プロアスリートを支える食事に迫る。第47回 女子バレーボール・大山加奈さんインタビュー
2024.10.01アスリートのインタビューから、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回は2004年アテネ五輪にバレーボール女子日本代表の一員として参戦し、現在は解説やイベントなどでバレーボール普及に携わる大山加奈さんです。バレーボールを始めたきっかけや学生時代に「日本一」になるために考え実践したこと、アスリートの食生活など、幅広くお伺いしました。
大山さんは小学校2年生の時にバレーボールを始められたそうですね。当時は喘息も患っていたと聞きましたが、始めたきっかけや、どのように取り組まれたのか教えてください。
先輩に誘われて、練習を見学に行ったのが最初でした。その先輩たちがバレーボールしている姿がキラキラ見えたのは大きなきっかけになりましたね。それまでほとんど運動してこなくて、家に閉じこもっていたので、みんなで一緒に何かするとか、みんなで一緒に一つのボールを追いかけるところに憧れを抱きました。
でも当時は喘息を患っていたので、両親から反対されましたが、どうしてもバレーボールがしたくて両親を説得しました。
幸いにも3年生になった頃には喘息は出なくなっていきましたね。バレーボールを始めてからはすごく楽しくて、周りから期待もしてくれて自分もやる気になって、目標に向かって頑張っていく流れもできたおかけで体も強くなっていった気がします。健康になれたのは本当に大きなことだったと思います。
小学校6年生の時には全日本バレーボール小学生大会(ライオンカップ)で全国制覇を果たし、成徳学園中学校に進まれましたね。当時を振り返っていかがでしょうか。
中3の時に自分の中で大きなターニングポイントがありました。中1と中2に目標にしていた日本一を逃し、中3のラストチャンスを前に「どうしたら勝てるんだろう」「何が自分に足りないのだろう」とすごく考える時間があったんですね。
そこで気づいたのが、「今の自分が日本一に相応しくないからだ」ということ。当時の私はバレーボール以外のことを全く頑張れていなくて、疎かになっていました。中1~中2にかけては、自分にとって一番大事なバレーボールを言い訳にして勉強もしない、家の手伝いも一切しないという感じでした。もう授業態度も良くなかったですね。
しかし、「だから勝てないんじゃないか」とある時、気がついた。そこからは「日本一に相応しい人になるためにどうすべきか」を真剣に模索し始めました。いろんなことを頑張れるようになって、結果的に中学3年生で日本一になれたんです。やっぱりバレーボール以外のことも一生懸命、頑張れる人じゃないとダメなんだなっていうことに気がついた。それは本当に大きなことでした。
成徳中学で3年の時に頂点に立ち、成徳高校に進んでからは、ともに日本代表でプレーした元日本代表キャプテンの荒木絵里香さんと出会われます。当時の印象を教えてください。
絵里香とは高校2年の終わりくらいまではあまり仲が良くなくて、あんまりコミュニケーションを取っていなかったんですが、2年のラスト、春高バレーの予選で絵里香と大ゲンカをしたんです。
初めて腹を割って話し合って、実は私と絵里香は態度や行動は違うけれども、本気で日本一を目指しているし、チームのことを本気で考えている。その気持ちは一緒だと分かった。「自分と違う考え方を持つ人のことを排除したらダメだな」ということに気づきましたね。それと同時に「相手の表面上の行動だけを見て、『この人はこうなんだ』と決めつけちゃいけないんだ」ということも学びました。
そこからはお互いに力を合わせてやれるようになり、チームもぐんぐんと強くなっていって、3冠を達成することができました。
日本一になるためには、それぞれで違うやり方もあると分かったし、もっとみんなが伸び伸びやっていいんだと思えた。自分自身に大きな気づきを与えてくれた出来事でした。
高校時代に成果を挙げて、2003年に東レアローズ入り。同年のワールドカップで大活躍して「メグカナブーム」で日本中を湧かせましたね。未来への希望に満ち触れていた大山さんでしたが、2004年アテネ五輪が近づくにつれて徐々に顔が曇っていく印象がありました。
