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人と菌の物語

歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密
第7回 腸脳相関の神秘と心身の健康に寄り添うきのこ

2020.10.01
歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密<br>第7回 腸脳相関の神秘と心身の健康に寄り添うきのこ

地球の生命誕生に深く関わり、私たちと同じルーツを持つ菌類のきのこ。

このコラムでは、地球環境を整えてきた細菌や菌類とヒトの奇跡的な関係や、きのこと人体との密接な関わりをわかりやすく紹介していきます。

第1回から第4回は、地球上での生命誕生から現代まで、地球の健康を整えてきたきのこをはじめとする菌類や細菌の知られざる物語を紹介してきました。

第1回 生命の共通祖先は「菌」だった
第2回 「菌」がいるから、人類が誕生した
第3回 きのこの進化が地球の健康を創った
第4回 神秘的な魅力を持つ“人の理解者”

そして第5回から明らかにしてきたのが体内微生物の共生関係。
第5回 免疫を呼び起こす腸内細菌と秘められたきのこの驚くべきチカラ
第6回 菌との共生が私たちの体内の循環と健康を支えている?!

今月は、脳や心の機能に関わる腸内細菌のミステリアスなパワーをみていきましょう。

生物の進化の過程で軸となっているのは腸だった!

常に物質の循環が行われているヒトの体の中で、健康状態を大きく左右する役割を担っている腸は、生物の進化の過程にも深く関わっています。

第1回で紹介したように、地球上で最初の生命が誕生したのは約38億年前。それはひとつの細胞だけでできた単細胞生物でした。そこから多細胞生物、動物へと進化するにあたって最初につくられた臓器は、心臓でも脳でもなく、実は腸だったのです。

クラゲやイソギンチャクの仲間であり、最も原始的な動物とされている腔腸(こうちょう)動物は、身体の真ん中に腸のような活動をする筒が空いているだけの構造。生物が生きていく上で、栄養の消化・吸収は最優先の活動なので、脳より先に腸がつくられたと考えられています。そこから脊椎動物である魚類になると腸の一部が変化して食道や胃ができ、両生類になると大腸が誕生するなど、進化していく中で、周囲の環境や食べ物によって腸は姿形を大きく変えていきました。

ヒトにおいても同じで、私たちがお母さんのお腹の中にいる時、最初につくられるのは腸の原型となる原腸胚(げんちょうはい)。そこから形成される腸の構造は、あらゆる動物の中で最も複雑です。それはヒトが他の動物と比べものにならないほど雑食だからこそ、腸の仕事が細分化され、複雑な仕組みに進化していったのです。

さらに、小腸の免疫細胞の活動やバランスを取るのに欠かせないのが、大腸にいる600兆個以上もの腸内細菌。小腸の免疫細胞が病原菌やウイルスと戦う前線戦士だとすると、腸内細菌は後方支援部隊。腸内細菌の状態が良好なら、前線の免疫細胞が活性化し、外から侵入する病原菌やウイルスをしっかりと撃退することができます。腸内細菌はいわば免疫界の影の立役者であり、免疫のカギを握る存在なのです。

NEXT▶腸が独自に考え、脳に影響する“腸脳相関”の神秘

監修:辨野義己(べんの よしみ)
1948年生まれ。酪農学園大学獣医学科を卒業。東京農工大学大学院をへて特殊法人理化学研究所入所 研究員。独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター・微生物材料開発室室長。現在は、同所科技ハブ産連本部辨野特別研究室特別招聘研究員。十文字女子大学客員教授、農学博士(東京大学)。受賞歴は、日本獣医学会賞(1986年)、日本微生物資源学会賞 (2003年)、酪農学園大学獣医学部同窓会「三愛賞」(2007年)、文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)(2009年)、Top Ten New Species Award (2009)
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

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