人と菌の物語

歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密
第12回「なんとなく不調」の 原因「腸疲労」を解消するきのこの秘密

2021.03.01
歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密<br>第12回「なんとなく不調」の 原因「腸疲労」を解消するきのこの秘密

美味しくヘルシーなきのこ。「菌類」であるきのこは、私たちを食卓で楽しませてくれるだけでなく、人類が誕生する遥か昔から地球に存在し、生態系の循環や生物の進化を助け、豊かな地球環境を創り上げてきた存在でもあります。

また、ヒトの体の中で最も菌が存在する場所は「腸」。古来の動物は「腸」しか持っていなかったともいわれるほど、腸は脳や全身と密接に繋がっており、人体の健康を司っています。その「腸」を守っているのが、きのこ等の菌類や腸にいる腸内細菌です。

このコラムでは、地球の生命誕生に深く関わり、古代より地球環境を整えてきた微生物の物語や人体ときのこの関係をわかりやすく紹介していきます。

人と菌の物語 過去の記事はこちら

今月のテーマは「腸疲労」。

文明が発展する一方で、現代はストレスフルな社会になりました。とりわけ都市部においては、はっきりとしない慢性的な疲労やメンタルの不調に悩む人も多い。それらの原因は腸、そして腸内環境にありました。

現代社会が引き起こす「腸疲労」とは

1990年代からのインターネットの発展で高度情報化社会となり、スマートフォンが普及したことで急激にグローバル化が進む現代。自宅にいながら世界中の人やモノと繋がることができる便利な世の中になった反面、匿名での攻撃やハラスメント、SNS依存などストレスを感じる局面も増えています。また、先行きが不透明な社会や老後への不安、新たな感染症の脅威といった心労の種も尽きません。

そんなストレスフルな現代社会では、常に体がだるい、疲れやすい、眠れない、なんだかイライラする……といった「なんとなく不調」を感じている人も多いのではないでしょうか? その原因のひとつは「腸疲労」にあります。

もともと腸とストレスは深い関係にあります。腸にはたくさんの神経細胞が集中しており、脳が感じたストレスは自律神経や脊髄を通してすぐさま腸に伝わります。すると、善玉菌など人間の身体に良い働きをする腸内細菌が減少し、心身の不調に繋がります。そこに不規則な生活リズムや暴飲暴食、添加物まみれの偏った食事が加わることで「腸疲労」が引き起こされるのです。

腸が正常に働かない「腸疲労」の状態になると、便秘や下痢だけでなく、第6回第9回でも紹介したように腸はヒトの免疫機能の大部分を司っていることから、免疫不全に陥り、アレルギー疾患にも繋がります。

さらに、セロトニン、ドーパミンといった「幸せ物質」とよばれる脳内神経伝達物質の産生能力が低下。ドーパミンと腸の深い関係は第7回でもお伝えしましたが、ヒトの心身を平穏に保つセロトニンの9割が存在するのも腸。それが不足すると、自律神経が乱れ、腸管の運動も乱れることから腸内環境が悪化し「腸疲労」につながる……といった悪循環に陥るのです。

腸内細菌が心と身体を元気にする!

こうした「腸疲労」を防ぐためには、腸内細菌を増やし、腸内環境を整えることがなによりも大事。そのバロメータであり腸内環境の良し悪しを垣間見ることができるのが便なのです。便の半分は腸内細菌が占めており、大きい便が出れば腸内細菌自体が腸内に多い状態、さらにその形や匂いなどで便の良し悪しが判断できます。良い便とは、味噌ほどの硬さのバナナ状。はじめは水に浮かび、ゆっくり沈んでいくと良い状態です。

そこで腸内環境の理想とされるバランスは、善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割。善玉菌が悪玉菌より少し優勢な状態になると、日和見菌が善玉菌に加勢し腸は良好な状態に。善玉菌が消化吸収をより促進し、腸内の腐敗を防ぎ、悪玉菌の動きを阻止して病原菌や有害物質が増殖しないように働きます。

