妊娠中は免疫力の低下や便秘に要注意!身体を守る食事や生活習慣のポイントは?
2024.07.08妊活から妊娠、出産、産後までマタニティ期に大切にしたいことを食とともにお届けする本コーナー。今回は、マタニティ期に起こりやすい「免疫力の低下」や「便秘」をテーマにお届けします。
妊娠を経験したことのある人からは、「妊娠中はちょっとのことでも風邪をひきやすくなる」や「便秘がちになり、お腹がパンパンに張って苦しくなる」といった声がよく聞かれます。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、妊娠中に免疫力の低下・便秘が起こりやすくなる理由や、免疫力アップのポイント、妊娠中に起こりやすい便秘の改善法についてお聞きしていきます。
INDEX
・妊娠中に「免疫力」が低下する理由とは
・生活習慣の見直しと腹式呼吸で免疫力アップ
・妊娠中は腸のぜん動運動が抑制され、便秘がちに
・つらい便秘でお腹がパンパン…自分でできる改善法は?
妊娠中に「免疫力」が低下する理由とは
そもそも、なぜ妊娠中に免疫力が下がってしまうのでしょうか?
妊娠中に免疫力が低下する理由は、胎児を異物として認識しないよう、体内の免疫反応が抑制されるためです。
胎盤も含め、胎児の半分はお母さん自身の成分(遺伝子)ですが、もう半分は旦那さんの遺伝子です。つまり女性にとって胎児の半分は「異物」とみなされるため、通常通りに免疫が働くと拒絶反応を起こし、子宮から離れてしまいます。
そのため、胎児に対して過剰な免疫反応が起こらないよう、妊娠中は免疫がやや抑制された状態になるのです。しかし一方で、ウイルスなどへの抵抗力も下がってしまうので注意が必要です。
細菌やウイルスなどがお母さんから赤ちゃんに「母子感染」してしまう病気も多いと聞きます。特に気を付けるべき感染症について教えてください。
妊娠中に気を付けるべき感染症は、風疹やトキソプラズマ、サイトメガロウイルスなどがあります。
妊娠初期に風疹にかかると胎児に先天的な心奇形や難聴、白内障などを引き起こし、また、トキソプラズマに感染すると胎児の水頭症や脳の石灰化のほか、神経系に異常をきたすことが知られています。
なかでも注意したいのが、ワクチンも治療薬もないサイトメガロウイルスです。これはヘルペスウイルスの一種で、妊娠中に母子感染すると、胎児の脳性麻痺や難聴、発達障害などの大きな原因になります。
ありふれたウイルスで、多くの人が子どもの頃に感染経験があり、成人女性の70%が既に抗体を持っているとも言われています。しかし、極端に免疫力が落ちていたり、妊娠期に初めて感染したりすると胎児に影響を与えかねないため、まずは免疫力を高めることが非常に大切です。
生活習慣の見直しと腹式呼吸で免疫力アップ
母子感染を防ぐには、感染対策が重要だと分かりました。では、免疫のバランスが崩れないよう、普段の生活で妊婦さんが意識した方がよい行動はありますか?
免疫力を高めるには、腕や手、足などの血液循環である末梢循環を良くすることが大切です。栄養バランスの良い食事や、有酸素運動、入浴、質の良い睡眠などを意識することで末梢循環が良くなり、免疫系が良い状態に保たれます。
また、ヨガや太極拳、気孔などで用いられる「腹式呼吸」を取り入れることも重要です。腹式呼吸とは、息を吸うときにお腹を膨らませ、息を吐くときにお腹をへこませる呼吸法です。ゆったりとした腹式呼吸を増やすことで副交感神経が優位になり、末梢循環が良くなり、免疫力アップはもちろん便秘の解消も期待できます。おやすみ前やテレビを見ながらできるので、取り入れてみましょう。
では、お話しにありました、食生活で身体の免疫力を高めるポイントを教えてください。
まず末梢循環の観点では、血行を良くする「ナイアシン」を含むきのこなどの食材や、身体を温める効果のある根菜類を摂取することが役立ちます。
また、免疫細胞の約7割が「腸」に存在しているため、食物繊維を摂取して腸内環境を整えることも大切です。食物繊維はきのこをはじめ、こんにゃくやひじき、玄米、大豆製品、などに多く含まれます。
特に、きのこには「菌類」であるがゆえに、腸内の免疫細胞に直接働きかける菌類特有の「βグルカン」も含まれています。さらに、粘膜を強化して風邪の予防に役立つビタミンB2や免疫力の向上に関与するビタミンDも豊富なため、妊娠中は積極的に取り入れましょう。
妊娠中は腸のぜん動運動が抑制され、便秘がちに
前半では免疫力について教えていただきましたが、妊娠中は「便秘」の悩みも多いと聞きます。妊娠中は、なぜ便秘になりやすいのでしょうか?
