プロアスリートを支える食事に迫る。第30回 トライアスロン・ニナー賢治選手インタビュー
2023.05.01明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回はTOKYO2020のトライアスロン男子個人で14位となり、2024年パリ五輪でメダル獲得を目指すニナー賢治選手が登場。トライアスロンを始めたきっかけや、日本国籍を取得して東京五輪を本気で目指した心境、今後の目標、さらなる飛躍を目指すための食生活まで幅広くお話しいただきました。
※トライアスロンはスイム(水泳)、バイク(自転車ロードレース)、ラン(長距離走)の3種目を連続して行う競技
まず、ニナー選手のトライアスロンとの出会いを教えてください。
子供の頃から、テニス、サッカー、それから器械体操をやっていましたが、13歳の時、ハイスクールの先生が「トライアスロンに向いているんじゃないの」とアドバイスしてくれたのがきっかけです。ただ、そのときは本格的にやろうとは考えませんでした。
18歳の時に考えが変わったとお聞きしました。
そうですね。トライアスロンはスイム・バイク・ランの3つの種目があって、トレーニングもレースも世界で最も美しい場所でできます。例えば、フランスのピネレー山脈、オーストラリアのコースト沿い。そこがとても魅力的なスポーツだと感じたんです。
また、数学系の修士号を持っていて、頭の中でランニングのペースを計算しながらタイムを生み出すことが面白かった。そういう要素があり、複合的に絡み合ってくるので、そこにも魅力を感じて、18歳ぐらいから本格的に始めるようになりました。
トライアスロンは「鉄人レース」とも言われますが、苦しさより楽しさの方が大きいのでしょうか?
「大変だ」という感覚は僕にはなくて、楽しいし、面白いですよ。もともと持久系のスポーツにすごく興味があって、マラソンや駅伝を見るのも大好きです。それに加えて「チャレンジする」ということを表現できる。そういうものを見つけられたという充実感が強かったです。
競技に携わるうえで苦労したことはありますか?
3種目あるので、バランスを取ることが難しいポイントですね。
一例を挙げると、練習をどうするかというテーマがあります。ランニングだけにフォーカスするとスイミングとバイクのパフォーマンスが落ちたりとか、バイクとランだけ頑張ってもスイムは伸びなかったりする。バランスをうまく取りながらトレーニングする苦労はあります。ただ、結局はそのチャレンジする面白さがあるので、その面白さが勝っています。
戦況を読む力と対応力が問われますね。
そうなんです。ただ、僕がラッキーだと思うのは、1種目だけの競技だと伸びしろの限界を感じるかもしれませんけど、トライアスロンは3種目あるので、改善できることが沢山ある。常に向上している点を何かしら体感しながらやっていけるので、そこがすごくいいところですね。
2018年、お母様の母国である日本に来日されました。その後、日本国籍取得にも踏み切られましたね。
はい。それは僕にとってすごく大きなことであり、強い気持ちが生まれる原動力になりました。「自分の国で開催される五輪に出る」というのは極めて意義の深いこと。それを絶対に成し遂げるんだという強い意欲も湧いてきました。
その後、2021年5月に宮崎で行われたJTU男子スーパースプリント特別大会で五輪出場が確定。五輪当日は、ほとんどの競技が無観客開催となった中でトライアスロンだけは沿道に多くの人が集まり、五輪らしい雰囲気の中で行われましたね。
本当にそうですね。他競技はほぼ無観客という状況の中で、自分たちは多くの人が見守る中で戦わせていただけた。それは競技者として本当に幸せなことでした。
特に混合リレーで自分がレースをしている間、多くの応援や後押していただき、幸せなレースを経験できました。
やっぱりこの競技をもっと多くの人に見てほしい。それだけの魅力のあるスポーツだと僕は強く思っています。
話は変わりますが、ニナーさんはきのこが大好きだと伺いました。
はい、そうです。麻婆豆腐だったり、味噌汁に入れたり、炒め物だったり、いろいろな料理に入れて毎日食べています。
好きなきのこの種類はありますか?
