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人と菌の物語

同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係
第2回 「菌」がいるから、人類が誕生した

2020.05.01
同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係<br>第2回 「菌」がいるから、人類が誕生した

きのこは、野菜の仲間と思われることも多いのですが、実は「菌類」です。もっと言えば、きのこをはじめとする菌類は、私たち人間と同じ祖先をもち、地球の歴史にも深く関わっています。つまり、人や生命の進化を語る上で外せない生物なんです。
そこでこのコラムでは、菌類の歴史やチカラを紐解きながら、知られざる菌類の魅力、人間とともに歩んできた軌跡を分かりやすく解説していきます。
前回は、地球誕生から生態系が形成され、そしてヒトときのこの共通祖先となる生物が生まれるまで、菌類がどう関わってきたかを紹介しました。

第1回 生命の共通祖先は「菌」だった

第2回となる今回も、はるか昔の地球へ舞台を戻しましょう。私たちが生まれるずっと前、動物や植物が次々と進化を遂げる中で、菌類はどんな役割を果たしていたのか?生態系の立役者とも言える菌類の働きを見ていきましょう。

ヒトを生み出したのはきのこの力!?

前回紹介したように、地球上の生物は細菌からはじまり、21億年前にきのこやヒトの共通祖先となる最初の「真核生物」が誕生しました。

その真核生物が、長い時間をかけて進化し、動物が誕生します。

動物の祖先となった「原生動物」は、今から約10億年前までに海の中で生まれた襟鞭毛虫(えりべんもうちゅう)の仲間の単細胞生物だったといわれています。そのような単細胞生物からたくさんの細胞が集まってできるカイメンのような多細胞動物が生まれました。、5億4千年前のカンブリア紀には、現在わたしたちが知るさまざまな動物と同じ体の構造をもった祖先のほとんどが誕生しました。いわゆる「カンブリア紀の大爆発」です。

その後、陸上に進出した脊椎動物は両生類から爬虫類や哺乳類へと進化していきますが、その進化を支えてきたのは、他でもない菌類だったのです。

みなさんは「食物連鎖」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。生物間で捕食(食べる)と被食(食べられる)を繰り返しながら食物エネルギーが循環していく関係のことです。

食物連鎖の起点となるのは、「生産者」である植物です。植物は、光合成を行って、太陽光エネルギーや二酸化炭素、窒素からデンプンやたんぱく質などの有機物を生み出(=生産)します。

それを「消費者」である動物が食べ(=消費)、栄養とします。

さらに、この植物(生産)、動物(消費)の循環に欠かせないのが、きのこなどの菌類なのです。菌類は自らの菌糸で動物や植物の遺骸を分解し、生産者の土壌となる二酸化炭素などの無機物を生み出します。

菌類は、植物とは異なり、自分では栄養を生み出せない生物なのですが、見えないところでエネルギー循環を助ける「分解者」の役割を果たしています。

見方を変えると、分解者である菌類がいたから、物質が循環し、生態系が成り立ち、様々な生命が発展、進化したとも考えられますよね。キノコなどの菌類がいなければ、植物や動物の遺体はそのまま蓄積し、新しい生命を生み出す物質が供給されなくなるのです。つまり!今ある地球の豊かな生態系はもちろん、私たち人間が生まれ、進化したのも、菌類のチカラなくしては考えられなかった、ともいえるかもしれません。

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植物繁栄を支える菌類の広大な地下ネットワーク

一方、先述したように生産者である植物は光合成によって有機物を生み出し、食物連鎖を作り出します。その生育に必要な水や養分は根から吸収しますが、その働きには切っても切れないパートナーとして菌類が大きな役割を果たしています。

菌類の中には、菌糸を使って植物の根の内外に付着して、植物が根から栄養を取りやすいように助けたり、病気や害虫から守るといった役割を担っているものもいます。植物は自らが得た栄養分を、菌糸を介してその菌類へ与えるのです。

