人と菌の物語

歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密
第5回 菌との共生が私たちの体内の循環と健康を支えている?!

2020.08.01
歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密<br>第5回 菌との共生が私たちの体内の循環と健康を支えている?!

私たちの美味しい食卓に欠かせないきのこは、ヒトと同じルーツをもつ菌類であり、地球の生命誕生にも深く関わっている存在です。

このコラムでは、地球や生態系を支えてきたきのこをはじめとする菌類や細菌類の歴史や、ヒトとともに歩んで来た軌跡、そして人体との深い関わりを分かりやすく解説していきます。

第1回から第4回は、地球上での生命誕生から現代まで、地球の健康を整えてきたきのこをはじめとする菌類や細菌類の知られざる物語を紹介してきました。
これまでの一覧はコチラから

今回から新しいシリーズとして、体内微生物との共生関係についてみていきましょう。

ヒトは微生物なくしては生きられない!

私たちヒトの体の中に微生物がいることを、皆さん知っていますよね。
では、どのぐらいの数の微生物がいると思いますか?
実は、体の中には1000兆個ものの微生物がいる事が知られています。

ヒトは母親の胎内にいる時から少数の細菌が既にすみついていると言われ、産道を通って産まれてくる時に母親が持っている細菌を、そして母乳や食べ物、外気などとの接触を通じて様々な細菌を獲得します。そうした菌を、常在菌と呼んでいます。

常在菌は口や鼻、皮膚、胃、小腸・大腸、生殖器など体内に約1000種類存在します。その種類や組成は場所によって異なりますが、共通しているのは人体と良好な共生関係を築き、基本的には健康を守ってくれているということ。つまり、ヒトは細菌なくしては生きていけません。

体内で、常在菌が最も多い場所が腸内、とりわけ大腸に大部分の細菌がすんでいます。腸内を占めるガス成分の50%は窒素ガスで残りは炭酸ガスや水素、アンモニアで構成され、酸素がない暗黒世界。第1回で紹介したように、約38億年前、まだ酸素がなかった地球上で最初に誕生した生物は細菌であり、細菌の多くは、その生育に酸素を必要としない性質を持っています。

細菌は、大気中に酸素が増えると海中や地中、そして植物や動物の体内に逃げ込んだことから、人体ではかつての地球に近い環境である腸内にすみつき、体の中に送り込まれる食べ物の残りかすや剥がれた腸粘膜を栄養にして生きています。ただ、その菌が実は私たちの体の働きを助けてくれているのです。

よく知られているビフィズス菌を始めとする腸内細菌の99.99%は酸素を嫌う「偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)」であり、その数は600兆個以上。なんと体内全体にすんでいる菌の平均的な重さは男性では2.2.kg、女性は2.5kgもあるんです!

第1回から第4回で紹介したように、細菌をルーツにもつきのこ等の菌類は、食物連載における分解者として生態系を作り、物質を循環させることで地球の健康を整えてきました。

実は私たちの体の中でも、大循環が行われています。
私たちは日々、食欲がわいて食事を摂り、食べ物を分解します。その時、栄養素を体内に吸収し、代謝が行われることで、私たちは元気に活動でき、やがて体内でいらなくなったものや消化酵素等で分化されなかった食物繊維は大腸を通じて大便として排泄されます。きちんと排泄することで腸内環境が整い、また食欲へと繋がります。

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その循環の中心となっている腸は健康的な生命活動に欠かせない器官であり、その働きを大きく下支えしているのが腸内細菌を含む微生物なのです。

きのこの豊富な食物繊維が病気を未然に防ぐ腸内細菌を活性化!

ヒトの体の中にいる細菌のうち、もっとも多くの細菌がいるという大腸。その大腸内には、大きく分けて3種類の菌がいます。

体に良い働きをする善玉菌、悪い働きをする悪玉菌、そしてどちらにも属さず、善玉菌と悪玉菌の優勢な方に味方する日和見(ひよりみ)菌です。

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人体が健康であれば、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%のバランスで保たれています。それが不健康な状態になると、悪玉菌が作り出す毒性のアンモニアや硫化水素などの有害物質が増え、肌荒れや肥満、便秘、さらに大腸ガンや潰瘍性大腸炎など様々な病気を引き起こします。

おびただしい数の腸内細菌がすんでいることから、細菌たちがうまく機能しなければ病気にかかる可能性も高まります。つまり、腸内環境を整え、細菌を味方にすることが健康寿命に大きく関わってくるのです。

腸は他の臓器とは異なり、口から肛門まで食べ物が通る消化管を使って体の中に栄養物を取り込める器官。その腸は体の中に栄養を摂り込む役割があり、脳や心臓とは異なり外から取り込んだ食べ物が直接通過する部位のため、人が意識的にコントロールがしやすい唯一の臓器といもいえます。その腸をきれいにし、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルといった5大栄養素を身体に送り込む重要な役割を果たしているのが“第6の栄養素”と呼ばれる食物繊維です。

食物繊維が豊富な食べ物を代表するのは、なんと言ってもきのこです。

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きのこの食物繊維は腸にとって良い働きをする善玉菌のエサとなるので、腸内環境の改善をサポートし、栄養素の吸収率をアップさせ、私たちの健康を司る腸を整えてくれます。

ヒトの健康に寄与するきのこ。人と菌は運命共同体

これまで紹介してきたように、細菌やきのこなどの菌類は分解者として植物や動物、そしてヒトの誕生・進化を下支えし、いつの時代も大地と生命に寄り添いながら地球を健康な状態に整えてきました。

そして私たちの人体においては腸を通じて、循環させ健康にしてくれるかけがえのない存在だったのです。

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さらに腸内細菌によって作られる酵素は消化を促し栄養素の吸収を助け、ビタミンやホルモン類は代謝や骨の形成を促すだけでなく腸管の働きを調整し、身体を不調から守ってくれます。

また、腸内細菌を活性化させ、健康と豊かな暮らしに寄与するきのこも重要な存在。

腸内細菌やきのこに含まれる食物繊維の力を無くして腸は正常に機能せず、身体の中で栄養素の循環もスムーズに行われません。つまり、ヒトの健康は叶えられないのです。

地球、そしてヒトの環境をも整え、健康を守ってくれる細菌やきのこ等の菌類。

そう考えると、ヒトと細菌やきのこ等の菌類は強い結びつきをもち、ヒトが生きていく上でも欠かすことのできない、運命共同体のような存在と言えるのかもしれませんね。

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次回

「第二の脳」として人体の健康を司る“腸”と菌の関係に迫ります。

監修:辨野義己(べんの よしみ)
1948年生まれ。酪農学園大学獣医学科を卒業。東京農工大学大学院をへて特殊法人理化学研究所入所 研究員。独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター・微生物材料開発室室長。現在は、同所科技ハブ産連本部辨野特別研究室特別招聘研究員。十文字女子大学客員教授、農学博士(東京大学)。受賞歴は、日本獣医学会賞(1986年)、日本微生物資源学会賞 (2003年)、酪農学園大学獣医学部同窓会「三愛賞」(2007年)、文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)(2009年)、Top Ten New Species Award (2009)
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

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