスよくとれて良いですね。
きのこの具だくさん骨太オムレツ
きのこに豊富なビタミンDはカルシウムの吸収を高めるため、カルシウムの豊富なチーズやしらすと合わせることで骨づくりを助けます。また、卵に豊富なタンパク質も骨の材料となるため、アスリートの身体づくりやケガ予防におすすめです。
profile
(みつい りさこ)
1993年9月23日 168センチ 東京都新宿区出身
小学校3年からアーティスティックスイミングを始め、2010年に高校2年生で日本代表入り。2012年に日本大学へ進学し、2016年に卒業。同年9月に引退した。2022年に博士号(教育学)を取得し、現在は日本大学医学部の教壇に立ちながら、コーチ・講演活動・解説のほか、日本オリンピック委員会アスリート委員として幅広く活動している。
協力:THE DIGEST
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