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きのこふしぎ発見

【きのこを旅するvol.8】国民性も表れる?!知って楽しいきのこの名前

2024.01.01
【きのこを旅するvol.8】国民性も表れる?!知って楽しいきのこの名前

お正月を迎えて、おせち料理を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。古くから暮らしに根付いてきたきのこもまた、おせち料理に使われる定番食材のひとつですね。
「ひらたけ」「まいたけ」など、古くは今昔物語の時代から人々に食べられてきた菌茸を総称して「きのこ」と呼びますが、もともとは、倒木や切り株に生えることから「木の子」と呼ばれるようになったと伝えられており、そこには自然豊かな日本の原風景が想像できます。

それぞれのきのこがもつ名前にも由来があり、その由来を紐解いていくと、そこには各地域、各時代の文化と密接に結びついていることがわかります。そこで今回は、きのこの名前の由来と特徴を追っていきます。

きのこは2種類の名前をもつ

Bencao Gangmu 33-36

まずは、どのようにきのこの名前が決められるようになったのかをみていきましょう。
現在、きのこの名前は世界共通の国際命名規約にのっとった「学名(ラテン語)」と、各国で使われる「普通名(日本の場合は和名)」の2つの表し方があります。しかし、明確な呼び名が普及する前の日本では、地域ごとにそれぞれのきのこをユニークな名前で呼んでおり、たとえば東北地方では「ならたけ」を「もだし」「もだす」と呼んだり、北陸や新潟ではきのこを「こけ」と呼んだりしていました。

その後江戸時代に入ると中国の薬物書である「本草書」が日本に輸入され、本草書を通じて、名前や形状、性質、産地、薬効などの共通した情報が広く知られるようになります。本草書のなかでは「猪苓(ちょれい)」や「茯苓(ぶくりょう)」など漢方の材料としても有名なものを中心に10種類以上のきのこが紹介されています。

一方ヨーロッパでは「分類学の父」と言われるスウェーデンのリンネ(1707 – 1778年)や、菌類の分類学を大成させたオランダの菌学者ペルスーン(1761 – 1836年)、スウェーデンの菌学者フリース(1794 – 1878年)により、現在に通じる世界共通の学名が各きのこに与えられるようになります。学名には分類名や命名者名が使われており、たとえば、しいたけの学名はLentinula edodes (Berk. ) Peglerですが、分解すると「Lentinula=シイタケ属」+「edodes=ギリシア語で“食用となる”」+「(Berk. )=イギリスの菌類学者マイルズ・ジョセフ・バークリー」のように、名前から分類や命名者が分かるようになっています。

漢字で楽しむ詩的なきのこの世界

「学名」と「和名」の2つを持つきのこですが、「和名」といっても一般的には「ブナシメジ」「マイタケ」などカタカナで表記されることが一般的。しかし、それぞれ漢字での表記も存在しており、そこには命名の由来やエピソードをみることができます。

舞茸(まいたけ)

舞茸(まいたけ)

扇状の傘が多数重なりあっている見た目のまいたけ。名前の由来については諸説あり、きのこの姿が「袖をひるがえして舞う姿」に似ていることや、きのこを発見すると、「嬉しくて躍り上がって喜ぶから」という説などが伝えられています。

木海月・木耳(きくらげ)

木海月・木耳(きくらげ)

次に紹介するのは、室町時代には日本ですでに食用とされており、古くから食べられてきたきのこのひとつ「きくらげ」。食感がくらげに似ている、あるいは干したくらげに似ていることから「木海月」だという説があります。また「木耳」と表記することもありますが、これは中国では“木の表面に生えている耳”に見えることから「木耳」という漢字が当てられていることに由来します。なお英語でも、Jew’s ear(ユダヤ人の耳)やwood ear(木の耳)と呼ばれるなど、多くの国で耳の形を思い起こさせていることがわかります。

三鈷茸(さんこたけ)

三鈷茸(さんこたけ)

次は、3本の椀が弧を描いて上部へと伸び、先端で結びついている特徴的な形の「三鈷茸」。その形状が、密教で煩悩を追い払うに使う法具「三鈷杵(さんこきね)」に似ていることからこの名前が付けられたようです。日本と仏教とが古くから密接に結びついたことがわかる命名です。

三鈷杵(さんこきね)

密教法具である三鈷杵(さんこきね)

仁王占地(におうしめじ)

もうひとつ、仏教に関係するきのこに、1974年に熊本で発見された「仁王占地」があります。大きく膨らんだ根元が多数密着し、直径6~30cm、柄12~20cmで、1株10~20kgにも及ぶ大型のきのこ。立派な様が仏教の神様である「仁王(金剛力士)」を思わせることから、この名前が付けられました。

日本と外国で異なる解釈の名前をもつきのこ

次に、日本と海外でその呼び名(普通名)に違いがあるきのこをご紹介します。日本では仏教に関連したきのこ名があるように、文化の違う海外では、同じきのこでも見方の違った名前で呼ばれているきのこが多数存在します。

マッシュルーム(作茸)

マッシュルーム(作茸)

まずは日本でも海外でも有名なきのこのひとつ「マッシュルーム」。マッシュルームの語源はフランス語の“苔や泡”を意味する“mousee”に由来します。一方マッシュルームの和名は「ツクリタケ(作茸)」といい、「海外から輸入された人工栽培のきのこ」という意味があるそうです。

トリュフ(西洋松露)

トリュフ(松露)

次にご紹介するのは、紀元前18世紀から知られていたという歴史の古いきのこの一つ「トリュフ」。「トリュフ」は西欧での呼び名であり、ラテン語のtuber(塊茎)が語源となるなど、当時の人はジャガイモのような存在を思い浮かべたのかもしれません。一方、日本ではトリュフを「西洋松露(せいよう しょうろ)」と呼んでおり、人工栽培が難しいことから貴重なきのことされています。

