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人と菌の物語

同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係
第4回 神秘的な魅力を持つ“人の理解者”

2020.07.01
同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係<br>第4回 神秘的な魅力を持つ“人の理解者”

ある時は食卓の主役として、またある時は健康食材として、またまたある時は料理に深みをつくる出汁として食卓に欠かせないきのこは、私たちヒトと同じルーツをもつ菌類です。
このコラムでは、その菌類が歩んだ歴史や地球や人類とともに歩んできた軌跡、そして知られざる魅力をわかりやすく紹介していきます。

第1回から第3回は、地球上での生命誕生から動植物が進化を遂げる中で果たした菌類の重要な役割、そして生物の絶滅の危機を救いながら地球の健康を整えてきた菌類の深遠なチカラをみてきました。

第1回 生命の共通祖先は「菌」だった
第2回 「菌」がいるから、人類が誕生した
第3回 きのこの進化が地球の健康を創った

今回は、人類誕生後、常にヒトに寄り添いながら進化し、世界中で親しまれてきたきのこの不思議な魅力に迫ります。

きのこは人類を生み出したヒーロー!?

前回紹介したように、約3億年前、私たちが普段親しんでいるエリンギやブナシメジの祖先であるハラタケ綱のきのこが、枯れた木材に含まれるリグニンを分解する能力を身につけ、地球の物質循環を整えるようになりました。

その後、約2億5千万年前に起こった地球史上最大と言われる生物大量絶滅や約6600万年前に小惑星が衝突し恐竜大絶滅が起こった時も、救世主のように生物界のピンチをチャンスに変え、分解者として次の時代に繋がる地球環境を整える役割を果たしてきました。

恐竜が絶滅した後、新生代に入り哺乳類が大型化して最初のサルが誕生しました。それが私たちヒトやゴリラ、チンパンジーといった類人猿の祖先なのですが、そのような進化にもキノコが整えてくれた地球環境が関わっていると考えられます。

3400万年前、南極大陸は地球上の大陸分断によって暖流の影響を受けなくなり、氷の大陸と化しました。その影響で地球全体も寒冷化現象が起こり、動植物が絶滅。確かな証拠はまだ発見されていないのですが、これまでのように 菌類が動植物の遺骸を分解することで物質循環を整え、地球を生命が生きられる健康的な状態に戻し、その逆境を救ったという説が考えられているのです。

その地質変動を機にサルが分岐・進化し、後のヒトへと繋がります。

つまり、きのこのおかげで私たちは生まれたかもしれない……そう考えると、いつも食べているきのこが人類誕生のヒーローに思えてきますね。

人類ときのこの進化はリンクしている!

約7万年前に始まった最後の氷河期の末期である約1万2千万年前に、人類が農耕を始めたとされています。そして、森林を伐採して畑を耕し、動物を家畜化するといった営みによって地球環境も大きく変貌を遂げていくようになりました。その中で、興味深いことにきのこもヒトの発展に合わせるように進化を遂げていくのです。

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たとえば、マツタケやホンシメジなどは、原生林が伐採された後にできる二次林のアカマツやコナラに発生します。こうした伐採は、薪や炭といった木材の採取を目的に行われたもの。日本では奈良時代に人口の増えた近畿地方で原生林からアカマツ林への移行が起こり、アカマツと共生するマツタケなどが人々に利用されるようになりました。同時に、伐採後にできた多くの切り株にきのこが発生し、現在のように多様化してきたと考えられ、きのこが切り株に宿ることでまた生態系が循環し、豊かな森林が守られたともいえるのです。

きのこは地球の環境を整えるだけでなく、常にヒトの営みに寄り添いながら、世界中 の食文化に欠かせない存在となったのです。

アンビリーバボー! 世界中で見つかったヒトときのこの不思議な関係

私たちの食卓に欠かせないきのこは食料としてだけでなく、宗教儀礼の道具や不思議な効果を持つ薬として太古の昔から世界中で重宝されてきました。ここではその中のユニークな例を紹介します。

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世界に名高い高度文明の宗教儀式で活躍

マヤ文明の遺跡からは、まるで擬人化されたようなきのこ形の石像「きのこ石」が発見されています。石に獣や人間の顔を彫ったそれらは、幻覚性のきのこを形象しており、宗教儀式に用いていたと考えられます。

世界最古のきのこ遺物は縄文時代の図鑑だった!?

東北地方や北海道の縄文遺跡から世界最古のきのこの遺物である「きのこ形土製品」が多数出土。特定のきのこに似せて非常に精巧に作られたこれらの土製品は、食用きのこと毒きのこの判別を後世に伝えるための図鑑として使われていたという研究も。

日本最大の説話集にきのこの滑稽話が収録

平安時代に編まれた仏教の説話集『今昔物語集』には、山で見つけたマイタケを食べて思わず舞ってしまった尼僧に出会う木こりの話や、信濃守藤原陳忠が谷に落ちた後、籠一杯に入れたヒラタケを抱えて上がってきた話など、きのこを題材にした話が5話収録されています。

5000年前のミイラからきのこの“お守り”を発見!

1991年イタリアとオーストリアの国境付近で発見された5000年前の人のミイラ「アイスマン」。彼の持ち物にはなんと2種類のきのこが入っていたそう。一つは、ヨーロッパでは一般的に火を起こす火口として利用されていたツリガネタケ。もう一つのカンバタケは、お守りとして身につけていたという説があります。

ファラオや始皇帝を魅了した “不老不死”のきのこ!?

かつて古代エジプトでは、きのこは“不死の植物”と信じられており、ファラオが野生のマッシュルームを独占して食べていたという話があります。さらに中国で一時代を築いた秦の始皇帝が、不老不死の妙薬としてマンネンタケを試していたという逸話も。また、中国には世界三大美女のひとり、楊貴妃が美しさと若さを保つためにシロキクラゲを食べていたというエピソードも残されています。

世界中の人の暮らしを豊かにするきのこの魅力

地球最初の生命として生まれた菌が進化して誕生したきのこは、分解者として物質の循環を整え、幾度となく訪れた生態系の危機を救いながら、人類誕生に繋がるまで地球の健康を下支えしてきました。

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人類が誕生してからは、ヒトの生活様式の変化に寄り添いつつ、宗教儀礼の象徴や薬として、また食料として世界のあらゆる地域でヒトとともに歩み、進化を遂げてきました。
それは、元来のきのこが持つ美味しさや健康・美容の効果、そしてヒトを惹きつける神秘的なビジュアルなど、他の食材にはない魅力があるからこそ。

いつの時代も生活を豊かにしてくれるきのこは、ヒトの一番の理解者なのかも知れませんね。

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次回

「人と菌の物語」は次の章へ…。人体と菌の知られざる関係性に迫ります。

監修:長谷川政美(はせがわ まさみ)
1944年生まれ。1966年東北大学理学部物理学科卒業。進化生物学者。統計数理研究所名誉教授。総合研究大学院大学名誉教授。理学博士(東京大学)。著書に『DNAに刻まれたヒトの歴史』(岩波書店)、『新図説 動物の起源と進化―書きかえられた系統樹』(八坂書房)、『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』(ベレ出版)、『ウンチ学博士のうんちく』(海鳴社)、『共生微生物から見た新しい進化学』(海鳴社)、『進化38億年の偶然』(国書刊行会・近刊)、など多数。受賞歴は、1993年に日本科学読物賞、1999年に日本遺伝学会木原賞、2003年に日本統計学会賞、2005年に日本進化学会賞・木村資生記念学術賞など。
生命力を食べる。 きのこふしぎ発見

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