プロアスリートを支える食事に迫る。第48回 チアダンス・豊田 典子さんインタビュー
2024.11.01明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回はチアダンスのカリスマ・インストラクターとして子どもたちに絶大な人気を誇る豊田典子さんが登場。チアダンスを始めたきっかけや学生時代の活躍、指導を手掛けるようになってから感じていること、アスリートの食生活・子どもたちへのメッセージなど、幅広くお話しいただきました。
はじめに、チアダンスとの出会いを教えてください。
実は高校までは全くスポーツをやったことがなくて、チアダンスは大学から始めました。玉川大学のダンスドリームチームは私が高等部在学中から有名で、同じ敷地内にある体育館で練習している姿を遠目から見ることがありました。
大学に入学した直後、体験入部ができると聞いて「なら行ってみようかな」とふと思ったのがきっかけで、実際に参加すると、ポンポンを両手に持った簡単な振りを先輩たちが教えてくれて、本当に親切で優しかったし、すごく楽しかった。「これはいいな。やりたいな」と素直に思いました。
全国屈指の強豪校ということもあり厳しさもある環境だったと思いますが豊田さんはどうでしたか?
高校生の時から柔軟だけはやっていたので、比較的早く馴染めましたが、基礎がないのでそこはすごく苦労しました。2分半の演技をするにしても、持久力や筋力が必要になってくる。走りとかの体力強化や筋トレをすごくやらなくてはついていけず、「体験入部とは全然違うな」と感じたくらいです。
練習は週4回あって、まずストレッチからスタートして、筋トレ、ステップワーク、ジャンプやターンなど足の動きの練習、そしてダンスというのが通常のルーティン。それだけでは振り付けは覚えられないので、家に帰ってから自主練もやりました。学業そっちのけでチアダンスにハマっていましたね。
初心者だった豊田さんがそこまで夢中になれた要因は?
それまでの自分は何かに打ち込んだ経験がなかったので、「ここまで物事に打ち込んでいる人たちがいたんだ」「こんなに一生懸命やらなきゃいけないんだ」と衝撃を受けたことが一番大きかったですね。本気で向き合うものに巡り合えたというのかな。
すでに幼い頃から好きなことを必死に取り組んできた人もいれば、一生巡り合えない人もいる。それは運で、私にとっては大学時代がそのタイミングだったんだと思います。チアダンスと出会ったことで、間違いなく人生が豊かになったと思いますし、「物凄く一生懸命やった」という経験ができたことが大きかった。自分の中でチアダンスと出会わないまま行っていたらダメだっただろうな、という感覚もあります。
チアダンスと衝撃的な出合いをされ、大学2年の全日本学生選手権では優勝されましたが、どんなことを感じましたか?
自分は先輩たちや引っ張ってくれる人にどうついていくかで必死でしたが、達成感は大きかったですね。チアダンスは誰1人欠けても全体の演技が成り立たないので、1人1人が異なる役割や課題をしっかりとこなして、パズルのピースのようにならないといけない。その結果として1つの作品になるんです。
だから、踊った瞬間よりは、終わった後に余韻を感じたというのかな。「どうかな、大丈夫かな、ちゃんとできたかな」と不安を感じながら演技をして、後から見直した時に1つの完成形に見えるという感じで、後からジワジワ来るんだなと。点数だけでは見えてこないところがありました。
学生時代に頂点に立たれた豊田さんですが、その後はインストラクターの道を歩まれます。どんなきっかけがあったのでしょうか。
大学卒業後、劇団ひまわりの事務スタッフに就職したのですが、インストラクターがお休みした時に「代講をやってほしい」と言われて引き受けたことをきっかけに、また少しずつダンスをする機会が増えていきました。
会社を退職してインストラクターとして仕事をするうちに、「戦隊ヒーローものの振付師を探しているんだけど、やってみないか」と声をかけていただいたり、「日テレ読売文化センターで教えませんか」と大学の先輩から紹介されたりしました。
それらの仕事を引き受けたことをきっかけに、未就学児を3か所くらいで教えるようになったのですが、その子たちがどんどんうまくなっていったので、小学生になってからは全日本チアダンス選手権ジュニア部門にも出られるクラスを作って継続して指導をしました。2008年には2位にもなり、4歳で出会った最初の子たちは中学3年生まで教えることになりました。
ここ10年くらいの間に日本でのチアダンスの位置づけや知名度は大きく変わってきたと思いますが、いかがでしょうか?
