歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密
第8回 腸を整え、病から守る。きのこは健康のパートナー
2020.11.01
地球の生命誕生に深く関わり、私たちと同じルーツを持つ菌類のきのこ。
このコラムでは、はるか古代から地球環境を整えてきた菌類とヒトとの知られざるストーリーや、人体ときのこの深い関係を分かりやすく紹介していきます。
今月は、現代病である生活習慣病と腸内細菌の密接な関係、そしてそこに寄与するきのこのチカラを紹介します。
肥満予防や高血圧予防のカギを握る器官は「腸」
肥満や高血圧、糖尿病、高コレステロール(高脂血症)など、あらゆる食べ物が世にあふれ、いつでも気軽に食べられる現代社会だからこそ起きる生活習慣病。それらはサイレントキラーとも呼ばれ、本人の気付かないうちに動脈硬化を進行させます。
生活習慣病は、慢性的な運動不足、喫煙、飲酒、生活リズムの乱れや睡眠不足、ストレスなど様々な原因によって引き起こされますが、最も気をつけたいのが食生活です。
第5回で紹介したように、食べ物を消化・吸収する腸は、脳や心臓とは異なり、外界から取り込んだ栄養物が直接通過するので、ヒトが意識的にコントロールできる唯一の臓器。日々の食生活の乱れから腸内環境が悪化し、有害な物質が腸から血管を通って体内に入り、生活習慣病をはじめ様々な病気を引き起こします。
つまり、まず腸を整えておくことが大事です。そのカギを握るのが腸内細菌で、一般的にヒトが健康な状態であれば腸内細菌は、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%。このバランスが保たれていますが、その役割は腸を整えるだけではなく、さらにすごいチカラを持っていたのです。
生活習慣病に繋がる“デブ菌”が存在した!
腸内細菌が、免疫機能や脳と深く関わっていることはこの連載で紹介しました。それだけでなく、近年の研究で肥満や高血圧にも大きな影響を与えていることが明らかになってきています。
ヒトの腸内には平均200種類、100兆個もの細菌がすみついています。前段で、腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があるとご紹介しました。
その中で、日和見菌のうち、悪玉菌に加勢しやすい一部の腸内細菌が肥満を引き起こすとされ、通称“デブ菌”とも言われています。
これらは糖類を代謝する遺伝子が多く、ヒトがものを食べると、そこからエネルギーを多く代謝し、腸から吸収させる働きを活発に行います。そして体が消費しきれなかったエネルギーは、脂肪へと変換されて細胞に備蓄。それが中性脂肪となって肥満を引き起こし、やがて高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病につながるのです。
デブ菌は、ヒトが飢餓に陥った時にわずかな食べ物からでも大量のエネルギーを吸収することが本来の役割。つまり、悪玉菌と同様にヒトが生きるために必要な細菌。すべての人の腸内にすんでいてなくすことはできないので、飽食の現代ではうまく付き合っていかなければいけません。
ただその性質は日和見菌なので、常にどっちつかずでその時に優勢な菌の見方をする。つまり、腸内環境でこの菌を優勢にしない状況をつくることが生活習慣病の予防につながるのです。
糖や脂肪の吸収を抑える“ヤセ”菌と万能な短鎖脂肪酸とは?
ではどうすれば腸内でデブ菌を増やさずにすむのでしょうか。
そのためにはデブ菌のライバルである通称“ヤセ菌”を増やすことがなにより大事です。
これらの細菌は、食べ物からしつこくエネルギーを取り出すことはしないので、ヤセ菌が優勢の腸内では、肥満の原因となる糖や脂肪の吸収率が低くなります。
そして、ヤセ菌は食物繊維を消化する過程で、「短鎖脂肪酸」という物質をつくり出します。短鎖脂肪酸は脂肪を減らし、全身の代謝を活発にして肥満を防ぐだけでなく、糖尿病を直接的に改善するホルモン「インクレチン」を増やすなど、生活習慣病予防に欠かせない物質なのです。
さらに「幸せホルモン」であるセロトニンの分泌を促進してアレルギー反応を抑える「制御性T細胞」を増やし、腸のバリア機能を高め、炎症や食中毒、食物アレルギー、動脈硬化といった病気の予防にも威力を発揮。まさに、健康体を促進するオールマイティな存在なのです。この短鎖脂肪酸を増やすためにはヤセ菌を増やすことが重要です。
その細菌たちが好むのが低脂肪、高食物繊維の食事です。
素敵な賞品をGetしよう!