マッシュルームやエリンギ、シメジなど、何でも好きですよ。オーストラリアにはエリンギはあまりなくて、スーパーに売っているのはシイタケとかフィールドマッシュルームですね。フィールドマッシュルームというのは大きなマッシュルームをイメージしていただければと思います。日本人の母が味噌汁や日本食を日常的に作っていて、そこにきのこがはいっていたので、子供の頃から食べていました。
料理はご自分で作っているのですか?
はい、結構自分で作っています。僕の家は母だけではなく、父も料理をするので、僕も以前からやっていました。
ただ、そんなに時間をかけたくないので、フライパンでサッと焼くような簡単なメニューが多いです。そのうえで疲労回復とエネルギーを十分に摂取できる料理を意識しています。
きのこには腸内環境を整える効果もありますが、そこにもフォーカスされていらっしゃいますか?
はい。体調・腸内環境を整えることはアスリートにとってすごく大事なので、それも意識してきのこを食べています。そもそも風味や食感が大好きなこともあり、毎日、あらゆる料理に入れて味わっています。ある意味、ルーティンですね。
トライアスロンは消耗が非常に激しいスポーツですが、レース前後に意識していることはありますか?
トライアスロンは多くのカロリーを消費するスポーツなので、炭水化物を摂取することが多くなるんですけど、炭水化物だけに偏るのはよくないので、栄養のバランスや必要カロリーを考えつつ、摂取しています。正確な栄養に対するストラテジー(戦略)を持っていなければ、いいパフォーマンスを発揮することはできませんからね。
実は昨年、ノロウイルスにかかり、その後は腸内フローラの環境が悪化して、レースの結果も出なくなり、トレーニング自体もうまくできない状態に陥りました。そういう経験もあるので、やはり腸内環境を整えることは大事。きのこはそれをコントロールしてくれる1つかなと。そういう意味でもキーになる食材なのは間違いありません。
ニナーさんはパリ五輪に全てを賭けているとお聞きしました。
はい。僕はパリを最後に現役引退すると決めて取り組んでいます。
トライアスロンは30歳前後が一番強いスポーツ。持久系の競技なので、その先も続けた場合、もっといいパフォーマンスが出せるかもしれませんし、タイムもよくなる可能性もあります。ただ、自分の感覚やこれまで歩んできた過程から考えると、4年サイクルとして見た場合には、パリ五輪が最大のピーク。その4年後により強い状態になるとは考えられないんです。それがパリを最後に退こうと思っている最大の理由です。
もう1つの理由は、トライアスロンというスポーツは多くの人のサポートを受けなければ成り立たないことです。それは金銭面だけでなく、物質面も含めてですね。いろんなことを多くの人にお願いして、最高の環境を作っていただいているので、これ以上を求めるのが難しいと僕は考えています。
周りの環境や自分のフィジカル・メンタルなど全てを考えた場合、今は一番の旬だと確信しています。なので、そこで最高の結果を残して、引退するつもりです。
数学の修士号を持っているニナーさんらしい明確なビジョンですね。
メダルを取れれば、トライアスロンが多くの人により注目されますし、メディアに取り上げられる機会も増えると思います。メダル獲得は僕らにとって悲願なんです。
実は日本のトライアスロン人口は公式に30万人。登録していない人を含めると80万~150万もいると言われています。想像以上に多いんですけど、表に出る機会はまだまだ少ないと思います。だからこそ、メダルを取ってもっとメジャーにしていきたい。そうなるように僕自身、全力で努力していきます。
では、ジュニアアスリートへのアドバイスをお願いします。
トライアスロンに関して言うと、僕は本当に偉大なスポーツだと思っています。日本ではまだそれほど有名ではないので、もっとメジャーなってほしいんですけど、この競技は何歳からでもできます。小学生でも短い距離のトライアスロンがありますし、一度やれば必ず好きになると思うので、ぜひトライしてみてもらいたいです。
そのうえで、夢があるんだったら、それを絶対に諦めてはいけない。他人は「ムリだ」と言うかもしれないけれども、自分が信じて本気で目指したらきっと叶うはず。僕はそう思っていますし、今も信じて前を向き続けています。
きのこらぼ限定公開 INTERVIEW
最後に、ジュニアアスリートへ食事面でのアドバイスをお願いします。
栄養に関しては、基本的にバランスが大事だと思います。炭水化物だけではなく、きのこのように体の代謝機能を向上させる食品など、さまざまな栄養素を取っていくことが健康につながります。十分なエネルギーと体のバランスをよくするような食事内容を意識してほしいですね。
ニナー選手の Do my best,GO!