また腸内細菌は免疫システムの作用を支え、免疫細胞がよく働くように刺激してくれます。免疫機能に関係する身近なアレルギーといえば花粉の季節のムズムズ。その症状は「腸疲労」によってTh1、Th2という免疫細胞のバランスが崩れることで引き起こされますが、腸内環境を整えることによって改善が期待できます。

さらに、腸内細菌が増えると心の健康に大きな影響を与えるセロトニンやドーパミンの産生が活性化されます。セロトニンはトリプトファン、ドーパミンはフェニルアラニンといった前駆体である必須アミノ酸からつくられます。その前駆体がつくられるのに必要なビタミンB6やナイアシンなどのビタミン類は、体内で腸内細菌だけが合成できるので、腸内細菌が正常に働くことで、セロトニンやドーパミンの産生が増え、心身が安定し、更に腸内環境も整い・・と良い循環が生まれます。

季節の変わり目で自律神経が乱れやすくなったり、花粉の飛散がはじまるこの時期は特に「なんとなく不調」が起こりやすい時期。腸内細菌を増やすことが、不調対策や心と体の健康に繋がるのです。

きのこは腸内環境改善を支えるサポーター

その腸内環境を整える方法として最も大切なのが日々の食事です。腸内環境を整えるには、腸のぜん動運動を活発にする不溶性食物繊維と腸内の有害物質の吸収を阻止し、便通を促進する水溶性食物繊維の摂取が不可欠です。どちらも便秘の解消や生活習慣病を予防する作用があることは、このコラムでも紹介してきました。また、食物繊維は腸の善玉菌のエサになって、腸の中にいる善玉菌を増やす手助けもしてくれます。

その水溶性、不溶性食物繊維を多く含み、腸内の免疫細胞にダイレクトにはたらきかけてくれる食物繊維のβグルカンも豊富な食べ物といえば「きのこ」です。それだけでなく、きのこには心の健康に欠かせないセロトニンやドーパミンの合成にかかせないビタミンB6やナイアシンも含みます。

現代は「なんとなく不調」が起こりやすい=「腸疲労」が起こりやすい環境と言えますが、その「腸疲労」の改善につながる腸内細菌を活性化させ、腸内環境を整えるうえ、心の調子も整えてくれるきのこは、私たちの健康的な毎日に欠かせない頼れるパートナーなのです。

監修:藤田 紘一郎
東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。東京医科歯科大学名誉教授。NPO自然免疫健康研究会理事長。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『原始人健康学』『水の健康学』『パラサイト式血液型診断』(新潮社)、『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『免疫力を高める快腸生活』(中経の文庫)、『アレルギーの9割は腸で治る!』(だいわ文庫)など著書多数。

希望に満ちた未来に寄り添う“きのこ”

このコラムでは、ヒトときのこの切ってもきれない関係を、地球や人類の歴史、そして人体との深いかかわりを通して紹介してきました。

きのこをはじめとする菌類は、人類が生まれる遥か昔、何度も生物の絶滅の危機を救いながら、地球の物質循環を整え、今日に繋がる豊かな生態系を築いてきた存在。

一方でそのきのこは、人体において欠かすことのできない器官「腸」を整える存在でもあり、腸は、免疫機能の7割を司るだけでなく、腸内細菌を整えることで生活習慣病予防に大きな役割を果たし、美と健康長寿を助けてくれています。

地球環境にとって不可欠な菌類の代表格、きのこは人体の健康を守る上でも欠かすことはできず、美味しいだけではなく、いつの日も、そしてこれからもヒトの良き相棒であり、希望にあふれる未来に寄り添ってくれるでしょう。

出典

  • ・藤田紘一郎,腸を鍛えればストレスは消える!,竹書房,2014年
  • ・藤田紘一郎,消えない不調は「腸疲労」が原因 最強の免疫力のつくり方,だいわ文庫,2018年
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

きのこらぼに無料会員登録をしていただき、ログインした状態で記事をご覧いただくとポイントがもらえます。
貯まったポイントは、プレゼント応募にご利用いただけます。