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人と菌の物語

同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係
第1回 生命の共通祖先は「菌」だった

2020.04.03
同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係<br>第1回 生命の共通祖先は「菌」だった

スーパーでは、野菜コーナーで売られていることが多いきのこ。でも本当は「野菜」じゃなくて、きのこは「菌類」に分類される生物です。じゃあ菌類ってなんだろう?菌類はいつから地球にいるの?そんな疑問を紐解いていくと、実は生命の進化の過程で、菌類が重要な役割を果たしていることがわかります。もっと言うと、緑と空気と水に覆われ、ありとあらゆる動物、生物が命を育む地球のいまの姿があるのは、菌類のおかげと言っても過言ではないほど、菌類と地球の歴史は切っても切れない関係です。

そこでこのコラムでは、きのこをはじめとする「菌」の歴史やチカラを深掘りしながら、知られざる菌類のチカラをわかりやすく解説していきます。いつもおいしく食べているきのこが、実は私たちと近い存在であり、地球の歴史にも深く関わっていた…そんな風に思うと、きのこを見る目もガラリと変わるかもしれませんね。

まずは、地球の歴史における菌類の活躍を見ていきましょう。菌類は、植物や動物が誕生するはるか昔から、地球や、すべての生命の進化を見守ってきたのです。

そもそも、「菌類」とは?

みなさんは、誰かに「菌類ってなに?」と聞かれたら、なんと答えますか?
「菌」という名前がつくものとしては、例えば、乳酸菌や納豆菌、酵母菌など様々な菌が思い浮かぶと思います。また、「菌」とつかなくても、きのこは菌類の代表的なもののひとつです。
菌類を一言で説明するのはとても難しいですが、上にあげた「菌類」は大きく二つに分けることができ、その違いとは、核膜を持たない「原核生物」と、核膜を持つ「真核生物」です。

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図左:核膜を持たない「原核生物」 / 図右:核膜を持つ「真核生物」

これらの菌が地球上の生物の進化や現在に繋がる自然環境の形成に深く関わっているのです。

地球上で最初の生物は菌だった!

地球が誕生したのは今から46億年前。当時は酸素が存在せず、強い紫外線が降り注ぎ地表は溶岩で覆われ、生物が棲める環境ではありませんでした。しかし、時間の経過とともに溶岩が冷えることで大気の状態が変化し海が作られ、38億年前頃、ついに海の中から生命が誕生しました。
当時、まだ大気に酸素はなく、海に豊富に存在したのは硫化物や炭化水素、メタンといった有機物。それらをエネルギー源として、海底の熱水が吹き出す熱水噴出孔から生まれたのは、「超好熱菌」と呼ばれる原核生物、つまり菌の一種でした。
地球上で初めて生まれた生命であり、すべての生物の共通の祖先となったのはこの菌だったのです。

菌によって生態系の基礎が築かれた

そして、海底で有機物を食糧として摂取していた原核生物は進化し、32億年前頃、光を使用してエネルギーを作り出す細菌の一群「シアノバクテリア」が生まれました。現在の陸上の植物と同じように、太陽光を利用して二酸化炭素と水から分解し、酸素を生み出す光合成のはじまりです。
その後、シアノバクテリアが大量に発生し、大気中に酸素が増え続け、やがて、今から約5億年前、大気圏の上空にオゾン層が形成され、太陽からの有害な紫外線を遮ることになり、地球環境も大きく変わっていきます。

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様々な菌が進化・誕生しオゾン層ができたことで、空が青く澄み渡る、生物が活動しやすい生態系の基礎が築かれたのです。

21億年前、人ときのこの共通祖先となる生物が誕生

シアノバクテリアが増殖して地球上の酸素濃度が高まる中、21億年前に菌は新たな進化を遂げました。動物や植物の原型となる「真核生物」の誕生です。
真核生物誕生の最も有力な説は、ある原核生物が酸素を使ってエネルギーを得る力を獲得した原核生物を取り込み進化したというものです。
これが今、私たちの体の中にもあるエネルギー供給所「ミトコンドリア」の起源となったと考えられています。効率よくエネルギーを生み出せるようにになったおかげで、真核細胞は爆発的な進化を遂げます。ある細胞はシアノバクテリアも取り込むことで、光合成を行う「葉緑体」を生成し、植物細胞へと進化し、またある細胞は独自の栄養吸収能力を獲得して進化。この細胞が人ときのこの共通祖先です。

その後、長い年月をかけて真核生物が枝分かれし、菌類が誕生します。

現在、最古の菌類は、2019年にベルギー・リエージュ大学の研究チームがカナダ・ノースウエスト準州にあるグラッシーベイ累層にて化石で発見された10億年前のものといわれています。

菌類は、菌糸から出す酵素で動物や植物の死骸の中にあるデンプンやたんぱく質といった有機物を分解し、栄養分とする生物です。この働きにより地球環境はさらに整っていくのです・・・

このように、地球上のすべての生物のオリジンをたどると、菌へ行きつきます。菌は、生命の誕生だけでなく太古より地球の進化と深く関わり、地球を生命に適した環境に整える重要な役割を担ってきたのです。

次回

10億年前にきのこを含む菌類が誕生した後、動物や植物の祖先が誕生し繁栄するまでの秘話をひも解いていきます。

【参考資料・文献】
誠文堂新光社「菌類の世界 きのこ・カビ・酵母の多様な生き方」
築地書館「カビ・キノコが語る地球の歴史」
岩波新書「キノコの教え」
脳科学メディア
国立環境研究所
日本菌学会
日経サイエンス
NATIONAL GEOGRAPHIC
SciencePotal Chine
Nature「Early fungi from the Proterozoic era in Arctic Canada」
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

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