人と菌の物語

歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密
第10回 人生100年時代を健康に生きる「長寿」と「腸」の関係

2021.01.01
歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密<br>第10回 人生100年時代を健康に生きる「長寿」と「腸」の関係

このコラムでは、きのこなどの菌類や細菌類が地球の生命誕生に深く関わり、古代より地球環境を整えてきたことや、私たち人間の身体との深い関係をわかりやすく紹介していきます。

人と菌の物語 過去の記事はこちら

今月のテーマは「健康長寿」。

“人生100年時代”といわれる現代。ただ長生きするだけでなく、健康を保ち最期までいきいきと暮らすためには、腸を健康に保つことが不可欠。腸を健康に保つことで脳などの臓器に良い影響を与えることは今までご紹介してきたとおりですが、実は、それぞれの臓器へのパイプとなる「毛細血管」も健康長寿には不可欠であり、その毛細血管の健康も、腸が握っていました。そして、この二つの器官に健康をもたらすのが、「きのこ」なのですーー。

毛細血管は若さを守る最前線!

腸は消化、吸収だけでなく、第6回で紹介したように人体の7割もの免疫細胞が集中する器官であり、食べものと一緒に外から侵入してきた病原体などの外敵から私たちの健康を守ってくれています。さらに腸にいる腸内細菌は、身体の機能を調整する生命活動にかかせないビタミンやミネラルを作り出します。更に、老廃物の排出も担う腸が正常に働き、体内の老廃物がしっかりと排出され腸がきれいになれば、血液が浄化され、栄養と酸素が充分に身体の各所に運ばれますが、全身の若々しさを保つには、腸の健康に加えて腸で吸収した栄養素を臓器へ運ぶ「毛細血管」が健康になり、更に全身の若々しさが保たれるのです。

大人の身体内のすべての血管をつなぎ合わせると、その長さはなんと約10万キロメートル!単純計算でなんと地球を2週半できる距離です。そのうち毛細血管は99%を占め、体のすみずみまではりめぐらされ、細胞の活動を支えています。

その主な働きは物質の交換です。毛細血管の小さな隙間から血液が少しずつもれることで細胞の一つひとつに栄養と酸素、水分を供給。その一方で老廃物や二酸化炭素、余分な水分を回収し、正しい場所に「ゴミ出し」をします。約37兆個の細胞から構成される私たちの体を支えている毛細血管は、腸と同様に若さを守る最前線なのです。

老化は二つの「もれ」が原因だった!?

健康のために重要な働きをしている腸と毛細血管ですが、生活習慣の乱れやストレス、加齢などにより、これらが傷いてしまうことがあります。

まずは,その一つが、前回も紹介した「腸もれ」です。腸もれとは小腸の腸壁表面を覆う上皮細胞の間に目にみえないほどの小さな穴が空くことで引き起こされます。その隙間から小腸にある腸内細菌や未消化の栄養素、毒素、腐敗物、ガスなどが血液にもれ出し、血管に炎症を起こすことで下痢や便秘などの消化管の不調だけでなく、疲労感や頭痛、糖尿病やがんの原因になるなど身体にとって様々な悪影響が起こります。

もう一つは毛細血管が傷つくことで起こる「ゴースト血管」。毛細血管は、非常に繊細なつくりをしていて、わずかな刺激で傷つき、壊れてしまいます。すると血液が流れなくなり、放置するといずれ消えてしまう。その現象を近年では「ゴースト血管」と呼びます。そうなると毛細血管によって酸素や栄養を届けてもらう細胞は老化し、健康に重大な影響を与えることになります。

一般的に毛細血管は45歳頃から衰え、ゴースト化がはじまると考えられています。それは、正常時にはぴったり隙間なく密着している毛細血管の内外の細胞の連結がゆるみ、余分な血液がもれる「毛細血管もれ」や、過度に浴びすぎる紫外線、糖尿病などが原因で進行します。

毛細血管もれは見た目を老化させるだけではなく、十分な栄養と酸素の供給や老廃物の回収を妨げるため、脳にもダメージを与え、認知症を引き起こします。認知症で患者数がもっとも多いのがアルツハイマー病。それはアミロイドβ(ベータ)とタウたんぱく質という「ゴミたんぱく」が脳内にたまり、脳の神経細胞が死んで減少し、脳が萎縮することで発症します。本来、便として「ゴミだし」されるたんぱく質が毛細血管もれによって脳内に捨てられ、引き起こされるのです。