そうですね。昔は習い事のダンスと言えばバレエとジャズだったのが、今はチアも選択肢として挙がるようになったのは確かだと思います。ママ友さんも「娘の習い事はチアかバレエ」とよく言っていますし、本当に不思議な気持ちになります。
でもそれは、子どもたちの生活において踊ることが身近になったことが大きいと思います。動画やテレビCMでもダンスの入ったものが多いですし、人気のアーティストの方々も歌とダンスもセットなっていることは多いですよね。今の子どもたちはダンスを日常的に見ているから、チアに入り込むのも早い。リズム感も動きもいいですし、頭の中で先にイメージが出来上がっているんでしょうね。
表現っていうのは、その子が本来持っているけど、表に表れていないものを見せること。ダンスをすることで気持ちが楽になったり、心が穏やかになったりするのは素敵だなと思います。そういう場所を作れたら理想的ですね。
チアダンスは見栄えの美しさも重要なポイントですが、豊田さんは学生時代から食生活に注意していたのでしょうか?
もともと消費カロリーが激しい競技なので大学生の時はそこまで意識していませんでしたが、少しでも太ってしまうと衣装がキレイに着られなくなるので、コーチに怒られてしまうことはありました。
そういう時は食事にきのこを活用していましたね。カロリーがほとんどないし、手軽で栄養もあるので、本当に有難い食材だなと思います。お腹いっぱいになりやすいのでよくお味噌汁に入れていました。焼いてもOKですし、煮ても蒸してもいい。何をやっても邪魔しないし便利な食材で助かっていました。
結婚・出産を経た今も、ご家庭できのこを料理されていますか?
シメジからエノキ、しいたけ…と本当に全て料理に使うことがありますね。娘たちもダンスをやっているんですけど、特に長女は中2なので体型を気にする傾向が強いんです。私と同じように「きのこを食べていれば大丈夫」と本人も考えているみたいで、我が家の冷蔵庫には必ず入っている食材になっています。
きのこには腸内環境を整える効果もありますが、腸内環境を意識して食事を考えたことは?
そこに関しては昔は知識が乏しくて、あまり意識したことはなかったんですけど、体のためには体に良いものを摂取することが重要だと思っていました。私自身も腸内環境がよくなかったり、便秘したりする時があるので、今は積極的に摂るように意識しています。
娘さんのお話もありましたが、いまは子どもでもダイエットを意識することが珍しくなくなりました。体型維持をするために気を付けることはなんでしょうか?
今の時代は「痩せていればキレイに見える」「ぽっちゃり体系はNG」みたいな意識が強くて、ムチャなダイエットをする子どもも増えていると感じます。だからこそ、栄養教育が必要だと考えています。
友人の栄養士を呼んで話をしてもらう機会を作ることもあって、「骨は子ども時代にしか作ることができないし、バランスのいい食生活が将来に影響する。野菜だけ食べればいいわけじゃないし、あらゆる栄養素をバランスよく食べることがすごく大事」という話をまずしてもらっています。
そのうえで「バランスよくっていうのが難しいと感じるなら、スーパーで野菜を見るところから始めるだけでも意味がある。『春はこの野菜が安いんだ』とか『こんな種類が出ているんだ』と興味を持つところから始めてほしい」と伝えていますね。自分が食べているものがどういうものなのかを理解することが、正しい食生活への大きな一歩になりますからね。
できあいの食事ばかりを摂っていたら、「材料は何」「これって何からできているんだろう」とは考えないですからね。
そうなんです。今の子どもは放っておいたら好きなものしか食べないかもしれません。コンビニは24時間営業ですし、いつでもどこでも食べ物を買える環境だから。でもやっぱり大事なのは自宅での食事だと思います。「手抜きでもお母さん、お父さんのご飯だよ」とも子どもたちにはよく言っています。見た目よりも、手作りの食事でこれから先の自分を大切にしてほしいですね。
あと子どもたちに言いたいのは、「お菓子を食べたいんだったら、夜寝る前だけ我慢すること」ですね。食べる時間や量を調整できれば「今日は食べちゃえ」という日があってもいいと思う。自分を客観視して、コントロールできていれば問題ない。「自分で決められる心」を私は指導したいと思っています。
豊田さんのDo my best,Go!
■ 好きな言葉は?
「人はいつでも変われる」ですね。その前提に「人は間違えるもの」というのがあるんですけど、そういう失敗を経て、本気で変わろうと思ったら、人間ってすごい力が出るものなんです。私も大学1年でチアダンスに出会うまではダラダラした生活を過ごしていたのに、「本気でやろう」「やるしかない」と思って、突き進んでいった。何かを決意して行動できるのは自分しかいない。いつでもそうなれるんですよ。
今の時代、子どもたちは「失敗はダメなこと」「失敗したら怒られる」といった考えが根強いですけど、そういうことは考えてほしくない。今、何かしたいと思ったらいつでも動き出せるし、自分を変えられる。そのことはぜひ伝えたいと思います。
■ ―競技人生の中で忘れられない大会は?
