妊娠期に気を付けたい!妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群のリスクと予防法とは
2024.08.12妊活から妊娠、出産、産後まで、マタニティ期に大切にしたいことを食とともにお届けする本コーナー。今回は、マタニティ期に気を付けたい代表的な疾患「妊娠糖尿病」と「妊娠高血圧症候群」をテーマにお届けします。
生活習慣病として知られる糖尿病や高血圧ですが、妊娠中は様々な原因から発症のリスクが高まるため、特に注意が必要です。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、妊娠時に糖尿病・高血圧になりやすい理由や、発症時の赤ちゃんへの影響、予防するためのポイントについてお聞きしていきます。
INDEX
- 妊娠前の不摂生な生活が妊娠糖尿病のリスクに
- 妊娠を考え始めたときから適正な体重コントロールを
- 妊婦さんの約20人に1人が妊娠高血圧症候群を発症
- 身体を温める習慣を取り入れ、妊娠高血圧症候群を予防しよう
妊娠前の不摂生な生活が妊娠糖尿病のリスクに
まずは、妊娠糖尿病の原因について教えてください。
妊娠糖尿病とは、妊娠期間中の血糖値が基準値を超える状態のことをいいます。
すい臓で作られるインスリンというホルモンには、血液中の糖を全身の細胞・筋肉・臓器などに運ぶ役割がありますが、妊娠糖尿病はインスリンの効きが悪くなり、血糖の調節がうまくいかなくなっている状態です。
生活習慣病である2型糖尿病と同じく、妊娠糖尿病も日頃の生活習慣が原因となって発症します。特に、妊娠前の体重が肥満傾向の人、妊娠前の1年間で体重が5kg以上増加した人は妊娠糖尿病になりやすいため注意が必要です。
妊娠すると胎盤から出るホルモンによってインスリンの働きが抑制されるため、妊娠前より血糖が上がりやすくなります。そのため、もともと肥満気味の人や栄養バランスが悪い人、運動不足の人などは妊娠糖尿病のリスクが高くなるのです。
妊娠糖尿病になると、お母さんや赤ちゃんにどんな影響がありますか?
妊娠中にお母さんが高血糖になると難産や早産、妊娠高血圧症候群の可能性が高まるほか、膀胱炎・腎盂腎炎などの感染症も引き起こしやすくなります。また、お母さんの血糖値が高いと赤ちゃんも高血糖の状態となり、巨大児や奇形児、新生児低血糖などにつながります。
妊娠糖尿病に早く気がついて適切な治療を行えば母子への影響を少なくできるため、妊婦健診を適切に受けることが重要です。
妊娠を考え始めたときから適正な体重コントロールを
それでは、妊娠糖尿病を予防するために、妊婦さんが普段の生活で意識した方がよい行動はありますか?
妊娠糖尿病は妊娠前の体重増加が大きなリスクになるため、妊娠を考え始めたときから標準体重(BMIが18.5~25未満となる体重)を維持することが大切です。妊娠中も体重増加が適正な範囲を超えないよう、栄養バランスの良い食事や規則正しい生活、運動習慣などを身につけましょう。
特に、妊娠糖尿病を予防するには血糖値が上がりすぎない食事を意識することが重要です。食事を抜くと次の食事で血糖値が急激に上昇してしまうため、1日3食(朝・昼・夕)しっかりと食事をとりましょう。
血糖値の上昇を緩やかにするには、食物繊維を毎日の食事に取り入れるのがおすすめです。食物繊維は、腸での糖質の吸収を穏やかにすることで血糖値の急激な上昇を防いでくれるだけでなく、妊娠中に悩みが多くなる便秘の解消にも役立ちます。食物繊維はきのこをはじめ、野菜や根菜、海藻などに多く含まれます。
なかでも、きのこ類のブナシメジやブナピーにはインスリンの分泌を促進する作用もあり、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。噛み応えがあるきのこは少ない量でも満腹感を得やすいため、妊娠中の食べすぎ防止にもつながるでしょう。
また、食べる順番を意識することも大切です。まずは食物繊維が豊富なきのこや野菜から食べ始め、次にタンパク質(肉や魚など)、最後に炭水化物(ご飯、パンなど)を摂取すると、血糖値の急上昇を防ぐことができます。
妊婦さんの約20人に1人が妊娠高血圧症候群を発症
前半では妊娠糖尿病について教えていただきましたが、妊娠中は高血圧にも注意しなければならないと聞きます。なぜ妊娠中に血圧が上がってしまうのでしょうか?