■好きな言葉は?
「トゥルース(真実)・アンド・オネスト(誠実)」です。私は真面目で嘘のない人が好きなので、その言葉を好んでいます。
■競技人生の中で忘れられないシーンは?
2021年5月の東京五輪最終選考会(JTU男子スーパースプリント特別大会)のレースです。神がかり的な走りで最後に抜き切ってゴールした。あれは今も忘れることができません。
■リラックスや切り替えは?
オフの過ごし方というのは、今の僕の弱点かもしれません。というのも、今はパリ五輪に向けて「どうしたら日々、向上できるか」「どうしたら少しでも強くなれるか」ということしか考えていなくて、オフだから遊ぼうといった考えが浮かばないのが実情ですね。
家族や友人と一緒に過ごすことはリフレッシュになるんですけど、この3年間のコロナ禍でそういうこともままならなかった。今はとにかくトライアスロンに集中しています。
■今後の目標は?
パリ五輪でメダルを獲得すること。それに尽きます。僕はパリを最後に現役を引退すると決めているので。
楽しみながら競技者の生活を送れる人もいると思いますけど、僕の場合は期限を設定して、背水の陣でのぞんだ方がいいタイプなんです。
遠征でオーストラリアのゴールドコーストのような美しい場所に行くと、村上コーチからは「ウエイクボードにでも乗って来い」と言われますけど、僕はスイムの向上のために泳いでしまう。そういうキャラクターなんで、とにかく一秒たりとも無駄にせず、メダルを取ることに全力投球します。
■ご自身にとってトライアスロンとはどんなもの?
今の時点で言えば、「人生の全て」です。僕は東京五輪に出たことで、オリンピアンになるという夢を達成できた。それは非常に大きなことだったと思います。トライアスロンを通して素晴らしい人々に出会い、最高の家族に応援してもらっていて、世界中の友人にも支えられている。そういう人たちに囲まれて、次のパリ五輪を目指せるのは本当に幸せなこと。トライアスロンは人生そのものという気がします。
ニナー選手が今食べたい菌勝メシ
コメント
トレーニングと同じくらい疲労回復のプロセスも重要だと考えており、食事では栄養価が高くバランスの良い料理を意識しています。きのこは味も良く、栄養もありとても好きな食材で、甘辛煮にすれば栄養バランスもよく、疲労回復にも役立ちそうです。
きのこと豚肉の甘辛煮
きのこに豊富なビタミンB群はエネルギーとなる糖質やタンパク質の代謝に関わるので、糖質の豊富なごはんやタンパク質の豊富なお肉を合わせることで、効率の良いエネルギーチャージや筋肉維持をサポートします!
profile
(になーけんじ)
1993年5月26日生まれ、175cm・67㎏
NTT東日本・NTT西日本所属、山梨県
カーティン大(豪州)ー西オーストラリア大(同)ーNTT東日本・NTT西日本
93年、日本人の母、オーストラリア人の父の間にパースで生まれ、幼少期はテニス、サッカー、器械体操など複数スポーツに取り組む。トライアスロンと出会ったのは13歳の時。18歳から本格的に競技生活をスタートさせ、U-23まではオーストラリア代表として活動した。
25歳の時に日本行きを決断。2018年12月から日本トライアスロン連合(JTU)所属としてレースに参戦。JTU強化指定選手としてワールドカップ、世界シリーズを中心にレースに出場。2020年日本選手権で初出場初優勝を飾った。
2021年4月1日付けで日本国籍を取得。2021年夏の東京五輪出場権を獲得し、男子個人で14位、混合リレーで13位に。現在は2024年パリ五輪でのメダル獲得を目指し、競技人生の全てを賭けてトライアスロンに力を注いでいる。
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