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Do My Best, GO! 〜アスリートインタビュー

プロアスリートを支える食事に迫る。第29回 空手・植草 歩選手インタビュー

2023.04.01
プロアスリートを支える食事に迫る。第29回 空手・植草 歩選手インタビュー

明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回はTOKYO2020の空手女子61キロ超級日本代表として出場した植草歩選手が登場。空手のトップ選手として活躍する現在はもちろんのこと、幼少期から空手に打ち込んだきっかけ、五輪を目指した日々、その後の人生、今後の目標、さらなる飛躍を目指すための食生活まで幅広くお話しいただきました。

まず、植草選手が空手を始めたきっかけや当時どんな子どもだったのか教えてください。

田舎育ちなので、木に登ることも多く、ヤンチャで活発な子だったと思います。小学校3年の時に父と近くの道場へ行って、試し打ちをさせてもらったのですが、その時の「パーン」って音を聞いて、ふわーっとした感覚に襲われて、「ああ、これだ」と。運命の人と出会うみたいな感覚でした。その瞬間に父に「(当時習っていた)ピアノをやめるから、空手をやらせてほしい」と言いましたね。

当時のことで印象深かったことはありますか?

先生とのやり取りで一番覚えているのが、「歩、グッと拳を握ってミットを殴ってみろ」と言われた時です。殴ったら痛いですよね。「歩も痛いけど、殴られた人はもっと痛い。空手を習って人を傷つけることは絶対にしちゃいけない。ケンカに使っちゃいけないんだ」と諭されて、胸に深く刻まれましたね。

その後、日体大柏高校、帝京大学と進学され、大学2年時には大学選手権の制覇を果たしましたね。当時を振り返っていかがでしょうか。

また大学時代は厳しい環境で、男女一緒の全寮生活ということもあり、最初はカルチャーショックを受けました。でも日本一の先輩方が近くにいたので、「こういうふうに歩んでいけば自分も頂点に立てる」と思えたし、道筋が見えた気がしましたね。

 大学2年の大学選手権の転機は、大学1年のインカレで2位になったこと。「私は強いんだ」と思えて、厳しい練習も楽しめるようになりました。そして2年の時にインカレを制覇し、世界学生選手権でも2位、世界選手権で3位と立て続けに好成績を残せた。夢に見ていた日本一にも手が届くという手ごたえをつかんだんです。

2016年に空手が東京五輪の正式種目に決まり、2020年夏を目指して邁進されたことと思います。当時を振り返っていかがですか?

2019年世界選手権で2位、全日本選手権も2位と優勝できなかったんですけど、自分の中では持ち直せると思っていました。でも五輪が近づくにつれてパニックになってしまった。私は人に与えられたものをこなすことが多かったので、次に自分がどう変化して強くなればいいのかが急に分からなくなり、勝ったり負けたりが続くようになってしまった。

他のトップ選手がやっているトレーニングを耳にして「そっちの方がいいんじゃないか」と迷うこともあったし、自分は突きが得意なはずなのに「蹴りができた方がいい」「投げを改善しないといけない」と足りないものばかりに目が行くようになったんです。周りも気を使ってくれて、競技から1週間離れたりする時間も作りましたけど、最終的な方向性が見いだせなかった。コロナで五輪自体が1年延期になったこともあって、気持ちが切れた部分もありましたね。

東京五輪は、1次リーグA組で2勝2敗の4位という結果でした。

やっぱり試合をしたら、中段突きが行きて、自分の空手が通用するんですよね。それが分かったのに結果が出ず、ガックリして終わった五輪だった気がします。

半年間競技から離れていろいろ考えました。その時に思ったのは、空手を通して人を幸せにしたいということ。母校の日体大柏で練習させてもらったんですが、私が勝ったら監督や子供たちが喜んでくれる。自分が教える子供たちが勝ったら、彼らはハッピーになれるし、学校も喜ぶ。そういうことの大切さを改めて感じたんです。

LGBTQのイベントにも参加する機会があったんですが、自分が知らない世界が沢山あることも分かった。私は22年間空手界にいますけど、もっと社会を知って、スポーツを通して社会貢献したいなとも思いました。

だからこそ、私が競技者としての知名度を高め、空手の認知度を引き上げることも大事。そのためには勝たないといけない。今年1年はそれをやっていこうという強い気持ちになりましたね。

高校時代には栄養学も勉強されたということですが、当時からご自身の食事も意識されていたのでしょうか?