妊娠中に血圧が高くなる「妊娠高血圧症候群(HDP)」は約20人に1人の頻度で発症するといわれ、妊娠前の血圧値に関係なく誰にでも起こりうる病気です。
妊娠高血圧症候群の原因はさまざまですが、最も多いのが「胎盤の形成がうまくいかないこと」です。通常、妊娠すると胎盤の細胞が母体の血管に入り込み、そこから必要な栄養や酸素などを受け取れるよう身体が変化するため、お母さんの血管が拡張します。しかし、このときの変化がうまくいかないと、お母さんの血管が十分に拡張せず、赤ちゃんに必要な栄養や酸素が行き届かなくなります。
すると、十分拡張しない血管は機能不全を起こし「血圧を上げる物質」を作るため、血圧が上がってしまうのです。
妊娠高血圧症候群になると、お母さんや赤ちゃんにどんな影響がありますか?
妊娠高血圧症候群が重症化すると、お母さんは肝機能障害や腎臓・泌尿器の機能障害、脳出血などを引き起こすことがあります。赤ちゃんは発育不全や常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり:妊娠中に胎盤が子宮の壁から剥がれてしまうこと)などのリスクが高まり、お母さんや胎児の命を脅かすこともあります。また妊娠高血圧症候群では胎盤機能が低下しますので赤ちゃんは発育不全になりやすくなります。
妊娠高血圧症候群は自覚症状が少ないこともあり妊婦健診で発覚することがほとんどのため、妊娠糖尿病と同じく「適切な妊婦健診」が非常に重要です。
身体を温める習慣を取り入れ、妊娠高血圧症候群を予防しよう
妊娠高血圧症候群を予防するために、意識した方がよい生活習慣のポイントを教えてください。
子宮の血液循環が悪いと妊娠高血圧症候群になりやすいため、まずは身体を温めることが大切です。無理のない範囲でウォーキングや水泳などの有酸素運動、半身浴などを取り入れることで末梢循環が良くなり、身体が温まります。
また、重要となる食事面では、血液の循環を良くしてくれる食品を積極的に取り入れましょう。例えばきのこや根菜、大豆食品がおすすめです。
きのこや大豆食品には身体を温めるほか、体内の一酸化窒素(NO)の産生を高めて血流を促進する「アルギニン」も豊富に含まれており、妊娠高血圧症候群の予防に役立ちます。
また、高血圧になると塩分を控えなければならないイメージがある人も多いと思いますが、妊娠高血圧症候群の場合は末梢循環を維持するという点から塩分の控えすぎも良くありません。そのため、過剰に塩分を制限するのではなく適正量(一日7g程度まで)を意識しましょう。
その点でもきのこは有効で、きのこにはうま味成分が豊富に含まれているため、塩分を控えてもおいしいと感じることができます。きのこの種類によってうま味成分のバランスが異なるため、複数種類を一緒に使うことがポイント。きのこのうま味をうまく活用しながら、美味しく減塩ができると良いですね。
妊娠期は母体に様々な変化が起こります。元気な赤ちゃんを産むための大切な変化のため極度に怖がることはありませんが、日々の生活や食事を整えつつ、定期健診をしっかりと行いながら、安全な出産ができるよう日々を過ごしていただければと思います。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員
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