きのこふしぎ発見

エネルギー問題の解決にも!バイオマスエネルギーの未来を切り開く、きのこの特殊な力とは

2022.05.01
エネルギー問題の解決にも!バイオマスエネルギーの未来を切り開く、きのこの特殊な力とは

現在、日本をはじめ世界の多くの国は、多様なエネルギー問題に直面しています。ご存知のとおり、石炭や石油など化石燃料の埋蔵量は有限。このまま使い続けると、石油や天然ガスは約50年、石炭は約130年で枯渇してしまうと予想されています。

また化石燃料の消費は二酸化炭素を発生させるため、地球温暖化の深刻な原因にも。これら喫緊の問題を解決するために、さまざまな国、さまざまな企業で新しいエネルギー開発への取り組みがなされており、その中の一つとして、きのこの「ある能力」が注目され、研究が進められています。

今回は、エネルギー問題解決のカギを握るきのこの可能性をひも解いていきます。

代替エネルギーとして注目を集める「バイオエタノール」とは

化石燃料に代わる新しいエネルギーのひとつとして注目されているのが、バイオ燃料のバイオエタノール。バイオエタノールは、バイオマス(バイオ=生物資源、マス=量)を酵母で発酵させて製造するエタノールです。バイオエタノールを燃焼させたときに排出される二酸化炭素は、原料となる生物資源が成長する過程で空気中から取り入れたもの。つまり二酸化炭素の全体量はプラスマイナスゼロなので、「カーボンニュートラル」であるとされています。

バイオエタノールの原料は、理論的には生物に由来する炭水化物なら何でも構いませんが、技術的な点から、現在おもに使われているのはトウモロコシやサトウキビ。これらを原料とするバイオエタノールを第1世代バイオエタノールと呼んでいます。

しかし、トウモロコシやサトウキビは食物であるため、将来食料不足などが起きた場合には問題が生じる可能性を否定できません。そこで、木材や草木など地上に最も豊富にあるバイオマスを原料とした、第2世代バイオエタノールの開発が進められています。

きのこが救世主に?注目を集める「第2世代バイオエタノール」のメリットとデメリット

持続可能性の観点などから「木材や草木」に注目したバイオエタノール=第2世代バイオエタノールの開発が進んでいますが、これらの実用化には、ひとつの問題があります。それは、植物の木質に含まれている「リグニン」と呼ばれる物質の存在です。
リグニンは、木質の成分である「セルロース」と「ヘミセルロース」を接着させて植物の強度を高めている複雑な化合物。リグニンがあることで、木は強くまっすぐに立っていることができます。そんな複雑で強固なリグニンは分解するのが非常に困難とされており、微生物でもほぼ分解できないため「天然の防腐剤」と呼ばれているほどです。

木材などからエタノールを抽出するには、まずこのリグニンを「セルロース」や「ヘミセルロース」から取り除く「前処理」が必要です。リグニンを取り除いたあとに「糖化」「発酵」というステップを経てエタノールが抽出されるのですが、リグニンを取り除く「前処理」の工程に手間がかかってしまうために製造コストが高くなり、普及のネックとなっています。また、リグニンを取り除くには、高温、高圧下で酸やアルカリなどの薬品を使用するため、環境への負荷も無視できません。そこで注目されているのが「きのこ」です。

きのこの「リグニン」分解能力の活用と未来のエネルギー

きのこの中でも特に「ハラタケ綱」に属するきのこの一つである「白色腐朽菌」と呼ばれる種類のきのこは、地球上で唯一リグニンを分解できる生物とされています。食卓でなじみの深いシイタケやヒラタケ、マイタケエリンギなども白色腐朽菌のきのこです。

白色腐朽菌のリグニン分解能力を利用することができれば、木材などからエタノールを製造するのに手間のかかる「前処理」が必要なくなります。また白色腐朽菌であれば常温、常圧でリグニンを分解できるため、環境への負荷も抑えられます。現在、産業利用に適するような分解効率の高い菌の探索がされており、すでにいくつかの高リグニン分解能を持つ菌が見つかっています。

さらに、白色腐朽菌の中には、シロアミタケやアラゲカワラタケなどのように、アルコール発酵能をあわせ持つ種類もあります。それらを使うことで、前処理・糖化・発酵を1つのプロセスにまとめた、効率の良いエタノール生成の可能性も広がっています。

地球の歴史をも変えた?石炭紀の終わりに出現した「白色腐朽菌」とは

実はこのリグニン分解能力は、今、未来のカギを握るだけではなく、地球が現在の姿になるためにも欠かせない力だったのです。
恐竜が誕生するよりもさらに大昔、古生代後半の石炭紀(約3億6000万年前〜約3億年前)には、大型のシダ植物が地上で繁栄しました。この時代にはまだリグニンを分解する生物は存在していなかったため、シダ植物の遺骸は分解されずに地中に埋まって化石化し、時代の名前が表すように、石炭となりました。シダ植物が二酸化炭素を体に取り込んだまま石炭化したので、大気中の二酸化炭素量は激減し、地球は寒冷化して大規模な氷河が形成されました。そのため、この時代に多くの生き物が絶滅したと言われています。
「ハラタケ綱」のきのこ、中でも白色腐朽菌が出現したのは、そんな石炭紀の末期。リグニン分解能を持つ白色腐朽菌によってシダ植物の遺骸は水と二酸化炭素に分解され、二酸化炭素は大気に還元されました。きのこが進化し、リグニン分解能力を持つ白色腐朽菌が誕生したことで生物が生活できる地球が再び動き出したと言えます。きのこは、地球の二酸化炭素循環において、重要な役割を担っているのです。

この地上で唯一のリグニン分解能を持つきのこ。私たち生き物が生きられる地球をつくってくれた歴史の立役者が、何億年の時を経てまた、新たな未来を切り開こうとしているのかもしれません。

参考文献

  1. ゲノム情報解析で明らかとなった多様な木材腐朽菌の 起源と進化、木材学会誌 Vol. 65, No. 4, p. 173-188(2019)
  2. きのこの新たな機能性の探索、日本 きの こ 学会誌,Vo1.21(4 )155 .164,2014
生命力を食べる。 人と菌の物語

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