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きのこふしぎ発見

無農薬栽培や土壌の健康に、きのこが果たす役割とは

2022.12.01
無農薬栽培や土壌の健康に、きのこが果たす役割とは

12月は冬至、クリスマス、大晦日など行事食の献立を考える機会が増える時期ですが、最近はそれに用いる野菜もできるだけ安心・安全な栽培環境で作られたものを使いたいと考える人も増えてきています。

この記事ではそんな中で注目される自然栽培と、菌類がそれに果たす役割について詳しく解説します。

自然栽培とは?

自然栽培とは自然の生態系が持つ物理的・化学的・生物的な相互の働きや仕組みを活かし、無農薬・無肥料で農作物を育成する栽培方法です。

植物が成長するためには病気や害虫から守ったり、栄養を使えるように手助けしてくれたりする土壌微生物や、土壌動物が土の中にいることが大切ですが、農薬や化学肥料は土壌微生物や土壌動物を減らしてしまいます。

これは土の本来持つ、農作物を育成する力を減らしてしまうことにつながります。
しかし自然栽培では土の本来持っている農作物を育む力を尊重し、春夏秋冬の季節の流れに順応することを基本とするため、農薬や肥料を使わず時間をかけて土作り、種作りを行っていくのです。

自然栽培が注目される背景

自然栽培が注目されている背景には、農作物が健康に育つ以外にもSDGsに貢献できるということがあるのをご存知でしょうか。

SDGsとは2015年の国連サミットで採択された、「持続可能で多様性と包摂性のある社会実現のため、2030年を年限とする17の国際目標」のことで、Sustainable Development Goalsの頭文字を取って名付けられました。

SDGsは世界共通の成長戦略と捉えられますが、自然栽培は17の国際目標のうち目標2の「飢餓をゼロに」と目標12の「つくる責任 つかう責任」の2つに関わりを持ちます。

目標2を達成するには、従来の環境汚染が伴い持続可能とは言えない農業で農作物を作るのではなく、自然栽培のように環境負荷のない農業で食料を生産し、供給する必要があります。

また目標12を達成するには、なるべく少ない資源で生産や消費をすることを目指す必要があるため、農薬や肥料、資材を使わない自然栽培は持続可能な生産や消費に貢献していると言えるのです。

自然栽培において無肥料で農作物が育つ理由

自然栽培の特徴的な農作物の育成方法に無肥料があり、環境を汚染せず、肥料を購入するコストもかからないためメリットが大きいのですが、なぜ肥料を与えないのに農作物が育つのでしょうか。

農作物が育つのに必要な栄養素は次の3つです。
・窒素(元素N)
・リン酸(元素P)
・カリウム(元素K)

土壌の中に棲む菌類や細菌などの「土壌微生物」は、これらの栄養素を農作物が取り込みやすいようにするのを助けます。

例えば、きのこと同じ菌類に属する「菌根菌」は、農作物の根に「菌根」という共生体をつくり、農作物にリン酸を供給します。一方で、菌根菌は農作物の作り出す炭素をもらって成長するため、菌根菌と植物は相利(そうり)共生と呼ばれる互恵関係にあります。

では、どのように菌根菌が農作物にリン酸を供給するのでしょうか。土の中に存在する菌根菌の一部が農作物の根の中に入ると、炭素をもらって外生菌糸という細胞を土の中に広く伸ばします。すると、根から遠く離れたところからでもリン酸を運んでこられるので、農作物はより多くのリン酸を吸収することができるようになります。

植物は菌根菌がなくても育つことができますが、根の周りのリン酸しか吸収することができないため、いずれ根の周りからリン酸が欠乏してしまいます。そのため、農家はリン酸が不足しないように、大量のリン酸肥料をまく必要が出てしまいますが、これが土壌汚染や過栄養につながり、ひいては土壌の生態系のバランスを崩すことに繋がってしまうため、菌根菌を活用することで、土壌に負荷をかけずに栽培することが可能になります。

一方、細菌の一種である「放線菌」や「根粒菌」、「硝酸菌」は、農作物が必要なそのままでは取り込むことができない「窒素」を、農作物が取り込むことができる「硝酸イオン」へと変換させて植物へと供給します。

きのこが汚染されてしまった環境に対してできること

これからの農業においては、自然栽培を進めることで環境負荷を下げることができますが、既に汚染してしまった環境に対しても何かできることはないのでしょうか。

日本では1970年代半ばに、自然分解されにくく、生態系や食品に取り込まれることで人の健康に害を及ぼす有機塩素系農薬などの製造・使用が禁止されていますが、発展途上国ではこの有機塩素系農薬の一つであるDDTに変わる殺虫剤を調達するのが難しいことから、マラリア対策として未だに使用されています。

そこで九州大学大学院の近藤隆一郎氏は、食用きのこによるDDTの分解・除去を試みました。

さまざまな食用きのこを試してみた結果、ヒラタケが強力な分解機能を持っていることがわかり、ヒラタケ廃菌床(ヒラタケを栽培した後に廃材として残る菌床)を利用した汚染土壌の浄化も有効だったのです。

廃菌床は焼却すると温室効果のある二酸化炭素が発生するため堆肥化して畑にまくといった形で利用されていますが、これからは環境汚染の改善にも一役買うことになるでしょう。

最後に

自然栽培とは自然の生態系が持つ物理的・化学的・生物的な相互の働きや仕組みを活かし、無農薬・無肥料で環境負荷を下げながら農作物を育成する栽培方法ですが、土の中に棲む菌類や細菌などの土壌微生物が、農作物が育つのに必要な栄養素を効率よく吸収する手助けをしてくれるため、農作物が成長します。
また菌類の中でもとくにきのこは既に汚染されてしまった土壌を浄化する働きもあり、きのこをはじめとする菌類は持続可能で安心・安全な食材作りに貢献していることがわかります。

この記事も参考に、ぜひきのこや菌類が私たち人間だけでなく、地球全体の健康にも貢献していることに目を向けてみてはいかがでしょうか。

参考文献

  1. 日経文庫 村上芽 渡辺珠子「SDGs入門」
  2. https://agri.mynavi.jp/2021_06_22_160417/
  3. 日本きのこ学会誌VOL.21 近藤隆一郎「きのこの新たな機能性の探索」
生命力を食べる。 人と菌の物語

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