はい。高校時代にスポーツの授業の中で栄養学を勉強したことで、栄養バランスの意識は当時からありました。帝京大学に行ってからは栄養士さんから指導を受けるようになったので、食物繊維やマグネシウムの摂取の仕方、重要性なども勉強しましたね。

食物繊維と言えば、きのこも食物繊維を豊富に含む食材ですね。

 きのこは低カロリーで体にいいと言われていましたが、実は大学に入るまではあまり食べられなかったんです。でも大学1年の時、寮でしいたけのバターホイル焼きが出てきて「残しちゃいけない」と思って食べたら、「あれ、食べられる」と。「すごくおいしい」と感じて、それからは好んで食べるようになりました。

どのように食べることが多いですか?

 大学の寮は毎週火・木曜の朝ごはんが鍋だったのですが、そこにきのこが毎回入っていました。栄養士さんも「食材の栄養を逃さないから鍋がいい」と教えてくれましたし、1人暮らしをするようになってからも野菜やきのことお肉を一挙に摂れる鍋をよくやっていました。

 その頃は、朝食と昼食をコンビニで買って食べて、夜は家に帰ってご飯を作るといったスタイルが多かった。でも「コンビニ食は体によくないな」と感じて、お弁当を作るようになり、きのこのバター炒めはマストで入れるようになりました。冷めてもおいしく食べられるし、本当に好きなメニューの1つでしたね。

 まいたけの天ぷらも好きです。もともとはあの苦味が苦手だったんですけど、大人になってからはおいしく感じられるようになった。今、きのこ料理は欠かせませんね。

植草選手のおすすめきのこレシピはこちら

きのこには腸内環境を整える役割もありますが、腸については意識されていますか?

そうですね。2016年に東京五輪が決まって、私は61キロ超級への階級変更をするのにあたり、食事をしっかりとって体重を増やすことにトライしたのですが、食べ過ぎてお腹を下すこともあったので、腸内環境を整える意味できのこをとくに取り入れましたね。もともと私は肌荒れがすごくて、ニキビもワーッとできていたんですけど、それもだいぶ減りました。ストレスもあったと思いますけど、今はなくなりました。

海外遠征にも頻繁に行かれますけど、そういう時の食事は?

日本食を持って行くようにしていました。遠征は1週間程度なので、アルファ米とサバ缶、鮭フレークなどを持って行って、試合前はなるべく魚を摂るようにしていました。現地で売っているマッシュルームもおいしそうでしたけど、お腹を壊したり、体調不良になったりする恐れもあったので、五輪までは現地のものは食べないようにしていました。

自分の勝負飯は五目御飯。野菜やキノコなどいろんな栄養素が含まれていますし、祖母がよく作ってくれて好きだったこともあって、水を入れたらできるという五目御飯を持参して食べてから試合に挑んでいましたね。

2022年は3か月間、海外を回られたとお伺いしました。その時に感じたことを教えてください。

人生観が変わりましたね。
東京五輪までの自分は気持ちの休まる日が全くなかった。朝の筋トレから空手の練習、リカバリで毎日心身ともに疲れていたし、ずっと不安だったんですよね。「1日休んだら筋肉が減る」「空手の間合い感が薄れる」と考えてしまって、どんどん追い込まれていきました。自分を律しているようで律しきれていなかった。だからこそ、東京五輪で勝てなかったのかなと思います。

海外に行って、他の選手から「歩はやりすぎだ」と言われたんです。「自分でクリエイティブに作って行くべきなのに、それをやっていない」と指摘されて、図星すぎましたね。ヨーロッパの選手は2時間しか練習しないし、自主練もストレッチしかしない。それだけ2時間に全力を注いでいると知って、全てが覆された気がしました。

1人の人間として空手と向き合えたということでしょうか。

そうかもしれません。だから納得いくまで空手を続けたいと今は思っています。ここまで続けてるってことは、やっぱり空手が好きなんだなと。

私はもともと試合が嫌いで、怖さや不安を感じて「やりたくない」と思ってしまいがちです。それは「勝ちたい」「負けたくない」という気持ちがあるから。そういった不安が完全になくなって「心底、楽しい」と思えたら、それがやめる時なんでしょう。空手を心から楽しいと思えたら、スッキリと引退を決断できる気がします。

今はまだまだ空手をやりたくなるので、先は長そうですね。空手は2024年パリ五輪の正式種目から外れてしまいましたが、今年は世界選手権もありますし、まずはそこに向かっていきます。

では、日々頑張るジュニアアスリートへのメッセージをお願いします。

今、取り組んでいる競技だけが人生の全てではないので、もっと視野を広げて、いろんな情報を得た方がいいですね。その中で、自分が信じるものを大切にしてほしい。私の場合は今まで関わってくれたコーチやトレーナーさんをすごく信じられたので、今の自分のポジションにいられると思うんです。ジュニアアスリートのみなさんも自分に関わってくれている先生や指導者を信じて努力をしたら、自ずと成績が出てくるのではないのかなと感じます。

