【月経衛生デー特集】「思春期」の食事や生活習慣が、将来の妊娠・不妊に妊娠に与える影響と保護者ができるサポートとは
2024.05.28
5月28日は「月経衛生デー」です。2013年、衛生や人権問題に取り組むドイツのNPO団体「WASH United」によって、タブー視されがちな月経の話題について、沈黙を破って社会の意識を変えることなどを目的に制定されました。
きのこらぼでは、そんな「月経衛生デー」にちなみ、月経が始まる思春期と、昨今の社会問題にもなっている不妊との重要な関係について深ぼる特集をお届けします。
月経がはじまる「思春期」は子どもから大人の身体へ変化する大切な時期。しかし、この時期に間違った生活習慣や過度なダイエットを行うと、正しく大人の身体がつくられず、将来妊娠しづらくなったり健康な赤ちゃんを授かりにくくなったりする可能性もあるため、保護者の適切なサポートが必要です。
今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、思春期の生活習慣が将来の妊娠に与える影響や、ぜひ保護者の方に意識していただきたいことをお聞きしました。
身体発達に不調が起きていないかは、お子さんの月経状態からも確認することができます。ぜひ、「月経衛生デー」が、ご家族で月経について話すきっかけになればと思います。
INDEX
・思春期の間違った生活習慣が「将来の赤ちゃんの30年後」にまで影響
・思春期から生活習慣を整え、妊娠しやすい身体づくりを
・保護者が注意したい子どもの「月経不順」や「冷え」
思春期の間違った生活習慣が「将来の赤ちゃんの30年後」にまで影響
思春期になると自分の体型を意識し始め、「痩せたい」と思う子どもが多いと聞きます。思春期の「痩せ」や「過度なダイエット」は、将来の妊娠にどういった影響を与えるのでしょうか。
脂肪細胞は女性ホルモンを分泌するとともに、女性ホルモンを刺激する物質を産生する作用もあります。そのため、脂肪細胞の少ない「痩せ」の状態だと女性ホルモンの分泌が減り、排卵が起こりにくくなってしまうのです。「痩せ状態」のまま成人すると排卵しづらい状態が長期間続き、子どもが欲しいと思っても妊娠が難しくなるケースが多く見受けられます。
ですから、妊娠しやすくするためには思春期の頃から「標準体重」を維持することが大切です。標準体重は、身長と体重の関係から肥満度を示すBMI(体重kg ÷ (身長m)²)が21~22になる体重のことをいいます。身長155cmなら47kgくらい、身長160cmなら53kgくらいが標準体重です。
標準体重だと、“お腹”は「軽い一段腹」になりますが、この体型を「太っている」と感じる子どもが多いのが大きな問題といえます。医学的には、標準体重は「適度に皮下脂肪がついている健康的な体重」で、将来妊娠しやすい体型とされています。
思春期の「痩せ」は、将来妊娠した時の赤ちゃんの健康に対しても影響するのでしょうか。
思春期の頃から痩せていると、その人はおそらく「食事量が少ない」ことが習慣化しています。そのため、大人になって妊娠したときにも十分な栄養を摂取するのが難しくなり、体重が2,500g未満の「低出生体重児」を生むリスクを高めてしまいます。
低出生体重児は胎内では栄養不足による飢餓状態のため、生後ミルクや離乳食をどんどん与えられて一気に太ります。そして小学生・中学生・高校生になっても肥満のまま成長するケースが多く、将来高血圧や糖尿病になるリスクも高まります。
つまり、思春期にあたる中学生や高校生の頃の栄養不足が、将来「低体重の赤ちゃん」を生むリスクを高め、ひいては「赤ちゃんの20年後・30年後の健康」にまで影響してしまうのです。

思春期から生活習慣を整え、妊娠しやすい身体づくりを
家庭でも学校でも、「痩せ」が将来の妊娠に与える影響についてしっかり伝える必要がありますね。思春期に適正体重を維持するために意識したいことを教えてください。
