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Do My Best, GO! 〜アスリートインタビュー

プロアスリートを支える食事に迫る。第26回 クロスカントリースキー・新田 佳浩選手インタビュー

2023.01.01
プロアスリートを支える食事に迫る。第26回 クロスカントリースキー・新田 佳浩選手インタビュー

明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場するのは、クロスカントリースキーでパラリンピックに7度出場、2018年平昌パラリンピックではバンクーバー大会に引き続き8年ぶりの金メダルを獲得したレジェンド、新田佳浩選手。長期間にわたり第一線で活躍できた経緯、その土台となる食への意識、今後の夢などをお伺いしました。

はじめに、スキーを始めたきっかけ、クロスカントリースキーを選んだ理由を教えてください。

4歳のときに親が「スキー板を買ってきたからやるぞ」と言われたのがきっかけでした。地元の小学校では年に3回スキー教室があったので学校の先生に迷惑をかけないように、という思いから先に始めておこうというのが理由でした。

また、最初はアルペンスキーをしていましたが、小学校3年生くらいから、「クロスカントリースキーをすればアルペンスキーも上手になる」といわれたのが、クロスカントリースキーをはじめたきっかけです。

中学3年生のとき、受験勉強で1年間スキーから離れていましたが、あるとき妹と「一緒にそのあたりを滑らない?」と話して、誰も歩いてない雪原の上に行ったときに後ろを振り向くと、自分が歩いてきた足跡しか見えませんでした。それを見て普段は行けない場所でもスキーの板を履けば行けるんだと学んで、いろいろな冒険ができるのがやっぱりクロスカントリースキーなのかと思いました。誰もいない山の中にも入っていけますし、自然を独り占めできるところに魅力を感じました。

高校2年生のときには長野パラリンピックに出場されましたね。初めて出場した大舞台はいかがでしたか?

地元で行われたので、学校の同級生が岡山県からバス4台か5台くらいで長野の白馬まで応援に来てくれました。会場のコース脇に応援の旗を掲げて応援してくれたのがいちばん印象に残っています。

試合の方は、最初はすごく緊張しましたが、今までいろいろな人に支えられていたんだ、発表の舞台をもらったな、という気持ちになれて、地元で行われたのであたたかい状況の中で楽しめたと思います。同時にチームメイトでメダリストになった選手がいたので、表彰式に呼ばれている姿に、僕もそういう舞台に立ちたいと思いました。

続く2002年のソルトレイクシティパラリンピックで銅メダル、その後、2010年バンクーバーパラリンピックではついに金メダルを獲得されましたね。

自分がイメージしたことがどんどん現実になっていくビジョンが描けていました。やればやるだけ自分が成長しているのを感じて、世界との差も縮まっていってすごく充実した期間だったのを覚えていいます。

ただ、2006年のトリノパラリンピックではメダルを取れませんでした。当時は世界ランキングで2番か3番にはいたのでメダルは取れるだろうと思っていましたが、自信を持ち過ぎていたように思います。

バンクーバーでは私が日本チームの主将でしたが、僕が出る前に金メダルが日本としてなかったので、主将としての役割を1つ果たせたと思いました。またアルペンの選手が銅メダルを獲得したのと同じ日に表彰式があり、「やっぱり金メダルは違いますね。僕も金メダルを目指して明日頑張ります」と言ってくれました。そうしたら本当に次の日、金メダルを獲得してくれて、自分が結果を出すのもそうですけれど、違う競技に刺激を与えることもあるのだな、と思ったのを覚えています。

大会の後、おじい様に金メダルをかけてあげたニュースも拝見しました。

祖父に金メダルをかけたいという目標をずっと抱いてやっていました。祖父が「これで世界一のおじいちゃんになったんだな」と言っていたのですが、僕は「今までありがとう」と伝えました。祖父にメダルをかけたいという目標をもらったことがうれしかったですし、祖父としても、生き甲斐になっていたようで、僕は幸せな時間を過ごさせてもらったなと思っていました。

その後、2018年の平昌パラリンピックで8年ぶりに金メダルを獲得されましたね。

2013年に東京でのオリンピック、パラリンピック開催が決まって、2014年度から、パラリンピックはそれまで厚生労働省管轄だったのですが、文部科学省に移管されました。
国立スポーツ科学センターをパラの選手も使用できることになって、トレーニングをしっかりやれる環境が整いました。また冬季競技にもフォーカスをあててみようということで僕に白羽の矢が立って、栄養とか運動も科学的にやりましょう、という流れができたところでの平昌でした。

僕が考える日本人の強さというのは工夫するところやちょっとした感性の違いを具現化できるところだと思うんですね。例えば、クロスカントリースキーは板に塗るワックスの加減が重要です。気温や湿度に適したものでなければいけませんが、ウェザーニューズさんから天候データを適時提供してもらうなど海外の選手がやっていない戦略でした。

また、できるだけロスが少ないよう滑るため、僕はその靴の裏に1ミリくらいのプレートを入れていました。それも国立スポーツ科学センターの方とどうやったらよりパフォーマンスが上がるかを考える中での発想の一つでした。トレーニングなどサポート頂ける環境の変化もあって良い結果につながった大会だったと思います。

様々な試行錯誤を続けながら競技と向き合ってきた新田選手ですが、食生活について意識したり、きっかけになったりしたことはありましたか?

