人と菌の物語
人と菌の物語

同じ祖先をもつ、人ときのこの奇跡の関係
第3回 きのこの進化が地球の健康を創った

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私たちの身近にあるきのこを含む菌類は、ヒトと同じルーツをもち、生命の誕生から現在に至るまでの地球の歩みに欠かせない生物です。
このコラムでは、その菌類の歴史や地球の生態系との深い関わり、そして知られざる魅力を分かりやすく解説していきます。
第1回は、地球上での生命誕生と菌類の関わり、第2回は、動物や植物の進化に果たした菌類の役割を紹介しました。

第1回 生命の共通祖先は「菌」だった
第2回 「菌」がいるから、人類が誕生した

今回の舞台は、陸上に生物が進出した後の古生代。生物が絶滅する危機を迎える中で、いつも地球に寄り添い、ピンチを救ったきのこの深遠なチカラを見ていきましょう。

人類誕生のターニングポイントは「きのこの進化」だった!

石炭紀と呼ばれる約3億6千万年前、地球上では多くの植物が繁栄し、樹高30〜40メートルにも及ぶシダ植物の森林が広がっていました。

高く伸びた木を支えるために、植物は木材を強固にするリグニンという物質を進化させました。しかしその当時、枯れた樹木に含まれるリグニンを分解できる生物がいませんでした。

リグニンを分解できる生物がいない結果、どうなったかというと…。枯れた樹木は分解されず地中に埋もれて石炭となる一方で、植物の光合成により酸素だけが増加し、大気中の酸素濃度がどんどん高くなっていったのです。約2億9900万年前のペルム紀になると酸素濃度がおよそ30%にまで上昇。すると、今度は大気中の二酸化炭素が少なくなり、植物は光合成ができず、植物にとっても生きづらい環境となってしまいます。それはつまり、地球の物質循環はうまくいっておらず、不健康な状態に陥っていたとも言えます。

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その状況を劇的に変えたのがきのこでした。

時を同じくしてきのこが進化を遂げ、エリンギブナシメジなどの祖先である「ハラタケ綱」のきのこがリグニンを分解する能力を身につけたのです。枯れた樹木が分解されると二酸化炭素が放出されますが、それにより植物の光合成に必要な二酸化炭素が潤沢に生み出され、地球の生態系は徐々にバランスを取り戻していきます。

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さらに、約2億5千万年前には地球史上最大といわれる生物の大量絶滅が起こりました。海洋生物種の96%が死滅したこの事件の原因はいまだに解明されていませんが、氷河期の訪れという有力な仮説があります。

そして、そのピンチを脱することができたのも、リグニンを分解できるハラタケ綱のきのこが二酸化炭素を生み出し、地球の温度を上げたからだと言われています。

きのこが存在したからこそ、後の人類誕生に繋がる生態系の基礎が築かれたのです。

菌類が大活躍を遂げた結果、恐竜が大繁栄!?

きのこの活躍によって低下していった酸素濃度は、約2億年前からはじまるジュラ紀には12%にまで下がりました。

動物界では既に私たち哺乳類の祖先が登場していましたが、低酸素濃度の環境では、現在の高山病のような状態で息苦しく、活動がままなりません。そこで台頭してきたのが、哺乳類よりも低酸素濃度に耐えられる効率的な呼吸器官をもった恐竜でした。恐竜の子孫である現在の鳥類も、同じように効率的な呼吸器官をもっているので、ヒマラヤのエベレスト山頂はるか上空を飛んで渡りをするガンがいるほどです。

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そして実は、この恐竜が隆盛を極めた時代に、哺乳類は密やかに進化を遂げます。

昼間は恐竜が闊歩しているので、夜行性になり、体温を外温ではなく体内の代謝熱によって維持する内温性を獲得。さらに、暗い夜間で活動するために嗅覚などの感覚器官や脳が進化しました。

きのこなどの菌類が引き起こした恐竜繁栄は、見方を変えると私たち哺乳類の発展に寄与していたといえますよね。

恐竜絶滅後、さらに進化した菌類がまたも生物絶滅の危機を救う

前回紹介したように、恐竜が繁栄する時代は約1億5千万年続きましたが、6600万年前に巨大な小惑星が衝突し、恐竜をはじめとした多くの動植物が絶滅しました。

隕石衝突後、地球上には砂塵やほこりが舞い、大気を覆って太陽光が地表に届かない状態に。その暗黒の時代が年単位で続くと、植物は光合成が行えずに枯れ、その影響で多くの動物が死滅しました。

これは、地球にとっては絶対絶命のピンチ。しかし、このピンチをチャンスに変えてくれたのも菌類でした。菌類は、見えないところで大量発生し、動植物の遺骸を分解することで物質の循環を整え、再び生命の生きられる“健康”な地球を創ったのです。

この、驚異の生命力を持つ菌類という存在がいなかったら生物の「冬の時代」はさらに長く続き、その後に訪れる哺乳類の繁栄もなかったかもしれません。

菌類の存在なくして人類誕生はなかった

これまでみてきたように、リグニンを分解するきのこの進化や、酸素濃度の昇降、そして恐竜の繁栄と絶滅といった、地球上でのすべての出来事は、様々な偶然が積み重なって、今に繋がっているように思えるかもしれません。

ですが、菌類というピースがなければ、そして菌類が幾度となく生態系のピンチを救わなければ、現在のような健全な地球環境は形成されませんでした。

つまり、いつの時代も菌類が地球の健康を整えてきたからこそ、私たち人類の誕生にも繋がったのです。

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約10億年前に誕生し、長きに渡って動植物の発展や地球の進化に重要な役割を果たしてきた菌類は、はるか太古の昔から人類の誕生を知っていたのかも知れませんね。

そんな風に考えると、いつも美味しく食べているきのこへのイメージもガラっと変わるのではないでしょうか。

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次回

類人猿の誕生から現在に至るまでの、人類の進化ときのこの知られざる関わりを紐解いていきます。

監修:長谷川政美(はせがわ まさみ)
1944年生まれ。1966年東北大学理学部物理学科卒業。進化生物学者。統計数理研究所名誉教授。総合研究大学院大学名誉教授。理学博士(東京大学)。著書に『DNAに刻まれたヒトの歴史』(岩波書店)、『新図説 動物の起源と進化―書きかえられた系統樹』(八坂書房)、『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』(ベレ出版)、『ウンチ学博士のうんちく』(海鳴社)、『共生微生物から見た新しい進化学』(海鳴社)、『進化38億年の偶然』(国書刊行会・近刊)、など多数。受賞歴は、1993年に日本科学読物賞、1999年に日本遺伝学会木原賞、2003年に日本統計学会賞、2005年に日本進化学会賞・木村資生記念学術賞など。
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