腰がとにかく悪くて、ワールドカップが終わった後のリーグでも動けないくらいになってしまったんです。セミファイナルという大事な試合に出られない状態まで陥ったのに、そのまま代表に行っていました。
それが2004年春の、オリンピック直前の頃には練習がかなりきつくて、ケガでパフォーマンスも出せない。でもメンバー選考は当落選上でしたし、やらないといけない。そういう難しい状況のなか毎日すごく怒られて、頑張れば頑張るほど腰が痛くなる、パフォーマンスが落ちる…という悪循環になってしまった。本当に辛い状況でしたね。
それでもアテネ五輪はメンバー入りし、初めて大舞台に立ちました。
正直、ほとんど記憶がなくて、もう余裕もなくていっぱいいっぱいでした。
アテネの後、1回バレーボールから離れたんです。腰の状況がよくなかったので、リハビリに専念しました。でも国際大会が国内で開かれると招集されて、コンディションが中途半端なまま代表行って、また離脱することの繰り返しで、すごく後悔しています。
しっかりと心も体も万全な準備ができてから行っていれば、違う未来だったんじゃないかなという思いもある。やっぱり中途半端に競技復帰するのはよくないなと痛感しています。
その後、手術も受けながら現役生活を続けますが、2010年6月に引退。引退後は、東レに籍を置きつつ、バレーボールの普及活動や応援、解説のお仕事をされていますね。現在(2024年8月現在)はWEリーグの理事やヴィアティン三重の女子のエグゼクティブアドバイザーの仕事もされていますが、どのような思いがありますか?
いろんな競技の理事をやらせてもらっているんですけれど、元アスリートの立場や、働く女性という立場で物事を捉えてほしいという要望をいただいています。ただ、まだ十分にやれている実感がなくて、どちらかというと、私が理事会で勉強させてもらっているような感覚ですね。この経験を先々のスポーツ界に還元できたらなと思っています。
ここからは、大山さんの食事面について教えてください。子ども時代の食事はどうでしたか?
食べることは大好きで、とにかくよく食べていましたし、出されたものは残さず食べるということは意識していました。「残さず食べる」という教育は、母からも小学校の監督からも割と徹底されていたので、頑張って食べていましたよ。
大山さんは10代の頃から日本代表入りしていますが、栄養士さんからの指導などを受ける機会もありましたか?
代表活動の時は栄養士さんが作ってくれたものを食べるという感じで、栄養指導を受ける機会はなくて、自分もそこまで栄養に対する高い意識は持っていなかったです。
東レに入ってからは、寮で食事をするようになったので、栄養バランスのよい食事でしたが、便秘が結構ひどい体質だったので、食物繊維を摂取するように心がけていました。発酵食品の納豆や漬物、キムチは出された食事以外に自分でも用意して食べていましたし、きのこに腸内環境を整える効果があるということで、栄養士さんが作ってくれるご飯には頻繁にきのこが出てきましたね。おかげで、きのこは今も家に常備しています。
きのこは昔からよく食べられていたのですね。きのこ料理で好きなものはありますか?
特に味噌汁が好きです。あとはバター炒めがおいしいですよね。ウチでも今、ベーコン炒めをよく作っています。
きのこは美味しいですし、栄養価も高いというのは献立を考えるうえで重要なのでよく使う食材です。身体のことを考えてお味噌汁は毎日出したくて、うま味が入ると味が深くなりおいしいと感じます。どの食材と合わせてもおいしく食べられるのもありがたいポイントですね。
よく使うきのこはありますか?
一番使うのは、しめじですね。やっぱり使い勝手がいいので。しいたけも好きですし、エリンギも好きですし、まいたけもおいしいです。
ウチはきのこが冷蔵庫に入っている率は高くて、きのこなどを摂ったりすることで便秘になりやすい体質も改善されています。
大山さんにとって、ベストパフォーマンスを出すための食事はありますか?