高校生までは家族が作ってくれたものを食べていましたが、大学に入って一人暮らしをするようになって、自分が食べるものは自分で管理しないといけない状況から自炊を中心に生活していました。そのおかげで食事はできるだけバランスよいものをという意識も生まれましたね。

長くアスリートを続けられるうえで食生活での変化や取り組まれてきたことはどのようなことでしょうか。

競技生活を長く続けてくる中で変化した部分はあります。若いときはお肉中心というか、タンパク質を取らないといけないと考えていました。ご飯と味噌汁とメイン一品みたいな形が多かったのですが、やはり緑黄色野菜やきのこなども交えてバランスのとれた食事を心がけないといけないことを学びつつ、メインも肉だけでなく魚もとるようにもなっていきました。

ただ日々の生活と大会のとき、特に海外に出たときでは食事の環境がかわってきます。日本では和食中心のヘルシーな食事を好んで食べるのですが、海外はビュッフェスタイルだったり、お米ではなくパン中心だったりすると、少し体調を崩しがちになることや、日本にいるときと同じ食事量でコントロールしていても体重が増えてしまうことがありました。

また自分の体質を知るために遺伝子検査をしたことで、日本の発酵食品の重要性や食物繊維が腸内環境、便通に効果があることを改めて実感しました。基本的には現地の食事をとりつつ、自分でできる取り組みとしてサラダにワカメを足すなどの工夫をしています。

きのこも取り入れていた、という事ですが、きのこの印象を教えていただけますか?

岡山県にいたときは自宅で食べるために栽培していた椎茸を天日干しにして煮物などでよく食べていました。そのおかげできのこは独自の旨味が出るということをすごく感じていて、いまでも日本で味噌汁を作るときには冷凍したきのこを入れますし、食事の副菜の一品としてきのこを調理するなど積極的に食べるようにしています。食物繊維を取れる食材なのでサラダにも加えたり、色々な調理法で食べたりする機会は多いですね。

また、北欧によく遠征に行くのですが、あちらではマッシュルームがよく売られていて、海外で自炊するときに使用していました。日本ではきのこが安定して供給されていて、旨味が強くて、これからの時期は鍋に入れて食べますし、夏ならカレーなどにも使えてレパートリー豊富で便利ですよね。

では、きのこの腸内環境改善の働きについても、ご存じでしたか。

知っています。腸内環境を整えるという意味でも非常に重要な役割を果たしていると思うので、子供たちにも積極的に食べさせるようにしています。シンプルにバター醤油で炒めると、「この甘みとしょっぱさがおいしい」と言って食べてくれます。

現在は選手とコーチ、2つの立場を担う新田選手ですが、心がけているのはどのようなことでしょうか。

ストイックにやってきて、だから他の選手に「なんでできないんだ」って言ってしまいがちですが、できないことをちょっとできることによって向上心も上がっていくので、これができない、あれができないというよりは、これがちょっとできるようになったから、じゃあ、これを伸ばしていこうかという形で自己肯定感を高めていくようなコーチングをしていくべきなのかな、と思っています。

僕も選手として結果を出すために頑張っている姿を見せる中で他の選手たちも頑張って、それを見て僕自身も頑張ろうとなっていくと思います。能動的に皆がやれるようになっていくチームを目指していきたいと思います。

では、ジュニアアスリートへのアドバイスをお願いします

ジュニアの子たちはどうしても学校の先生やコーチが言ったことを素直に聞くことが多いと思いますが、僕としては自分の感性や思っていることをちゃんと言葉にして伝えてほしいです。

人生や競技のピークというのはいつ来るかわかりません。競技をやっているなかで学生時代がピークな場合もあれば、社会人になってピークを迎えることもあるので、諦めずに継続してやり続けていればチャンスは訪れると思います。そのためには怪我をしないことも重要になるのでジュニア世代のときからしっかり食事、睡眠をとることを意識してほしいです。練習後にマッサージを受けるなどのケアも大切だと思いますが、大前提としてまずは自分ができることに取り組むことが大切です。誰かに責任を押しつけてしまうことはプラスにはならないので、自分がしっかりと納得できるように競技と向き合って続けていってほしいです。

きのこらぼ限定公開 INTERVIEW

最後に、ジュニアアスリートへ向けた食事のアドバイスをお願いします。

いまは食事について様々な意見があって、例えばグルテンフリーや白糖など白いものを避けるなど様々な考え方がありますが、まずはそれがどういうものかを知って自分に必要かを判断してほしいです。一番大事なのは何かに偏るのではなく、バランスよい食事をとることで色々な栄養やエネルギーを摂取することだと思います。

よく言われることですが食事もトレーニングの一環です。本当に基本的なことになりますが食べてしっかり寝ることで疲れを残さないことがとても大事だと考えています。

そのためには練習後の食事やエネルギー補給をコンビニなどで簡易的に済ますのではなく、好き嫌いすることなく栄養バランスの良い食事を適切なタイミングに食べるように意識して翌日に疲労を残さないことが勝利への近道になると思います。

新田選手の Do my best,GO!

