“つわり”の原因とは?妊娠初期から中期の身体変化と対処法をご紹介
2024.12.16
妊活から妊娠、出産、産後まで、マタニティ期に大切にしたいことを食とともにお届けする本コーナー。今回は、妊娠初期〜中期にかけて妊婦さんの悩みの種となる「つわり」をテーマにお届けします。
妊娠初期から中期は、妊婦さんも赤ちゃんも身体が大きな変化をする時期です。特に妊娠初期にあらわれる「つわり」の症状は、身体的にも精神的にも負担に感じるケースが少なくありません。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、妊娠初期~中期の身体の変化やその時期に摂りたい栄養素、つわりの原因、対処法についてお聞きしました。
INDEX
妊娠初期の妊婦さんが感じる身体の変化と悩み

まずは、妊娠初期から妊娠中期までの妊婦さんの身体の変化を教えてください。
妊娠後、初めに起こる身体の変化は妊娠4〜5週に起こる生理の遅れや胸の張りです。続いて妊娠5〜6週になると、「つわり」の症状が出てきます。代表的なものには、何かを食べたり飲んだりすると吐いたり、空腹になると気持ちが悪くなったりといったものがありますね。
初めて妊娠をした方の多くは、妊娠初期に「無事に出産ができるか」という悩みとあわせて、「つわりがいつおさまるのか」という先の見えない不安を抱えます。特に妊娠9〜10週頃はつわりもピークを迎えるため、身体的・精神的両方からの負担が大きくなってしまうのです。しかし、約97〜98%の妊婦さんは妊娠14〜15週でつわりの症状が治まりますので、安心していただけたらと思います。
妊娠15週以降は、つわりの症状がおさまる人が多いのですね。
つわりの症状は妊娠15週ごろに落ち着くことが多いのですが、胎盤が完成し「安定期」に入るのは妊娠20週ごろです。つまり、つわりが終わってすぐ安定期に入るわけではありません。つわりの症状が出なくなってからも、妊娠20週をこえるまでは胎盤が成長する大切な時期です。ぜひ栄養バランスの取れた食事と適度な運動そして休養を心がけてください。
また、よい胎盤形成や妊娠中の免疫力アップには、鮭やまぐろなどの魚類、舞茸やエリンギなどのきのこ類に多く含まれるビタミンDが重要です。ビタミンDは魚類やきのこ類など一部の食材にしか含まれていません。ビタミンDは日光を浴びると体内に生成されますが、それだけでは不足することも多いため、食事でも積極的に摂取しましょう。
また、つわりの症状が出る時期は、出産予定日を定める期間とも重なります。一般的に、妊娠9〜10週の胎児の大きさと生理周期を踏まえて出産予定日を計算するためです。正確な出産予定日の把握は、安全な出産をするためにも非常に重要ですので、妊娠9〜10週には必ず病院を受診するようにしてください。
つわりが起こる原因は「GDF15」
それではなぜ、妊娠初期に「つわり」が起こるのでしょうか?つわりの原因を教えてください。
最近の研究で、つわりの原因は「GDF15」という物質だということがわかってきました。GDF15は、赤ちゃんの細胞である胎盤が子宮に食い込む(医学的には胎盤細胞の子宮への浸潤といいます)際に多く分泌されます。胎盤は、酸素と栄養を母体から胎児へ運ぶ働きなどを担う大切な場所です。胎盤が活発に子宮に食い込む時期が妊娠10週ごろですから、妊娠10週ごろにつわりの症状もピークを迎えるのです。
胎盤が子宮に食い込む程度が大きい時期に、つわりの症状も強くなるのですね。
胎盤細胞は赤ちゃんの細胞ですので、お母さんの子宮にとっては異物ですよね。「異物である胎盤が子宮側にしっかりと受け入れられるかどうか」は、妊娠においてとても大切です。赤ちゃんの細胞が子宮に受け入れられない、つまり子宮側への胎盤の食い込みが良くない場合、妊娠後期に胎児発育不全や妊娠高血圧症候群などになりやすいと言われています。ですから、妊娠10週ごろにつわりの症状が強くあらわれ、妊娠14〜15週にはおさまるという経過をたどる方は、しっかりと胎盤が形成された証拠でもありますので、妊娠後期も順調なケースが多いですね。
妊娠初期に摂ってほしい、ビタミンと葉酸

