【きのこを旅するvol.3】アートに登場するきのこ 先史時代から現代アートまで一挙紹介
2023.08.01皆さんは夏休みにお出かけする予定はおありでしょうか?夏休みの人気スポットのひとつに、美術館が挙げられます。また夏を過ぎると、芸術の秋も訪れますね。
きのこもまた、その可愛らしい容姿から絵画や造形物の対象となっている例が数多く存在します。実をいうと、はるか彼方昔の、アートの原型が誕生した頃より、きのこを題材とした芸術作品が登場しています。
今回は「芸術」をテーマに、先史時代の壁画から、皆さんもご存じのアーティストによる現代アート作品に至るまで、きのことアートの世界を旅していきます。ほっと一息つきながら、古今東西の芸術家を魅了してきた「きのこ」の世界をお楽しみください。
紀元前の世界にも存在した?古代のアートのきのこたち
“アート”とは、“創造的なものを作り出す人間の活動”のことです。文字が存在していなかった先史時代からアートは存在し、洞窟の壁画や土や青銅、鉄などでできた造形物が遺跡から発見されています。約6000年前のスペインの Selva Pascuala遺跡の洞窟から、きのこのような模様をした対象物の壁画が数点発見されています。この当時から、一部のきのこが幻覚作用をもっていたことが認知されていたのではないかという研究報告があるなど、人間ときのことの関係は古くから存在していたと考えられています。
場所が変わって、わが国日本でもきのこを模したと思われる造形物が見つかっています。
東北地方から関東地方にかけてきのこ型の土製品が発見されており、研究者によると祭礼の際に使われたのではないかと推察されています。
中世から近代へ、宗教画から静物画に描かれたきのこ
中世に入り、西洋ではキリスト教を中心に数多くの宗教画が描かれました。識字率の高くない時代に人々にメッセージを伝える手段として宗教画が使われたようです。
きのこ学の第一人者である小川真によると、キリスト教の起源ときのことのつながりが指摘されており、フランスのPlaincourault教会にある13世紀頃に作られたフレスコ画には、エデンの園でへびがりんごの木の代わりにきのこに巻き付いた様子が描かれています。
中世から近代に時代が進むと、宗教観の変化もあり、こうした宗教画に添え物として描かれる「花」や「果実」、「食品」等の対象物が絵画の対象そのものになります。こうした物体を描く絵画は西洋画のジャンルの一つで「静物画」と呼ばれ、静物画は17世紀頃からイタリアやオランダなどの国で独自のジャンルとして登場。リアリティのあるきのこの静物画も描かれるようになりました。
題材の一つとして「きのこ」が用いられる背景には、宗教画時代から、きのこは人々にとって神聖な存在であり、同時に身近な存在でもあったことを物語っているのかもしれません。
日本でも描かれたきのこをテーマにしたアート
西洋だけでなく、日本でもきのこをテーマにしたアートが登場しています。江戸時代初期から、独自の画法と構図をもつ「浮世絵」が誕生しました。同時代には、中国から輸入された本草書などの知識からきのこは薬として認知されていました。こうした背景もあり、きのこ狩りにいそしむ人々を描いた浮世絵が残されています。
また、明治時代の詩人で画家でもある竹久夢二(1884~1934)も、きのこを描いたイラストを残しています。装丁のデザイナーとしても有名だった夢二は、1915年に刊行した散文集『草の実』の表紙に、赤いベニテングタケを描いています。
なお、夢二は「紅茸」という詩の中で、「美しいものはただ見るものです。採つて食べてはいけません。」と謳っていますが、「ベニテングタケ」は有毒きのこ、一方「紅茸(ベニタケ)」は食用きのこであり、夢二はベニタケとベニテングタケの区別がつかなかったというエピソードも残っています。
モダンアートのきのこたち
アートの形式が多様化した現代においても、きのこに魅了されたアーティストが斬新な作品を残しています。
エミール・ガレ
日本の美術作品の影響を受けたこともあるエミール・ガレ(1846~1904)は、日本でも人気の高いガラス工芸家です。ガレは幼少期に住んでいたナンシーで植物に囲まれた生活を送っており、植物学に深い造形をもっていました。こうした背景からガレは植物を模したガラス工芸を残しており、晩年の作品にヒトヨタケをモチーフにした「ひとよ茸ランプ」や「ひとよ茸文花瓶」があります。
草間彌生
京都で日本画を勉強し半世紀以上前にニューヨークに渡った草間彌生(1929~)は、日本を代表するアーティストのひとりです。十和田市現代美術館のアート広場には、水玉のきのこのオブジェが異彩を放っています。《愛はとこしえ十和田でうたう》と題された彫刻作品は、私たちを草間の世界観の中へといざなうことでしょう。このほか、草間は不思議の国のアリスの世界観を自身のアートワークで彩った『不思議の国のアリス』を刊行しています。
村上隆
アートフィギュアなどサブカルチャーを現代アートに取り入れたアーティストが村上隆(1961~)です。村上の独自の世界観ときのことが融合した漫画風の絵(カトゥーン)を残しています。大きさの異なるきのこが登場するカトゥーンは、一部のきのこがもつ幻覚作用を表象しているのだといいます。
マリメッコ
鮮やかな色使いをしたデザインが人気のフィンランドブランド「マリメッコ」。フィンランドの独立100周年を記念して2017年に制作した「Veljekset(フィンランド語で「きょうだい」を意味する)」には、フィンランドの森に生息するたくましく表情豊かな動物たちとともにきのこが描かれています。フィンランドの昔話からインスピレーションを受けてデザインされたようです。
古今東西の人々を魅了する“きのこ”の存在
文字のなかった時代から現代にいたるまで、様々な時代・様々な形で人々の生活に登場してきたきのこ。きのこは食材としてだけでなく、存在そのものに潜在的な魅力があるのかもしれません。
また、きのこをテーマにした作品を過去から現在までみてみると、きのこは昔から人間にとって身近な存在であったことを改めて感じます。
今回ご紹介した作品の他にも、様々な場所・形できのこが登場している可能性もありますので、ぜひ、美術館などで目を凝らしてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- きのこは縄文時代から現代まで続く日本人の「食」のパートナー | きのこらぼ
- Does This Medieval Fresco Show A Hallucinogenic Mushroom in the Garden of Eden?
- 縄文時代のきのこについて
- 絵葉書や浮世絵などでたどる房総のきのこ文化
- 竹久夢二 – そのきのこ
- マリメッコ – そのきのこ
- Mushrooms by Takashi Murakami Background & Meaning | MyArtBroker
- Émile Gallé and nature: types and influences in his glass
- 『不思議の国のアリスWith artwork by 草間彌生』
- 「エミール・ガレと日本-その深き縁をご存じですか?」(『月刊美術』 Vol. 39, No. 5)
- 「17世紀オランダにおける静物画の成立について–ヴァニタスの理念を中心に」(『美学』 Vol. 38, No. 3)
- 『西洋美術史 = WESTERN ART HISTORY』
- 『キリスト教美術史 : カラー版 : 東方正教会とカトリックの二大潮流』
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