人と菌の物語

歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密
第9回 腸が「若さ」を左右する?!美と健康を司る「腸」の秘密

2020.12.04
歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密<br>第9回 腸が「若さ」を左右する?!美と健康を司る「腸」の秘密

このコラムでは、きのこなどの菌類や細菌類が地球の生命誕生に深く関わり、古代より地球環境を整えてきたことや、私たち人間の身体との深い関係をわかりやすく紹介していきます。

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今月のテーマは「若さ」にも関わる腸内細菌と代謝の関係。

現代社会に生きるヒトは、排気ガスやストレスなどが原因で発生する老化物質「活性酸素」に阻害されやすい環境で暮らしていて、健康的な若さを保つのが難しくなっています。そんな環境で“人生100年”時代を元気に過ごすには、腸内環境と「きのこ」がカギを握っていました——。

ヒトの代謝を低下させる「活性酸素」とは

私たちヒトの体内では、摂取した食べ物などを体内で分解して栄養素とし、それを身体の各組織に送って脳や内臓、血液、皮膚、髪、体脂肪などの細胞を新しくつくる「新陳代謝」が行われています。人体を構成する細胞は約60兆個。その中では、常に新陳代謝が行われ、古いものが新しいものに入れ替わりながらカラダを正常に若々しく保っています。

代謝力が低下すると、老化や不健康な肌、痩せにくい体質、慢性的な冷え性などに繋がり、逆に代謝がよければ、人間は若々しく健康な状態をキープすることができます。そして、代謝を下げる主な原因が「活性酸素」にあります。

ヒトは呼吸によって取り入れた酸素を使って食事から栄養素を燃やし、エネルギーをつくりだしています。その過程で取り入れた酸素の約2%が、強い酸化作用を持つ活性酸素に変わってしまうのです。

この活性酸素には、強い攻撃力で体内に侵入したウイルスや細菌を退治するという、身体を守る上で必要な機能があります。ただ、その活性酸素が生活習慣の乱れやストレス、紫外線、ビタミンやミネラル不足といった偏った食生活などの原因で必要以上に増えると、体内の抗酸化力とのバランスが崩れ、健康な細胞まで酸化してしまい、細胞を生まれ変わらせる機能が低下してしまうので、代謝力低下の原因となるのです。

この状態を酸化ストレスといい、その防止の一助を担っているのがきのこです。

若さを左右する抗酸化物質と腸内細菌のチカラ

ヒトの身体の中には、もともと活性酸素の攻撃から細胞を守る抗酸化力が備わっています。その中心が、活性酸素の攻撃力をなくす抗酸化酵素ですが、その量や活性力は加齢とともに減少していきます。そこで、食事からとりいれる抗酸化物質を補うことで、細胞の酸化を防ぐことができるのです。

代表的な抗酸化物質は、きのこに含まれているβグルカンや、野菜などに多いビタミンC・E、ミネラルのセレン、銅、マンガンや亜鉛などが知られています。そういった抗酸化物質と、ポリフェノールやカロテノイドといった「フィトケミカル」(植物性食品由来の化学物質)を同時にバランス良く摂ることで抗酸化力の活性化が期待されます。

さらに、活性酸素を無毒化する、知られざる物質が「水素」です。
人体を形成する細胞の主成分である脂質とたんぱく質はとても酸化しやすいため水素を体内に備えておくことが大切なのですが、その水素は、実は体内では腸内細菌からしかつくることができません。

つまり、腸内環境を整えておくことが過剰に増えた活性酸素の攻撃を防ぎ、代謝を高め、若々しさを保つことに繋がるのです。

老化に加えて「退化」がアレルギーを引き起こす?!

現代の排気ガスやストレスといった環境は「老化」に繋がってしまいますが、さらに現代の“便利さ”が現代人の身体自体を「退化」させているという見方もあります。その代表的なものが、この半世紀のうちに急激に増えた花粉症などをはじめとするアレルギー。アレルギー疾患は、生活習慣病や認知症、がんなどと並び“文明の進化により人体機能が低下することで起こる”という意味から「退化病」とも呼ばれています。そして、腸内細菌はこのアレルギー反応にも深く関わっています。

たとえばスギ花粉のアレルギーの場合、スギ花粉という抗原が体内に侵入すると体内でIgE抗体が産生されます。それは普段は花粉から守ってくれる物質ですが、抗原と接触することで粘膜が炎症を起こし、アレルギーが発生します。

そのアレルギーを抑える物質が、腸内で産生されるDiAgやIgA抗体です。これらは腸内環境を整えることでその量を増やすことができ、近年の動物を使った研究でエリンギを毎日100g食べることでIgA抗体が増えることが明らかになっています。さらに、マイタケにはアレルギーの原因物質ヒスタミンの分泌を防ぐ効果が認められています。

また、腸内環境が悪いと食物アレルギーを引き起こす原因にもなります。

その代表的なものが「腸漏れ」と呼ばれる「リーキーガット症候群」。
現代は食料が豊富なため、偏った食生活を送っていると腸内環境が乱れ、悪玉菌が増えます。その状態が過剰になると腸粘膜の再生にも深く関与する善玉菌などの腸内細菌の数が減り、小腸の粘膜に穴が開いて、腸内にある多くの物質が血液中にあふれ出ます。その「腸漏れ」が食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、自己免疫疾患などの発症や、風邪などの感染症にかかりやすくなるリスクを高めるので、腸内環境を整えておくことが、これらのリスクを回避するカギとなるのです。

太古の昔と比べれば、現代は格段に便利になりました。
日々の生活の中で知らず知らずに起こっている「老化」や「退化」などのマイナスな状況に打ち勝つには、どちらも「腸」が深く関わっているのです。

きのこは代謝アップに欠かせない存在

そういった腸内環境はきのこが含む食物繊維によって整えられ、活性酸素を無毒化する水素を発生させることで代謝アップにつながります。

腸内環境を整えることで、若々しさを保てる理由は他にもあります。たとえば酵素の働きを支え「体の潤滑油」といわれるビタミン。私たちの腸はビタミン類を合成する機能は持っておらず、食べたものから腸内細菌によって合成されます。その中でもきのこに含まれるビタミンB2は、「発育のビタミン」という別名を持ち、健康的な肌や髪、爪をつくり、細胞の再生やエネルギーの代謝を助けます。

さらにビタミンB2は、肥満予防に欠かせない栄養素でもあり、食事に含まれる脂質をエネルギーに変えて、体の活動に使われるのを助ける働きもあります。

また、きのこや一部の細菌のみが生成できるアミノ酸の一種、エルゴチオネインには強い抗酸化作用があります。化粧品にも抗酸化剤として含まれ、動物実験では紫外線による肌のダメージを軽減することが明らかにされており、紫外線による肌のシミやシワ、たるみ等の老化を防ぐ働きがあると考えられています。

毎日のように食卓に並ぶきのこが、腸を整えることに加え、いつまでも自分らしく健康でいられるための代謝を円滑にしてくれている存在だと知ると、より一層身近に、そして美味しく感じられますね。

監修:藤田 紘一郎
東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。東京医科歯科大学名誉教授。NPO自然免疫健康研究会理事長。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『原始人健康学』『水の健康学』『パラサイト式血液型診断』(新潮社)、『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『免疫力を高める快腸生活』(中経の文庫)、『アレルギーの9割は腸で治る!』(だいわ文庫)など著書多数。

参考文献

生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

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