大学1年だった98年3月に出場したALL JAPAN CHAMPIONSHIP JAL CUPです。初めて参加した大舞台で、緊張とか恐怖とかいろんな感情が入り混じって、本番を迎える前から涙が止まらなかったんです。実際に踊った時のことは記憶がほとんどない。「やるべきことをやらなくちゃいけない」とだけ意識していて、気づいたら終わっていました(苦笑)。
ダンス自体はできていたんだと思うんですけど、本当に無心だったんでしょうね。大人になると日常でそこまで必死に頑張ったり、感動したりすることはなかなかない。だからこそ、学生時代のそういう体験は貴重だなと改めて痛感させられます。
■ ご自身にとってチアダンスはどんなもの?
人生の始まりで、自分を豊かにさせてくれるもの。本当に自分自身を目覚めさせてくれた大きな存在です。チアダンスをやっていなかったら、今までの沢山の人との出会いも仕事もなかった。そう思うと本当に素晴らしいなと感じます。
■ リラックスや切り替えは?
料理をすることですね。普段は子どもたちが好きなものをローテーションで作っている感じですが、お肉・お魚・野菜料理が中心ですね。
子どもたちは餃子を作ると物凄く喜ぶので、餃子はかなり頻繁に登場します。それ以外だとトマトとチキンの煮込みも好きですね。煮込み料理は簡単でおいしいのでよく作りますね。夏の暑い時に油料理は大変ですけど、天ぷらも揚げますね。とにかく子どもたちの希望に沿う形でメニューを考えています。
■ 今後の目標は?
まだ漠然としているんですが、ダンスを教えることは続けていきたいと思っています。それがチアダンスなのか、キッズダンスなのか、違うジャンルのダンスなのかはまだよく分からないんですが、やめたくないですね。
今の時代はデジタル化が進んでいて、人と人のつながりが希薄になりがちなところがあると思います。でもダンスはデジタルじゃないし、リアルに存在するもの。人の思いや努力があって成り立っている。ダンスに関わることで友達ができたり、コミュニティが生まれたりすることもある。私もそういう場所を作っていければ素敵だなと感じます。
私が教えている子どもたちが出るイベントでも、ショータイムに70~80代のおばあちゃんたちがミニスカート姿で参加することがあるんですけど、すごく笑顔でかわいらしいんです。ポンポンを持って踊るだけで華やかに見えますし、年齢に応じたダンスを作ることもできる。そうやって世代を超えて楽しんでもらえる機会を増やしたいですね。
豊田さんが今食べたい菌勝メシ
コメント
現役時代も指導者となった今も、食事の栄養バランスを大切にしています。きのこは栄養が豊富なのでどんな料理にも使いますが、腸内環境もとても意識しているので、その点からも重宝しています。具沢山のアクアパッツァは栄養も豊富で、お魚ときのこの出汁が食欲をそそりますね。
きのこと鮭のハーブ蒸し
きのこに豊富なビタミンB1は糖質を代謝してエネルギーチャージをサポートすると共に、熱を生み出して身体を温めます。また、きのこに含まれるビタミンB6は鮭のタンパク質の代謝を促して身体づくりを後押し!アスリートを応援するヘルシーメニューです。
profile
(とよだ のりこ)
1979年3月24日生まれ、チアダンス・インストラクター
ライツ所属、神奈川県川崎市出身
玉川学園高等部―玉川大学―劇団ひまわり―フリー
玉川大学入学と同時にダンスドリームチームに入部。本格的にチアダンスの世界に足を踏み入れる。そして1年後の98年ALL JAPAN CHAMPIONSHIP JAL CUPでいきなり第3位に入ると、翌99年の全日本学生選手権 STEVA CUPでグランプリを獲得。学生の頂点に立つことに成功した。
卒業後の2001年には劇団ひまわりに入社。最初の1年間は事務スタッフとして働いていたが、子どものダンスレッスンの指導を頼まれるようになり、徐々にそちらがメインになる。2002年には「忍風戦隊ハリケンジャー」のエンディング・劇中ダンス振付に携わり、そこから4年連続で戦隊シリーズのダンスを担当した。
2006年には劇団ひまわりを退社し、日テレ読売文化センタージュニアダンスクラス・インストラクターに。そこから複数のダンスレッスンを受け持つようになり、子どもたちに絶大な人気を博す。2004年~2008年にかけては「HONEY BABY」のジュニアタンス大会に子どもたちを送り出し、数々の実績を残した。
その後に結婚・出産を経験。しばらくは子育てに専念していたが、子どもたちが通う幼稚園や小学校で指導するようになり、徐々にダンス界に復帰。2019年には「SAKURA~すてきなチアリーダーの教室」をプロデュース。2020年にも「中目黒キッズチアダンススクール」をプロデュースし、家庭に軸足を置きながらも草の根からチアダンスの普及に努めている。
協力:THE DIGEST
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