ポルチーニ(山鳥茸)

ポルチーニ(山鳥茸)

続いて、パスタやリゾットなどイタリア料理に欠かせない有名なきのこ「ポルチーニ」。名前の由来は、独特な香りを持つのできのこを見つけるときに豚や野生の猪を使っていたため、フランス語で「子豚」を意味する単語が元になっています。畜産業が発達していたヨーロッパらしい命名です。一方日本では、暗褐色でむっくりしたその姿が山鳥に似ていることから「山鳥茸(ヤマドリタケ)」と呼ばれており、自然豊かな日本らしい、情景的な命名がなされています。

インクキャップス(一夜茸)

インクキャップス(一夜茸)

最後にご紹介するのは、「一夜茸(ヒトヨタケ)」。直径5~8cmの毒きのこで、卵型の傘が一晩で溶けて黒いインクのような液に変わることから、海外では「インクキャップス(inkcap)」と呼ばれています。これに対して日本では、成長が速すぎて一晩ほどで液化することから、「ヒトヨ(一夜)タケ」という儚さを感じる、風情ある名前が付けられています。

このように、日本と海外で解釈が異なる名前を持つきのこは他にも多数存在しますが、それぞれの国や時代背景を思いながらきのこの名前をみると、当時の暮らしや文化を知るきっかけになったり、きのこが身近な存在であったことがわかります。

新種も次々と!近年発見されたきのことその名前

先述した「仁王占地」が発見されたのは約40年前と最近であったように、今も新種のきのこが次々と見つかっています。そこで最後に、近年発見されたきのことその名前を見ていきましょう。

トゲミフチドリツエタケ

こちらは日本で発見されたきのこ。発見したのは実は専門家ではなく、1995年に「神奈川キノコの会」のきのこ愛好家の方が標本を採取しました。胞子(ミ)に突起(トゲ)があり、襞の縁が茶色(フチドリ)をしたツエタケでしたので、この和名が付けられています。このように、一般の人の報告から新種のきのことして認定されることも多くあります。

スポンジボブ(SpongeBob)

スポンジボブ(SpongeBob)

<Fruit bodies of the bolete fungus Spongiforma squarepantsii Desjardin, Peay & Bruns. Specimens collected in Lambir Hills National Park, Borneo, Sarawak, Malaysia>

次にご紹介するのは、2010年にマレーシアの熱帯雨林で発見された新種のきのこで、その名も「スポンジボブ」。熟した果実のような独特な臭いを発するきのこといわれており、スポンジ状の子実体が、海外アニメのキャラクター「スポンジ・ボブ」に似ていることからこの名前が付けられました。

Psilocybe stametsii

Psilocybe stametsii

<Psilocybe stametsii(Photo by Giuliana Furci/ Fungi Foundation)>

2011年にエクアドルの保護地域で初めて採取されましたがその後発見することができず、2022年に再び見つかったというシビレダケ属のきのこです。ちなみに和名はまだありません。また、シビレダケ属のきのこには幻覚性をもつものがあり、うつ病など医療目的での使用が期待されています。こうしたきのこの不思議なパワーに注目した菌類学者ポール・スタメッツに敬意を表して、この名前が付けられました。
※Psilocybe=シビレダケ属、stametsii=ポール・スタメッツ を表す

あなたの足元のきのこにも名前がある

きのこは地面の上にも、樹木にも、コンクリートを突き破ってでも、どこにでも発生します。そんなひとつひとつのきのこには特徴を捉えた名前が付けられており、名前を知ることで、どんなきのこなのかがわかるのも、きのこの楽しみ方のひとつかもしれません。

また、きのこの分類が進んできたとはいえ、新種きのこの発見はまだまだ続いています。学名は国際命名規約に則り付けられるものの、和名は命名者によって自由に付けることができますので、もしかしたら、あなたがきのこの命名者になる日が来るかもしれません。ぜひ、街中や田畑の中できのこを見つけた際には、そんな想像もしながらきのこの世界をお楽しみいただければと思います。

参考文献

  1. きのこのはなし(林野庁)
  2. 新種はどのように報告されるのか(兵庫県立人と自然の博物館)
  3. きのこの名前の命名ルール(株式会社キノックス)
  4. きのこの英語(一)(森林総合研究所 九州支所)
  5. きのこの英語(三)(森林総合研究所 九州支所)
  6. きのこと漢字(森林総合研究所 九州支所)
  7. ショウロの話(森林総合研究所 九州支所)
  8. ポルチーニのこと(森林総合研究所 明間民央氏のページ)
  9. サンコタケ(三鈷茸)(自然観察雑記帳)
  10. 九州の森と林業 No. 14
  11. Coprinopsis atramentaria(First Nature)
  12. The truffle: mushroom or tuber?(Pedemontis)
  13. ヒトヨタケ(GKZ 植物事典)
  14. ヒトヨタケ(Encyclopedia of Life)
  15. トゲミフチドリツエタケ – 博物館初の新種の標本 -(平塚市博物館)
  16. Meet SpongeBob Mushroom, a Funky New Fungus(Live Science)
  17. New Species of Magic Mushroom Named After Legendary Mycologist Paul Stamets(Paul Stamets)
  18. 『神農本草経解説』
  19. 『トリュフの歴史』
  20. 『原色きのこ図鑑』
  21. 『地域食材大百科 第4巻』
  22. 『世界たべもの起源事典』
  23. 『たべもの語源辞典 新訂版』
生命力を食べる。 人と菌の物語

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