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きのこふしぎ発見

菌類ネットワークが地球を救う!? 思考や会話…徐々に解明されてきたきのこの生態

2023.05.01
菌類ネットワークが地球を救う!? 思考や会話…徐々に解明されてきたきのこの生態

以前にご紹介した記事の中で、菌類と植物とは持ちつ持たれつの共生関係にあることをお話ししました(詳しくはこちら>)。菌類は、土の中の窒素やリンといった栄養分を植物に与える一方で、自身が生存するために必要なエネルギーとして植物から光合成産物を貰っています。

近年、このような互恵関係を成立させるために重要な、菌類が植物の根の周辺に張り巡らせたネットワークの研究が進んでおり、菌類の作るネットワークは、菌類どうしの交流にとどまらず、植物をも巻き込んでいることが明らかになっています。

今回のコラムでは、菌類が形成するネットワークについてお話していきたいと思います。

多種多様な菌類がもつ役割

そもそも菌類とはどのような生物なのでしょうか。
菌類は、植物や動物と同様に、細胞内に「細胞核」という遺伝情報を含む「真核生物」の一種で、きのこやかび、酵母などが菌類に含まれます。このような菌類は、動物と同じく自分自身では栄養を作ることができない従属栄養生物で、植物よりも動物に近い生き物です。
菌類はさらに、栄養を摂取する方法によって、植物の根の周辺で共生している「菌根菌」や、落ち葉や樹木を分解する「腐生菌」などに分類することができます。菌根菌は、植物の根に付着し、土の中まで伸ばした菌糸から養分を取り込んで、植物に供給します。菌根菌のきのことして、マツタケやホンシメジ、テングダケなどが挙げられます。

野生のマツタケ。地中に菌根を形成し木と共生している

野生のマツタケ。地中に菌根を形成し木と共生している

これに対して、腐生菌は、植物や動物の死骸などの有機物を分解して栄養を取り込むとともに、養分を土に還すことができます。中でも木材腐朽菌と呼ばれる菌類は、植物の主成分であるセルロースやリグニンといった、植物の細胞壁の主成分である物質を分解する働きがあり、植物は大量の炭素を貯蔵することから、植物を分解する木材腐朽菌は特に炭素循環において重要な役割を果たしています。腐生菌にはマッシュルームやアミガサタケなどが挙げられ、木材腐朽菌のきのこにはエノキタケやシイタケ、エリンギなどが挙げられます。

菌類の集合体が「思考」を実現する

さらに近年になって、菌類は個体が独立して生息しているのではなく、ほかの個体と協力して生息していることを示す研究が次々と発表されました。例えば、アメーバの一種である原生粘菌は、多く集まると変形体を形成することが知られていますが、この変形体を迷路の中で培養し、2つの地点に餌を用意したところ、粘菌は2つの餌場を最短経路で結び、餌を獲得することが実験で明らかになりました。また、粘菌の内部には栄養物が流れる管があり、栄養物の流れが活発になるほど管が太くなります。これにより栄養物を効率よく輸送することができるようになるため、粘菌の変形体がもっとも良い経路を導き出せるのだそうです。

野生のマツタケ。地中に菌根を形成し木と共生している

真正粘菌の変形体の写真
引用:「粘菌変形体における環境依存的な輸送ネットワーク形成」

菌類のネットワークは、器官どうしの結びつきだけにとどまりません。スエヒロタケなど4種類のきのこを用いた研究では、個体どうしが菌糸から電気信号を送ることで、コミュニケーションを取っていることも明らかになっています。電気信号を解析した研究グループによると、単語の総数が50以上、1語あたりの平均文字数が5.67の言語に相当するようです。1語あたりの英語の平均文字数が4.8、ロシア語の平均文字数が6であるのと比較しても、菌類は非常に複雑な言語を扱えるのかもしれません。

野生のマツタケ。地中に菌根を形成し木と共生している

菌類から電気信号を取得する様子
引用: 「Language of fungi derived from their electrical spiking activity」 

明らかになった菌類と植物のネットワーク

こうした菌類が作るネットワークは植物をも巻き込み、菌糸を通じて信号を伝達することが確認されています。

菌根菌は植物の根に入り込むと、植物と共生するために菌糸を張り巡らせて「菌根」を形成しますが、菌根からさらに菌糸が伸びることで、同じ種の別の植物や異なる種の植物の根にまで達します。このように菌糸の範囲が拡大することで、土の下には菌糸のネットワークが形成され、植物と植物を結ぶこの菌糸のネットワークのおかげで、植物が光合成によって生成した栄養分がほかの植物へと転流されるのです。

もっとも、菌類と植物とは最初から共生していたわけではありません。植物は菌類が存在しなくても光合成によってエネルギーを自給することが可能です。菌類は自らエネルギーを摂取できないため、多く集まることでこうした植物にとって有利に働くネットワークを形成しました。多くの養分を貯蔵する仕組みを作ることで、互恵関係を築き上げてきたのです。植物もまたほかの種の植物との生存競争に生き残るために、この菌類が作るネットワークを利用していったことで、菌類と植物とが共生できるネットワークが張り巡らされるようになりました。植物の中には、菌類から養分を貰うだけで光合成をやめた種さえ存在しており、菌糸ネットワークの強力さが伺えます。

このように、菌類のネットワークにはまだまだ未知なる可能性が潜んでいるのかもしれません。

まだまだ可能性の多い菌類ネットワーク

これまで、私たち人間は、食べることを通じてきのこから多くの恩恵を受けてきました。そのことは、約1万数千年前の遺跡から食用きのこが発見されたことからも証明されています。しかし今、私たち人間は、菌類のネットワークを利用して人工森林を植生するなど、菌類との関係をさらに拡げようとしています。

菌類と植物とが織りなすネットワークの理解が深まることで、動物、植物、菌類といった生物全体がよりよく地球と共生する未来が訪れるかもしれません。

参考文献

  1. 「生物の系統と新しい分類体系・第9回 菌類」, 『遺伝』(2013年), Vol. 67, No. 3
  2. 「粘菌変形体における環境依存的な輸送ネットワーク形成」, 『植物化学最前線』(2022年), Vol. 13
  3. 「外生菌根菌ネットワークの構造と機能」, 『土と微生物』(2011年), Vol. 64, No. 2
  4. 「菌類がはぐくむ森」, 『エコソフィア』(2005年), Vol. 16  
  5. 「光合成をやめ、菌類に寄生する植物の謎を解く」, 『milsil』(2021年), Vol. 14, No. 3  
  6. 「Language of fungi derived from their electrical spiking activity」, 『Royal Society Open Science』(2022年), Vol. 9, No. 4
  7. 「Net transfer of carbon between ectomycorrhizal tree species in the field」, 『Nature』(1997年), Vol. 388.
  8. 「Can the wood-wide web really help trees talk to each other?」, BBC Science Focus(2020年)
生命力を食べる。 人と菌の物語

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