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Method of Improving Performance

遺伝する「運動能力」(後編)

2019.11.18
遺伝する「運動能力」(後編)

運動能力の遺伝率が66%であり、自分の遺伝子情報を知ることがアスリートにとって有益であると前半ではお伝えしました。後半では、さらに具体的に運動能力と遺伝の関係性を紐解いていきます。遺伝子検査をする、しないの選択は人それぞれですが、最新の研究を知識として知っておくこともアスリートにとって大切な情報といえるでしょう。

瞬発力/持久力のカギとなる「αアクチニン3遺伝子」

速筋・遅筋

※体を動かすときに使う骨格筋は、筋線維とよばれるゴムのような細い細胞の集合で、収縮速度や特性により大きく分けて「速筋」と「遅筋」に分類されます。

では、遺伝子におけるDNA配列がどのように運動能力と結びつくのか、具体的に解説しましょう。
運動能力にはいくつかの遺伝子が関わっていますが、その代表例が「αアクチニン3(ACTN3)遺伝子」です。αアクチニン3遺伝子とは、速筋の新陳代謝を司るたんぱく質の遺伝子であり、αアクチニン3遺伝子が多ければ速筋本来の働きを発揮できることになります。検査では、筋肉構造(筋線維)の特徴によってその遺伝の型はRR型、RX型、XX型の3タイプに分けられます。
下図にもあるように、速筋と遅筋の割合の違いによって筋肉構造の特徴が分かれており、速筋が多いRR型は瞬発力に優れ、遅筋が多いXX型は持久力を必要とする競技に向いているといえます。RX型は中間型を意味する場合とRR型と同じ働きをする場合があり複雑です。

αアクチニン3遺伝子による筋繊維バランス判定

遺伝情報が可能にする個人対応型トレーニング

ゴールまでの“戦略”を立てようでは実際に、スポーツの現場やアスリートにとって、遺伝情報をどのように活用すればよいのでしょうか。
個人が持つ遺伝型の特徴によって、その人に合ったトレーニング方法、選手としてのピークがいつになるのかといったことにも、遺伝型が関わってくると考えられます。つまり、遺伝型の違いにより、トレーニングの量や質を変えていく「個人対応型」のトレーニングメニューをつくることができるようになるわけです。それにより競技力アップだけでなく、故障のリスク軽減につながる可能性があります。
また、トレーニング効果がすぐに現れない遺伝型もあり、それを持つ選手の場合は、じっくり強化を図るといった“選手としてのロードマップ”を描くことで成果を上げる手助けにもなるのです。

遺伝子とスポーツ傷害予防

遺伝の分野で運動能力に関する研究は数多くあるものの、実はケガに関する研究はあまり存在しません。なぜなら、前回ご紹介したように、運動能力は唾液からDNAを抽出すれば測れますが、ケガは競技歴や既往歴など様々な要素によるため、トップアスリートを対象に研究することが難しいからです。
しかし、一流のアスリートになるためにはハードなトレーニングを継続できる健康な肉体が不可欠です。
トップレベルの日本人アスリート1,311名を対象に、唾液からDNAを抽出して調査研究したところ、ある特定の要素(T/C遺伝子多型C塩基)を持つアスリートは筋損傷になった経験が少ないことがわかりました。さらに、筋スティフネス(筋硬度)が低い、つまり筋肉が柔らかいということも明らかになったのです。遺伝要因が筋損傷リスクに関連することが実証されたわけですから、私がDNA検査を担当したアスリートで筋損傷リスクが高いと思われる場合には、練習において筋肉を柔らかくするストレッチを十分に心がけるようアドバイスをしています。

ESR1 T/C多型

トップレベルのアスリートを目指す人にとって、遺伝子の研究はとても興味深いものになってきています。
ただし、遺伝型は究極の個人情報であり、本人が希望しない限り調べてはいけないという世界的な倫理基準もあります。インターネット等で簡単に遺伝子検査が申し込める昨今、子どもに遺伝子検査を受けさせ、やらせる競技を決めようとする親御さんもいらっしゃいますが、まずは専門家の適切なアドバイスを受けることが大切です。

監修者 福 典之(Noriyuki Fuku)

監修者 福 典之(Noriyuki Fuku)
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科スポーツ健康医科学研究所准教授
1998年、国際武道大学大学院武道・スポーツ研究科修了。2002年に名古屋大学大学院医学研究科にて博士号を取得。科学技術振興事業団技術員、国立健康・栄養研究所健康増進研究部特別研究員、東京健康長寿医療センター健康長寿ゲノム探索研究員を経て、2014年からは順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の特任研究員となり、同年7月に准教授就任。2017年からは先任准教授として、スポーツ遺伝学ならびにスポーツ生理・生化学を専門とし、主に運動能力やスポーツ傷害を規定する遺伝要因の解明に取り組んでいる。さらに、遺伝子分析サービスを提供する企業の検査方法の監修も担当し、研究成果を社会に還元するよう努めている。

今月の菌勝メシ

遺伝する「運動能力」

運動神経と関わりのある「遺伝」ですが、能力を最大限に引き出すためにも、食事からケガをしないしっかりと動ける身体づくりを行うことが重要です。そこで身体づくりに必要なのは丈夫な筋肉。筋肉の質を高めるタンパク質とそのタンパク質の代謝を高めるビタミンB6をしっかりと摂れるメニューを選んで、さらにパフォーマンスを高めましょう!

きのこと鮭の塩バタースープ

筋肉の質を高めるタンパク質とそのタンパク質の代謝を高めるビタミンB6をしっかりと補給できるメニュー。きのこに含まれるビタミンB6が鮭の良質なタンパク質をしっかりと代謝して筋肉づくりに効果的。きのこや野菜の旨味がしっかり引き出されているので、エネルギー源となるごはんもススムアスリートにオススメのメニューです。

レシピイメージ きのこと鮭の塩バタースープ

【協力】NPO法人ジュース(JWS)

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