植物が光合成に利用できる二酸化炭素は空気中にわずかしか含まれないのですが、分解者であるきのこなどの菌類が、植物や動物の遺体を分解することによってそれらを潤沢に生み出すことができるので空気中の二酸化炭素が豊かになります。こうしたきのこなどの菌類がもつ特性が植物の繁栄を支えていたのです。もしこの世にきのこがなかったら、世界中の森はあっという間に枯れ木や動物の遺骸だらけになってしまうでしょう。

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植物と菌類は、生産者と分解者でありながら、同時に、お互いが生きていく上で欠かせないパートナーでもあったのです。そしてその植物を食べることで、動物が繁栄していきます。実はわたしたちが生きる大地の下には、きのこをはじめとした菌類の菌糸が繋ぐ巨大なネットワークが存在し、植物と動物の大繁栄を支えていたのです。

<ミニコラム>多様で魅力的な古代生物たち

地球上の生物がものすごいスピードで多様化し、生命の進化が目覚ましく進んだ時代。実はその土台を作ったのが、ほかでもない菌類の存在でした。こうして、生命の進化はまさに百花繚乱のごとく、多種多様に広がっていくのです。

この頃、最初に上陸した植物と言われているのがクックソニアです。茎の先端に胞子を入れるトランペット型の袋を持っていました。

海中では、ヒトと同じくらいの大きいプテリゴトゥスなどのウミサソリ類や、全長10メートル、体長1トンあり、当時の海洋を支配した最強の古代魚ダンクスオステウスなど、今では考えられないような生物が登場。

その魚類のひれが足に進化してついに陸へと上がります。最古の陸上四肢動物といわれるイクチオステガやアカントステガといった両生類が誕生しました。

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そうした生物の進化は菌類が生態系を整えてきたからこそ生まれましたが、4億年前には、きのこの仲間である菌類プロトタクスアイティーズが広く生息し、その大きさはなんと6メートルを超えるものだったといわれています。

ヒトを生み出した“影の主役”はきのこだった!

さらに時が経ち、2億2千万年前頃に爬虫類から進化した恐竜が登場します。約1億5千万年もの間、恐竜が繁栄する時代が続きましたが、6600万年前、現在のメキシコに巨大な小惑星が落ち、その影響で恐竜をはじめとする多くの動植物が絶滅しました。

その地球上の生命の危機を救ったのも、なんときのこなどの菌類でした。

動植物の遺骸を栄養源とする菌類にとって、大量の生物の死滅は千載一遇のチャンス。隕石の衝突後に菌類が大量発生し、分解によって物質の循環が進み、次の新生代に続く哺乳類と鳥類の繁栄に繋げたのです。

その後、哺乳類が進化し、700万年前頃に最古の人類と呼ばれる猿人がアフリカで生まれたとされています。

そこから原人を経て、20万年前、ついにヒトであるホモ・サピエンスが誕生しました。

地球上の生物のルーツは菌だったことは前回で紹介しました。
それだけでなく、いつの時代も常に大地と生命に寄り添いながら、きのこなどの菌類は生命の進化を促す豊かな生態系を整えて来ました。いわばきのこは、生態系の “影の主役”、そして人類の生みの親とも言えるのかもしれませんね。

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次回

きのこの進化が生物断絶を救った?!人類誕生の礎ともなったエピソードに迫ります。

長谷川政美(はせがわ まさみ)
1944年生まれ。1966年東北大学理学部物理学科卒業。進化生物学者。統計数理研究所名誉教授。総合研究大学院大学名誉教授。理学博士(東京大学)。著書に『DNAに刻まれたヒトの歴史』(岩波書店)、『新図説 動物の起源と進化―書きかえられた系統樹』(八坂書房)、『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』(ベレ出版)、『ウンチ学博士のうんちく』(海鳴社)、『共生微生物から見た新しい進化学』(海鳴社)、『進化38億年の偶然』(国書刊行会・近刊)、など多数。受賞歴は、1993年に日本科学読物賞、1999年に日本遺伝学会木原賞、2003年に日本統計学会賞、2005年に日本進化学会賞・木村資生記念学術賞など。
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

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