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きのこふしぎ発見

「きのこ肉」が食料危機を救うヒーローに!代替タンパク質の広がりときのこが秘める可能性

2022.04.01
「きのこ肉」が食料危機を救うヒーローに!代替タンパク質の広がりときのこが秘める可能性

地球上に7万以上の既知種数が生息し、そのうち約100種が食用に重宝されるといわれている“きのこ”。大地が育む栄養素を多分に含むきのこは、今も昔も、からだの免疫機能を高めたり、エネルギー補給を助けたり、身体を強くしてくれたりするスーパーフードとして私たちの健康を支えてくれています。
しかし、「菌類」であるきのこの世界は奥深く、およそ90%が未解明と言われています。その中でもいま、きのこは、食の未来を下支えする可能性を秘めた食材として注目を集めているのです。

今回は、代替タンパク質として注目を集める「きのこ肉」をテーマに、いま菌類が注目されている理由や「きのこ肉」の魅力についてお伝えします。

社会課題を目前に、急拡大する代替肉マーケット

皆さんは「代替肉」という言葉を聞いたことはありますか?
代替肉とは、動物性の肉ならではの味覚や食感を、肉に代わる素材で再現した食品のことです。その多くは、大豆などを原料としたプラントベースミートであり、牛や豚、鶏に続く「第4の肉」とも呼ばれています。年々、代替肉市場には新風が吹き込んでいて、植物由来の肉にとどまらず、革新的な開発競争が次なるトレンドを生んでいます。たとえば、動物の細胞から人工的に製造する「培養肉」や、二酸化炭素をたんぱく質に変換する「エア肉」なども、ホットなフードテクノロジーのひとつ。食の未来に欠かせない新たなタンパク源確保のため、欧米を中心に驚くような供給手法がとられています。

代替タンパク質の需要がスピーディーに拡大している背景には、大きな3つの社会課題が見てとれます。

① 生活習慣病の予防や健康志向の高まりのため
② 人口増加による食料不足の解消や環境保全のため
③ 動物倫理に配慮した社会実現のため

事実、代替肉ブームは、健康・環境問題・動物福祉に関心のある消費者によってリードされているのが現状です。アメリカのベンチャー数社は、植物肉に切り替えることの意義として、土地や水の消費量、温室効果ガス排出量が、動物肉より90%前後も少なくなったと公表しています。一方の日本も、大豆などをタンパク源としてきた食文化を武器に、独自の代替食品がバリエーション多く生み出されています。

食糧問題の救世主に!代替食品と親和性が高いきのこ

そんな代替肉市場において、いま注目を集めているのが、きのこの菌糸からつくる代替肉です。
前項でもご紹介したように、主な代替タンパク質には①植物性タンパク質 ②培養肉 ③微生物 ④昆虫類 ⑤藻類などがありますが、近年、複数のスタートアップ企業が新たな突破口に見据えているのが、いわゆる「マイコプロテイン(菌類によるタンパク質)」事業です。マイコプロテインとは、きのこを含む菌類の作り出す菌糸を培養・加工して作られるタンパク質です。

マイコプロテイン、すなわち「きのこ肉」が代替肉素材に適している理由は次の通りです。

・成長スピードが早く、コストの低減と量産化が可能となる
・食用肉と似た繊維状構造を持つため、鶏肉や赤みの肉に似た食感が味わえる
・低脂肪高タンパク食品として、代替肉の中でもより栄養価が高い
・大農地で生産する植物性タンパク質よりも環境負荷が小さい

きのこ由来の代替肉はその他の素材と比べても、高タンパク質・高栄養食品であることに加え、効率的な供給システムを構築できるのが魅力です。加えて、きのこをはじめとする菌類は、栄養分と環境さえあれば完全無農薬で作ることができるため、植物性タンパク質よりも安全で、持続可能なタンパク源となる可能性も秘めています。

きのこの効能・栄養価は折り紙つき

いま、代替肉市場をけん引する存在として改めてその栄養価が注目されている「きのこ」ですが、きのこは昔から薬の原料とされたり、貴重な栄養源とされたりと、様々な形で人類の健康に寄与してきました。
きのこを食用とする歴史は紀元前にまでさかのぼり、中国やヨーロッパでは早くから生薬としての効用が説かれていました。たとえば、中国最古の薬学書「神農本草経」には、霊芝(レイシ)類について「難聴や関節の働きを改善し、健全な心と精気を養い、筋骨を強くし、顔色を良くする」など、さまざまな記述があります。
またきのこは、動物の肉を食べる習慣を「物忌み」や「罪業」としてタブー視していた時代の貴重なタンパク源でもありました。事実、肉食忌避の仏教観を受け継ぐ精進料理では、今なお食材や出汁にきのこが多用されています。

加えてきのこは、動物でも植物でもない、自然の中間的な存在であることから、動物や植物の良いとこ取りをしたような優れた栄養効果があります。
きのこは一般的に、食物繊維やビタミンB群、ビタミンD、カリウムやリンなどのミネラル類が豊富です。その上、低カロリーで、様々なアミノ酸(タンパク質)が含まれるため、きのこ特有のうま味が強い点も特徴として挙げられます。他の生物群とは異なる栄養素やうま味があることからも、きのこの菌糸由来の代替タンパク質があらゆる主菜の新ブランドとして未来の食卓を賑わせるかもしれません。

「きのこ肉」が食糧問題を斬る!

市場調査会社のシード・プランニングは、世界の代替肉市場が2020年の110億ドルから、2030年には886億ドルになると予測しています。将来的な食肉の需要増にともない、代替肉の市場規模も10年間で約8倍になる見通しとされています。
しかし、かつてない代替肉旋風が巻き起こる中、一方では代替食品を非難する声も上がっています。代替肉には、畜産業に起因する温室効果ガスの削減や環境負荷の低減に繋がるというメリットはありますが、代替肉をつくる時にも、その多くは二重三重に加工されており、自然食品ではない、という点や、環境への負荷があるのではないか、という声があります。
その点、きのこをはじめとする菌類由来の肉は加工プロセスが少ない分、食の安全性に定評がありますし、きのこ肉であれば、農薬は不使用、添加物の使用も最小限に抑えながら、動植物よりも短期間で大量に生産することが可能です。

食糧問題に直面する今、今後ますます注目を集める代替肉市場において、菌類であるきのこが、より安全でより美味しい代替肉市場の新素材として、食糧危機を救う起爆剤となるかもしれません。

参考文献

  1. 内田真穂, 代替タンパク質の拡大と代替タンパク質をめぐる議論, SOMPO未来研レポート, 2021年3月Vol.78
生命力を食べる。 人と菌の物語

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