これというのはないのですが、和食の方が力は出るなというのが肌感覚としてありました。一番好きな食べ物はおにぎりなので、おにぎりを食べると元気になりますし、テンションも上がりますね。
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今、親になってお子さんの食事について考えることはありますか?
タンパク質がどうしても少なくなりがちなので、しっかり摂らせること、また、野菜もそんなに食べてくれないので、いかに野菜を食べてもらえるメニューを作るかということは考えています。また、現在は娘が便秘症で困っているのできのこ料理や発酵食品などがしっかり摂取できるよう意識しています。
最後にアスリートへのアドバイスをお願いします。
スポーツは本来、心身の健康を作ってくれて、エンジョイするものだと思うんです。でも、そうではなくアスリートを追い込んでしまうケースも多いのかなと思います。だからこそ、「何のためにスポーツやっているのか」というところを大事にしてもらいたいです。目標に向かって頑張ることも大切だし、素敵なことです。それ以上に「何のために」「なぜやっているのか」、そして「自分がどうなりたいか」をイメージしてもらえるといいかなと私は思っています。
食事面でのアドバイスも、お願いします。
一番は楽しく食べましょう、ということですね。子どもを持つ親御さんには、食事が苦痛な時間にならないようにしてほしいというのは伝えています。「あれ食べなさい」「これ食べなさい」と言ったり、「残さず食べろ」「嫌いなものを食べろ」と注文を付けると気持ち的に嫌になってしまう。それよりも、しっかりと楽しく食べることの方が大切ですよね。意識できるならば、成長期に欠かせないタンパク質やカルシウムなどは積極的に摂ってほしいと思います。
子どもに指導するときには「みんなは今、勉強も頑張っているし、スポーツも頑張っているし、エネルギーをたくさん使っているんだよ。だから、エネルギーしっかりと摂ってあげないとダメだよ」といった話をよくしています。
大山加奈さんのDo my best,Go!
■ 好きな言葉は?
現役時代は「練習で泣いて試合で笑う」だったんです。でも引退してから、「練習で泣く必要あるのかな」と疑問に感じるようになって、考え方が変わりましたね。
選手をやっていた頃は、「練習で泣くくらい、厳しく辛いことやらないと勝てないし、試合で笑えない」と思っていました。でも「いやいや、違うな」と徐々に気づいていきました。
スポーツ本来の価値は、体を健康にしたり、仲間を作ったり、そもそも楽しむためのもの。「自分の現役時代の競技人生は本当に幸せだったのかな」と考えた時、そうじゃないなということに気がつきました。だから、今はないですね。
■ 競技人生の中で忘れられない大会は?
高校3年生の春高バレーの決勝戦ですね。相手は三田尻女子(現誠英)高校で、結果的には優勝したんですけど、「試合が一生終わらなければいいのに」っていう感覚でずっとプレーをしていたんですよね。
相手のエースがメグ(栗原恵)だったんですけど、メグに決められても、全然悔しくないんですよ。こっちもまた決め返すから。「このまま永遠に試合が続いてほしいな」と思いながら戦えたんです。
そんな経験ができるってなかなかないと思うんですよね。普通は「早くセットを取りたい」とか「早く勝ちたい」って考えるから。そういう試合を経験できたことが本当に幸せだったなと痛感します。
■ ご自身にとってバレーボールはどんなもの?
本当に沢山の財産を与えてくれたものですね。もちろんバレーボールをやっていなかったら、こんなに辛い思いをしなかったのに…と考えることもあるんですけど、幼少期にひどかった喘息がよくなって、健康を手に入れられましたし、何よりも仲間ですね。バレーボールを通して得た仲間は本当に一生の財産だと思います。
今でも辛く苦しいことがあった時、そばにいてくれるのは、一緒にバレーボールをしてきた仲間たちなんです。バレーを本当に真剣に頑張ってきたからこそ、手にできた財産なんだなと思っています。
■ リラックスや切り替えは?