子宮と胎盤をしっかりと定着させるため、妊婦さんが心がけるとよいことを教えてください。
子宮側の胎盤の受け入れを促すために、子宮の血流を良くする必要があります。特に、大きな筋肉が集まっており、全身の血流に影響する下半身が冷たいと子宮の血流も悪くなってしまいますから、下半身を冷やさないように心がけましょう。
また食事面では、血流の循環を良くするために、末梢循環をよくする栄養素が大切です。代表的なものは、血管拡張物質である一酸化窒素(NO)です。一酸化窒素の元になるものはアルギニンというアミノ酸ですから、アルギニンが摂取できる豚肉や大豆、卵なども意識して食事に取り入れましょう。また、「ナイアシン(ビタミンB3)」や、糖質を代謝することで熱の産生を助ける「ビタミンB1」が豊富に含まれるきのこ類も、血行を良くするのにおすすめです。
きのこ類は、先ほどご紹介した胎盤の形成に欠かせないビタミンDも多く含まれますので、ぜひ、しっかり摂っていただきたい食材ですね。
他にも、妊娠初期に摂った方がよい栄養素があれば教えてください。
妊娠初期、さらに言うと妊娠を考えたときから摂ってほしい栄養素に「葉酸」があります。葉酸は2つの役割を持っていますが、その1つはアルギニンなどと同じく血管の状態を良くするというものです。
そして葉酸の2つ目の役割は細胞の分裂や成熟に関わることで胎児の正常な発達を促し、奇形を防止することです。先天性の神経管異常で起こる二分脊椎症(にぶんせきついしょう)や脊髄膜瘤(ずいまくりゅう)の原因の約3分の1は、葉酸不足だと言われています。そのため、2003年には厚生労働省が妊婦さんへの摂取を奨励するサプリメントとして葉酸を発表しました。
日本人は他国の人と比べて葉酸の摂取量が少ないと言われています。妊娠5〜6週は赤ちゃんの脳ができる時期なので、葉酸の摂取が非常に重要です。妊娠初期の妊婦さんや妊娠を考えている方は、きのこ類や、ほうれん草、枝豆など葉酸が含まれる食材を意識して摂るほか、サプリメントでも葉酸を摂取するとよいでしょう。
つわりで食事がとれないときには?気を付けたい、つわりで起こる血栓症のリスク

中には、つわりの症状が強く、食事を取れない方もいますよね。そのような場合にはどうしたらよいのでしょうか。
そのような場合には、脱水症状を起こさないことが一番大切です。妊娠初期に妊婦さんが亡くなる原因の中で最も多いのが、脱水による血栓症です。つわりで食べ物を吐いてしまう人は、スポーツ飲料や経口補水液などの水分だけはしっかりと摂るようにしましょう。
妊娠悪阻(にんしんおそ)と呼ばれるつわりの症状がひどい人には、水分も吐いてしまうケースがあります。そのような場合には、病院で点滴を受けなければならないため、我慢せずにすぐに受診をしてください。とにかく、脱水にならないように気をつけましょう。
最後に妊娠初期〜中期の妊婦さんへ、先生から伝えたいことがあればお願いします。
妊娠初期〜中期は、妊婦さんにも赤ちゃんにも非常に大切な時期なので、できる限りストレスのない生活を目指していただきたいですね。例えば、間食の多い食習慣、運動不足、シャワーだけの入浴、熱風呂に短時間入ること、足の冷え、悪い姿勢(長時間スマホ)、便秘、睡眠不足などは交感神経を刺激しますのでストレスがかかっている状態といえます。心当たりのある方は、生活習慣を整えて極力身体に負担をかけないようにしていきましょう。
そして、妊娠初期には流産の確率が約15%あることは、事実として知っておいてほしいと思います。妊娠8週ごろまでの流産のほとんどは染色体や受精卵の異常によるものですから、妊婦さんがどれほど体調に気を配っていても起こりえます。ここでお伝えしたいのは、妊娠前や妊娠初期から「妊娠についての正しい知識」を身につけていただきたいということ。それによって、妊娠中の不安や心配ごと、さらには妊娠後期のトラブルを軽減できます。
ぜひ、今妊婦さんの方もこれから妊娠を望む方も、妊娠について正しい知識を身に着けると共に、日々の食事に気を配りながら資本となる健康な身体を作っていただければと思います。そうすることで妊娠中や出産後の不安やトラブルを少しでも減らし、安全で健やかな出産に繋げていきましょう。
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