きのこらぼ限定公開 INTERVIEW

最後に、ジュニアアスリートへの食事のアドバイスをお願いします。

食事にストレスを溜めないで欲しいなと思います。今は競技生活と並行して高校で指導をしているのですが、食トレとか食事の話になったらみんな「あー」って暗い顔をするんです。でも食事って、みんなで会話しながら楽しく食べて栄養素が入ればそれが一番いい。私はそう思います。

それが、食トレとなると「体を大きくするために沢山食べなきゃいけない」とか「本当はこれ食べたいのに食べられない」とかいろんな規制が出てきます。体操選手や駅伝選手のようにカロリーを気にする繊細な競技の人たちもいますよね。だからこそ、大変ですけど、自分なりの息抜き、楽しいと思える部分、幸せと思える部分を残して食事をした方がいいと感じるんです。

人生の中で競技をしている時間は4分の1程度。そこを一生懸命やりながら、心と体が壊れない程度にやってもらいたいんです。私も試合が終わったらステーキや焼き肉を食べに行っていましたし、甘いものも食べていました。ただ、お菓子を食べる量を減らすためにマグネシウムを摂るといった工夫もしましたね。そういったメリハリを大切にしてほしいと思います。

植草選手の Do my best,Go!

■好きな言葉、座右の銘はなんですか?
『笑う門には福来たる』です。
 2015年の全日本選手権で優勝した時に、情熱大陸の撮影がついていたんです。決勝の日の夜に放送されるというプレッシャーの中、「どうしよう」と思っていました。そんな時、高校時代のコーチから「植草はせっかく女性として生まれて、容姿がかわいいと言ってもらって、テレビに出させていただいているんだから、それを大事にして、キラキラと輝く笑顔で試合しなさい」と言われた。その言葉を脳裏に刻んで試合に挑みました。
 試合の時に笑うというのは空手界ではタブーだったんですけど、私はあえて気合を入れるときに笑顔を見せた。そしたら全てが味方になって、パワーをもらったような気持ちになれたんです。

■これまでの競技人生の中で忘れられないシーンは?
同じく2015年の全日本選手権です。自分が浮上する大きなきっかけになったので、忘れられないですね。

■リラックス方法はどんなものがありますか?
 昔はディズニーランドに行くことでしたが、今はネットフリックスで延々と今人気のアニメを見ることかな。ドラマも好きです。取り溜めた動画を部屋から一歩も出ずに見るというのが、最高のリラックス法です。

■これからの目標は?
空手を通して社会に貢献したいというのが今の目標です。

■内川選手にとって野球とは?
自分を成長させてくれるものですね。子どもたちに指導をしていても得るものは沢山あります。空手を通じて海外に行かせていただく機会も多いですが、未知なる国の社会情勢を知ったり、政治や文化、経済などいろんなことを学ぶことができます。
 空手の国際大会はモロッコ、トルコ、アゼルバイジャン、UAE、エジプトで開催が多いのですが、まだまだ知らないことが多いなと痛感させられます。私は今まで競技しかしてこなかったので、新しいことを知るのは大きな喜びです。

植草選手の今食べたい菌勝メシ

コメント

食事の栄養バランスは意識しつつ、好きなものを食べてストレスを感じないようにしています。きのこは食物繊維が豊富で腸にも良いので毎日食べるようにしており、私の好きなバターテイストで、身体を温められるところもいいですね。

きのこと鮭の塩バタースープ

きのこに含まれるビタミンB6は鮭の良質なタンパク質の代謝に関わるので筋肉の生まれ変わりに欠かせません。きのこや野菜の旨味がしっかり引き出されているので、エネルギー源となるごはんもすすむ、アスリートにオススメのメニューです。

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profile

植草歩

(うえくさ あゆみ)

1992年7月25日生まれ、168cm
日本航空所属、千葉県出身
日体大柏高校ー帝京大学ー高栄警備保障ーホリプロ社員ーフリー(*)
9歳から空手を始め、高校3年の時に高校総体女子個人組手で3位となり、スポーツ特待生として帝京大学へ。1年から日本代表に選ばれ、2012年東アジア選手権で優勝、2013年のワールドゲームズ優勝、2014年世界学生大会優勝と大きく飛躍。卒業後の2015年には全日本空手選手権の個人組手で優勝し、18年まで4連覇を達成する。
 その後、空手が正式種目に採用されたことで東京五輪を本格的に目指す。強さと美しさから「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」とも言われるようになり、注目度も飛躍的に上がったが、金メダルを狙っていた2021年夏の東京五輪では、女子61kg超級で1次リーグA組4位となり予選敗退。本人は半年間の休養を経て、現役続行を決意。現在は「楽しい空手」をモットーに、2023年世界選手権に向けてレベルアップに勤しんでいる。


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