妊娠中の便秘は、女性ホルモンの変化が関係しています。妊娠中は女性ホルモンのひとつである黄体ホルモン「プロゲステロン」の分泌量が急増します。プロゲステロンは妊娠を維持するために重要なホルモンですが、腸のぜん動運動を抑える作用もあるため、便秘になりやすくなる傾向があります。
便秘によって腸が拡張すると交感神経が刺激され、腸が慢性的な過緊張状態(ストレス状態)になります。腸管が動かないと食欲があまり出なくなり、赤ちゃんにも十分な栄養を届けられなくなってしまいます。
また、食べ物が腸に長時間溜まると、腐敗物質や生活習慣病を起こす物質、ガンのもとになる物質なども出てきます。便の残留時間が長ければ長いほど腸内環境が悪化し、子宮にも作用して切迫早産を引き起こすこともあるので注意が必要です。
以上のように、妊娠中の便秘はお母さん・赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、早めに解消しましょう。毎日お通じがあるのが理想ですが、少なくとも1日おきの排便を目標にコントロールすることが大切です。
つらい便秘でお腹がパンパン…自分でできる改善法は?
便秘を早めに解消するためには、どんなことを意識すれば良いのでしょうか?
まず意識したいのが、食事と運動です。
便秘を解消するためには、腸に約100兆個もいるといわれる「腸内細菌」を良い状態に整えることが大切です。腸内細菌は私たちが食べたもので育ちますが、偏った食生活が続くと特定の腸内細菌しか育たなくなり、腸内環境が乱れて便秘につながります。
腸内細菌の中でも重要な「善玉菌」は食物繊維をエサにして増えるため、きのこ類や根菜類、海藻類など食物繊維の豊富な食材をとることが何より大切です。
食物繊維は便をゲル化したり、カサを増やしたりすることで排便を促す効果もありますよ。
中でも臨床研究から、きのこを日常的に食べることで腸内細菌の種類が増え、より効率よく腸内環境が改善できることがわかっています。先にご紹介したように、きのこ類は食物繊維が豊富なだけでなく、免疫力アップに役立つβグルカンやビタミンDも含まれていますし、交感神経の働きを抑制して、リラックス状態をもたらすGABAも含まれているので、妊娠期にはぜひ取り入れたい食材です。
その他に意識できることがあれば教えてください。
身体を動かすと腸の動きが活発になるため、適度な有酸素運動を取り入れるのが良いですね。ウォーキングや水泳、エアロビクス、ヨガなど、妊娠中でも安心して行える運動を無理のない範囲で取り入れましょう。
また、ストレスによって自律神経が乱れるとぜん動運動が阻害され、便秘につながります。妊娠中は体調や体型の変化や出産に関する不安、仕事のプレッシャーなどで心身ともにストレスが溜まりやすいため、意識的な対策が重要です。
ストレス発散にも役立つ運動はもちろん、気を許せる家族や友人と話したり、好きなことをする時間を作ったりして、できるだけストレスを溜め込まないようにしましょう。
その他、水分が不足すると便が硬くなるため、こまめな水分補給も大切です。朝起きたらコップ1杯の水を飲み、腸の動きを活発にしましょう。
妊娠期は身体が大きく変化します。しかし、それは元気な赤ちゃんを産むために必要なこと。その中で起こる免疫力の低下や便秘などは、ぜひ日々の食事や生活習慣からしっかりとケアをして、心も体も前向きに出産を迎えられるよう整えていきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員
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