「骨を強くする! ビタミンDの話」(前編)
2019.08.01
紫外線が強い季節には、つい日焼け止めをたくさん塗ってしまいがち。しかし、日光を浴びることによって体内で作られる栄養素があるのをご存知でしょうか。それは「ビタミンD」。人間が体内で生成できる唯一のビタミンであり、きのこにも多く含まれる栄養素です。ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けることで丈夫な骨や歯を維持することは知られていますが、最近ではアスリートのパフォーマンスにも影響しているという研究成果が続々と報告されています。ビタミンDを上手に身体に取り込んで、パフォーマンスアップにつなげましょう!
「ビタミンD」はどんな栄養素?
ビタミンDのうち人体にとって必要なのは2種類。きのこなど植物由来のビタミンD₂と、魚などの動物由来であるビタミンD₃です。人がビタミンDを体内に得るためには、食事で摂取する方法と、日光を浴びることにより皮膚で合成するという2つの方法があります。
体内に取り込まれたビタミンDは、カルシウムやリンの吸収や再吸収を促すことで、骨の強化や新陳代謝に役立ちます。また、神経伝達や筋肉の収縮には細胞内外のカルシウムがかかわっており、成長期に欠かせない栄養素の一つといえるのです。
また最近では、ビタミンDが風邪などの感染症予防、アレルギー改善、さらには動脈硬化や糖尿病、がんの予防、うつ病の改善といった現代人を悩ます病気にも関与している可能性があることが研究によって報告されています。
実は不足しがちな現代人。不足するとどうなる?
“小麦色の肌”が健康の代名詞だった時代から一転、日焼けが人体に及ぼす影響が語られるようになった80年代を境に、日本でも「ビタミンD欠乏症」が増えてきたといわれています。ビタミンDが欠乏すると、血中のカルシウム濃度や骨密度が下がることから、骨粗しょう症や骨軟化症に陥るリスクを上昇させてしまいます。
最近では子どもの間でも、紫外線対策のし過ぎや、外遊びの減少、アレルギーによる食事制限などの影響から、ビタミンD欠乏症が増加しているとの報告も。小児期では骨の成長障害(姿勢が悪くなる、足の骨が曲がるなど)、くる病、低身長になる恐れもあるなど、ビタミンDはお子さんを持つご家庭でも積極的に摂取すべき栄養素といえるのです。
スポーツ界も注目する「ビタミンD」
ビタミンDは「骨」への効果だけでなく、じつはアスリートにとってかなり有益であることが近年わかってきました。最近では国内外のスポーツの現場でも、ビタミンDによるコンディション管理を導入し始めています。アメリカではメジャーリーグなどのプロ組織や大学で、選手の健康状態を把握するバロメーターとしてビタミンD(体内貯蔵量、摂取量)に着目し、管理しているといいます。
大学生アスリート103人を対象に、ビタミンDと運動パフォーマンスとの関連を調べた研究では、グラフにあるようにビタミンDレベルが低い人は、どのテストにおいても成績が低いという結果が報告されています*¹。
ビタミンDが運動パフォーマンスの数値に影響を及ぼすのはなぜなのか。後半では、最新の研究などをもとに「ビタミンD」とアスリートとの関係性を解説するとともに、具体的な摂取方法をご紹介していきます
参考文献
*1 Compromised Vitamin D Status Negatively Affects Muscular Strength and Power of Collegiate Athletes
- 監修者 金子 晴香(Haruka Kaneko)
- 2003年に筑波大学医学専門学群卒業、2012年医学博士号取得。整形外科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会運動器リハビリテーション医の資格を有する。自身も陸上競技(砲丸投、円盤投)の経験者であり、現在は日本陸上競技連盟医事委員を務め、国際大会などにドクターとして帯同している。講演会等の講師としても活躍しており、スポーツの現場と医療との懸け橋となっている。
順天堂大学医学部整形外科学講座講師、順天堂大学女性アスリート外来整形外科担当。
順天堂大学医学部付属順天堂医院 女性アスリート外来ウェブサイトhttps://www.juntendo.ac.jp/womanathlete/
【協力】NPO法人ジュース(JWS)