■好きな言葉、座右の銘
「不可能とは可能性だ」という言葉をいつも大切にしています。この言葉は僕の競技人生おいてにまさしくあてはまる言葉で、競技でもそうですが自分が諦めた瞬間に可能性があるものを閉じてしまうことになります。不可能だと感じる前に少しでも考え方や意識を変えることを大切にしていて、僕自身も年齢を重ねるにつれて競技パフォーマンスが低下してしまうのではないか、周りからもそう思われてしまうと考えてしまうこともあるのですが、工夫すること、自分の考え方を変えることでもう一度パフォーマンスをあげていけます。そのためのヒントは日常生活など色々なところにあると思っています。
ひとつの考え方では視野は広がらず、競技のパフォーマンスだけにとらわれてしまうと技術面や体力面ばかりに意識が行ってしまうのですが、心理面や食事、日々の生活についても考えることは大切でどこにヒントがあるかはわかりません。だから常に色々なところにアンテナを張ってトライ&エラーを繰り返しながら、失敗を成功に近づいていくことで不可能が可能性に変わっていくのだと思います。

■忘れられない大会
3歳の時に祖父母が運転していたコンバインでケガしてしまって、競技を始めてからは祖父母のために金メダルを取りたいと思っていました。2010年のバンクーバー大会で金メダルを取れて、そのメダルを祖父にかけてあげることができました。怪我をしてから15年くらい経っていたのですが、祖父が「自分の腕を切って僕につけてあげたい」と言っていたことを初めて知ることになり、今まで苦労を掛けてきたことや初めて知った祖父の思いに対して恩返しができた印象的な大会でした。

■リラックス方法
映画を観ることですね。よく海外に行くので飛行機で映画を観ることが多いのですが、すごく感情移入をしやすくて飛行機で隣に人が座っていても号泣してしまうことがあります。物語に感動したり、共感して泣いたりすることは凄くリラックスできる瞬間です。
あとは日本に帰ってきて料理をする時間もリラックスできる時間です。

■今後の目標
選手としてはメダルを5つ取ることができましたので、ある程度は目標を達成できたという思いがあります。また僕を目標にしてきてくれた川除選手が北京で金メダルを取ってくれて、僕の役割はひとつ果たせたかなと。
彼と一緒に表彰台に立ちたいという目標は北京大会では叶わなかったですが、次は僕自身が主役ではなく、次世代への交代、川除選手以外の選手たちを育成していくことで2030年大会のパラ・クロスカントリー各部門で表彰台に立てる日本人選手を輩出することが次の目標ですね。

■新田選手にとってスキーとは
僕自身が成長させてもらったなと感じています。クロスカントリースキーは苦しい時に自分自身を奮い立たせて己に打ち勝っていかないといけないスポーツで練習の中でも常に自問自答しながらやってきました。
スキーにワックスを塗ってくれるワックスマン、コースに立ってレースをサポートしてくれる情報スタッフがいなくては出来ない競技です。雪の変化やレース状況などの情報がとても大事になるので人と人のつながりに魅力があると感じますし、僕の中では人間力が試される環境でそれを勉強させてもらえた競技だと思っています。

新田選手が今食べたい菌勝メシ

コメント

食事のバランスを大切にしていて、特に副菜を意識的に食べるようにしています。きのこは栄養があって食物繊維も多く、お腹にも良いのでよく食べます。鍋にすれば栄養もとれて内臓も温まるのが良いですね。

コク旨♪きのこ飛鳥鍋

きのこに豊富な食物繊維は、健康の要である腸を整えることで、免疫維持を応援します。また鶏肉や野菜、牛乳など様々な栄養がとれるところもアスリートに嬉しいポイント。身体を温める栄養満点メニューで、勝てる身体をつくりましょう。

詳しく見る>

profile

新田佳浩

(にったよしひろ)

1980年6月8日生まれ、177cm 、68kg、岡山県西粟倉村出身
日立ソリューションズ所属
筑波大学卒業
パラ・クロスカントリースキーのエースとして長期に渡り活躍。パラリンピックに1998年長野から2022年北京まで7大会連続出場を果たす。2010年バンクーバー大会で2個の金メダルを獲得。同一大会での複数金メダルは日本選手初。2018年平昌でも金メダルを獲得、計5つのメダルを手にする。

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