そのため、この二つの「もれ」を改善することが、長寿のカギとなるのです。

腸内細菌が生む短鎖脂肪酸のすごいチカラ

老化の原因となる「腸もれ」と「ゴースト血管」の改善には、腸内フローラのバランスを整えること、腸壁のバリア機能を回復させること、そして体内で起こっている炎症を抑制することが大事になってきます。

この3つを同時に実現できる成分といわれているのが、体内では腸内細菌だけが作ることができる「短鎖脂肪酸」。短鎖脂肪酸とは、酢酸や酪酸、プロピオン酸などの総称で、腸の蠕動運動と、腸を様々な外敵から守る粘液を分泌するという大事な2つの働きをサポートし、腸壁を守ります。さらに、免疫の力を上手にコントロールして、体内で過剰な炎症反応が起こらないようにする作用も持っています。

短鎖脂肪酸は、大腸内の腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を分解・発酵する際に生じる物質です。
つまり、食物繊維をとることは腸の善玉菌を増やして腸を整えることに加え、短鎖脂肪酸の産生を増やして健康長寿につながるということなのです。
このようにして腸が整い、短鎖脂肪酸がしっかりと産生されることで、腸もれそして、ゴースト血管につながる毛細血管もれの予防にも役立つのです。

よく噛んで食べる!きのこが健康長寿を支える

食べ物の過剰摂取や、着色料や香料、乳化剤など化学合成された食品添加物を多く含む加工食品は腸の粘膜にダメージを与えます。特に保存料や日持ち向上剤などが腸に頻繁に入るようになると腸内細菌は数が減ってしまうのです。

そのどれもが飽食の現代社会において、日本人の食生活に深く入り込んでいるものばかりですが、低糖質で低カロリー、そして腸内フローラを整える食物繊維が豊富なきのこを食生活に上手に取り入れることは、健康長寿の現代を生きるカギとなります。

また、きのこをよく噛むことは、腸内細菌の弱体化の原因や、毛細血管へのダメージとなる活性酸素を減少させることができます。噛むことが刺激となって分泌される唾液には、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシダーゼという抗酸化作用のある酵素が含まれ、食事の時は一口につき、1回1秒、約30回ほどよく咀嚼することで唾液が分泌します。添加物や喫煙などの影響により口腔内で発生する活性酸素が減少することで、腸内細菌が元気になるだけでなく、毛細血管の質も高めてくれるのです。

寒い時期は血行不良や筋肉が緊張することで腸も乱れやすくなります。冬の寒い時期の定番である温かいスープや鍋をはじめ様々な料理にきのこを入れて食べることで、自然と健康的な身体作りが可能に。
すべての健康の要である腸の健康を保ち、健康長寿にも寄与しているきのこは、私たち人間にとって欠かすことのできない人生のサポーターでもあるのです。

監修:藤田 紘一郎
東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。東京医科歯科大学名誉教授。NPO自然免疫健康研究会理事長。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『原始人健康学』『水の健康学』『パラサイト式血液型診断』(新潮社)、『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『免疫力を高める快腸生活』(中経の文庫)、『アレルギーの9割は腸で治る!』(だいわ文庫)など著書多数。

出典

  • ・藤田紘一郎,腸で寿命を延ばす人、縮める人,ワニブックス,2018年
  • ・藤田紘一郎,アンチエイジングの切り札! 毛細血管は「腸活」で強くなる,ワニブックス,2019年
  • ・藤田紘一郎,免疫力をアップする科学,サイエンス・アイ新書,2018年
  • ・藤田紘一郎,「腸もれ」があなたを壊す,永岡書店,2016年
  • ・藤田紘一郎,免疫専門医が毎日のんでいる長寿スープ,ダイヤモンド社,2020年
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

きのこらぼに無料会員登録をしていただき、ログインした状態で記事をご覧いただくとポイントがもらえます。
貯まったポイントは、プレゼント応募にご利用いただけます。