カギを握るのはきのこ!持続可能な社会の実現を目指して
2022.10.01人はこれまで、自然から得られた材料を加工して製品にし、使い終わったら廃棄するという一方通行型の経済活動を行ってきました。しかし、現在の大量廃棄社会が引き起こしている環境汚染や生態系の破壊、エネルギー・資源の枯渇などの問題は非常に深刻です。そのため、これまでの一方通行型経済から、廃棄物を資源と考えリサイクルさせる「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への移行が世界的な目標となっています。
このサーキュラーエコノミーを構築するための鍵となるのが、きのこを原料とする製品です。きのこの菌糸体はさまざまな製品の原材料になりうるうえに、菌糸体から作られた製品は耐久性が高く、生分解性にも優れています。まさにサーキュラーエコノミーの主役となる素材だといえるでしょう。
「きのこ」と聞くと、食卓を彩る風味豊かな食材をイメージする方も多いと思いますが、これからはきのこを食べるだけではなく、きのこを着たり、きのこに住んだりする時代が訪れるかもしれません。
今回は、前回の「マッシュルームレザー」に引き続き、きのこを素材とした建築材や代替プラスチックについてご紹介します。
サステナブルなきのこの家
「きのこの家」はもはやおとぎ話の中だけではなくなるかもしれません。低コストで環境にやさしいサステナブルな建築材料として、きのこをベースとした建材が注目されています。
私たちが普段手に取るシイタケやエノキタケを想像すると、こんなに柔らかいきのこでどうやって家が建つのだろうと疑問に思われるかもしれませんが、建築材料に使われるのは、きのこの菌糸体(植物の根にあたる)の部分。菌糸体は乾燥させると非常に固くて軽い性質を持ちます。
きのこの菌糸を使ってつくる建材「きのこレンガ」は、菌糸体と農業廃棄物などを組み合わせて作られます。わらなどの農業廃棄物を母材にして菌糸体を培養すると、菌糸体は母材を分解しながら全体に菌糸を張り巡らせます。必要な形に成長したところで乾燥させて菌糸体の活動を止めれば、耐火性、断熱性、軽量性という優れた性質を備えたきのこレンガが完成します。
きのこレンガは新しいバイオ素材として注目を集めており、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のP.S.1による若手建築家プログラム2014では、菌糸体ベースのレンガ1万個を使った高さ12メートルの作品「Hy-fi」を制作した建築チーム「The Living」が優勝して、話題になりました。
また、2019年にオランダで開催されたデザインのイベント「デザインウィーク」には、バイオベース建材の可能性を象徴するパビリオンとして、88枚の菌糸体ベースのパネルを壁にしたパビリオン「The Growing Pavilion」が登場しました。
美しい防音材
菌糸体ベースの建材は、耐火性、断熱性、軽量性だけではなく防音性も優れているため、ノルウェーの企業では、菌糸体と農業や製紙業の廃棄物を用いた防音材が開発されています。菌糸体ベースの防音材は、業界標準の防音性能があるのはもちろんのこと、使用が終われば100%堆肥化することができ、さらにはその素材の風合いの美しさから、アートとしての側面をも備えています。
プラスチックに代わる環境にやさしい菌糸体素材
身の回りにあふれているプラスチック製品。しかしプラスチックは非常に自然分解しにくいため、細かくなったマイクロプラスチックによる環境汚染や、原料となる石油資源の枯渇など、さまざまな問題があります。
これらの問題を解決するために開発されているのが、菌糸体を使った代替プラスチックです。中でも実用化されつつあるのは、菌糸体をベースにした梱包材。麻の繊維工場から排出された麻の皮と菌糸体で作られた梱包材は、乾燥状態では非常に安定した素材でありながら、細かく砕いて土に埋めれば堆肥にすることができます。従来の梱包材であるプラスチックの発泡スチロールに代わるものとして期待されており、すでにスウェーデン大手家具メーカーのイケアやコンピューターメーカーのデルでは使用への取り組みが始まっています。
また、美容業界で利用されているメイク用のスポンジや、スリッパなどの使い捨てプラスチックに代替する菌糸体の製品開発も進んでおり、今後さらにきのこに熱い視線が注がれると考えられます。
持続可能な社会に向けて、さまざまな分野でのきのこの利用・研究が始まっています。美味しく身体に良いだけではなく、私たちの衣食住すべてに恩恵を与えてくれるきのこ。きのこの力で、私たちの生活はサステナブルでより豊かなものになるでしょう。
参考資料
菌糸と生分解性プラスチックを複合した多孔質構造体の可能性、Conference on 4D and Functional Fabrication 2021
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