現役時代はなかったですね。私は1人でいるのが割と好きで、あんまり外に出ないタイプだったので、部屋に閉じこもって過ごすことも多くて、メンタル的なリフレッシュや切り替えがあまりできなかった。「それがあれば…」と今になるとすごく後悔しています。
ただ、リラックス方法というのは、自分で見つけようとしてもなかなか見つからないものなのかなと。今は「推し活」って言葉がありますけど、そういうのがあれば人生、豊かになったのかな…。「推し」があるのがすごくいいことだと感じます。
引退した今はワンコが癒しの存在になっていますね。この5~6年間、匂いを嗅いで、一緒に散歩して、外の自然も見たりするようになりました。それで心身ともに健康になりましたね。子供たちもワンコが大好きなんです。選手の頃から飼えたらよかったかもしれないですね。
■ 今後の目標は?
座右の銘のところでもお話ししましたけど、私のもともとのバレーボールに対する価値観は「練習で泣いて、試合で笑う」だったんですけど、そうじゃないと気づいた。それを多くの若いアスリートや子供たち、子供たちを取り巻く大人たちに伝えていきたいと思っています。
「スポーツとは何か?」という問いの答えは個人個人いろいろあるとは思うんですけど、やっぱり心身ともに健康であることが何よりも大事だと思います。「スポーツは本当の健康を作るためのものなんだよ」ということはしっかりと伝えていきたいですね。
私はプレイヤーデベロップメントマネージャー(PDM)の養成講座も受けましたけれど、アスリートに作られてしまったよくない価値観や固定観念をちょっとずつちょっとずつほぐして、いい方に持っていってあげられたらなというのが今の願いです。そのためにできることから頑張っていくつもりです。
大山さんが今食べたい菌勝メシ
コメント
現役時代は食事の量をしっかり摂ることをまず意識していました。私は今も昔もおにぎりが大好きなのですが、このレシピは栄養価の高いきのこや、卵、チーズも入っているので栄養バランスが良く、手軽にしっかり栄養が取れるところがとても魅力的ですね!
きのこで元気!おにぎり
きのこには、エネルギーづくりに欠かせないビタミンB群が豊富なため、ごはんと合わせることで効率の良いエネルギー補給が叶います。また、卵の良質なタンパク質、じゃがいものビタミンCなど健康な身体づくりに役立つ栄養素も豊富なため、アスリートの身体ケアを後押しします。
profile
(おおやま かな)
1984年6月19日生まれ、187cm・84㎏
ライツ所属、東京都江戸川区出身
成徳学園中学校―成徳学園(現下北沢成徳)高校―東レアローズ
小学校2年生からバレーボールをはじめ、小学校6年時の前日本バレーボール小学生大会(ライオンカップ)で全国制覇。「バレー界の金の卵」と注目される。成徳学園中学校時代には3年時に全国中学校大会制覇。成徳学園に進んでからも高校3年で高校総体、国体、春高バレーの三冠を達成。小中高全ての年代で頂点に輝いた。
高校時代の2001年に日本代表に初選出され、2002年5月の日米対抗でデビュー。同年の世界選手権とアジア大会(釜山)では唯一の高校生プレーヤーとして試合出場を果たす。
そして2003年に東レアローズに入団。同年開催のワールドカップでは栗原恵(当時NECレッドロケッツ)とともに「メグカナ」と呼ばれ、19歳コンビが5位躍進の原動力となる。2004年アテネ五輪にも参戦。日本の新エースとして期待が高まったが、持病の腰痛が悪化。思うようにプレーできなくなる。2008年北京五輪期間に手術に踏み切り、完全復活を目指したが、2009年に再発。26歳になったばかりの2010年6月末に現役引退を決断した。
その後は日本バレーボール機構への1年間の出向を経て、東レに復帰。広報室に籍を置いてバレーボールの普及活動や解説業を手掛ける。2015年に結婚し、2020年に双子の女の子を出産。現在は子育ての傍ら、WEリーグ理事やヴィアティン三重女子のエグゼクティブアドバイザーにも就任するなど、公私ともに精力的に活動をしている。
協力:THE DIGEST
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