適正体重を維持するには「栄養バランスの良い食事」と「運動(筋トレ+有酸素運動)」が基本です。三大栄養素(糖質、脂質、たんぱく質)はもちろん、これらの吸収や代謝を助けるビタミン・ミネラルなどの潤滑栄養素もバランスよく摂取しましょう。また、「痩せ」の人が体重を増やしたり、標準体重の人が体重を維持したりするためには「筋肉」が欠かせないため、日々身体を使い、筋肉を維持することを心がけましょう。
「朝食は抜くけど間食や夜食が多い」「昼食はパスタやどんぶりなどの一品物ばかり」など食事の栄養バランスが偏るのは良くありません。栄養バランスが悪いと、排卵しない卵胞が卵巣にとどまり排卵しにくくなる「多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)」のリスクも高まり、不妊の原因になります。
偏った食生活が習慣化していると、妊娠したときに十分な食事量を摂取できなくなるため、思春期の頃から「朝食を抜かず、栄養バランスのよい食事を3食しっかり摂る習慣」をつけておくことが大切です。
とくに朝食でタンパク質が不足している子どもが多いため、「朝10gのタンパク質を摂取すること」を心掛けましょう。例えば、『納豆ご飯』と『目玉焼き』に『ヨーグルトまたは牛乳』をプラスすれば、十分なタンパク質を摂取できます。
塩分の摂り過ぎも将来の妊娠に悪い影響を与えるとお聞きしました。食事ではどんな工夫が効果的でしょうか。
塩分を摂りすぎると高血圧体質となり「多嚢胞性卵巣症候群」のリスクになります。食事にはうま味成分を上手に取り入れ、少ない塩分でも食事を美味しく感じられる工夫をすることが大切です。
うま味成分が多く含まれる代表的な食品は昆布やかつお節、きのこ類が有名です。これらの食材を料理の中でうまく活用することで味に深みが増し、塩分を減らすことができます。
中でもきのこは“三大うま味成分”の「グルタミン酸」「グアニル酸」という2つのうまみ成分をもつ稀な食材で、きのこ単体でうま味の相乗効果が起こるため、よりうま味を強く感じることができます。
また、きのこはビタミンDも豊富に含まれ、妊娠しやすい身体作りや免疫機能向上にも役立ちます。ビタミンDの不足は流産や早産にも関係してくるため、若い頃からしっかり摂取しておくことが重要です。
なお、将来妊娠しやすくするためには、摂取する油にも気を付けましょう。例えば「トランス脂肪酸」という人工の油は、老化を早めたり血管内皮に障害を与えたりしてしまいます。トランス脂肪酸はショートニングやマーガリン、カップ麺などに大量に含まれるため、摂り過ぎに注意してください。オリーブオイルやべに花油、ごま油などの植物性の油は妊娠しやすい体質に近づくだけでなく、妊娠中の病気予防にも役立ちます。

保護者が注意したい子どもの「月経不順」や「冷え」
では、思春期の女の子を育てる保護者が注意すべき子どものサインを教えていただけますか。
女子の場合は「月経が順調に来ているか」がひとつのバロメーターになります。28日から30日ぐらいの周期で月経が来ている場合は女性ホルモンがしっかり分泌されており、生活習慣が良いと判断できます。逆に「今月は28日、次の月は37日、その次の月は40日」と月経周期がバラバラだと女性ホルモンの分泌が不安定だと考えられ、初経後しばらくは誰でもそのような状態ですが、高校生ぐらいですと生活習慣が悪い可能性があります。
また、身体が冷えていないかも注意してください。生活習慣が悪い・ストレスが多いと足が冷えたり月経痛が酷くなったりしやすくなります。例えば朝食を抜いて昼食に豚カツを食べ、3時のおやつにアイスクリームを食べるといった食生活では栄養バランスが偏るだけでなく、血糖値の乱降下が起こり、「インスリン」という血糖値をコントロールするホルモンが多くかつ長時間分泌されるので、末梢循環の流れが悪くなり身体が冷えてしまいます。
逆に1日3回栄養バランスの良い食事をとればしっかりと体内で食べたものが代謝されて熱がつくられることに加え、インスリンが程よく分泌され、末梢循環は安定します。
末梢循環をよくすると月経痛が軽減しますので、思春期で月経痛に悩む子供には食事のバランスを気をつけ、足の冷え取りをすることを心がけて下さい。
人参やごぼう、大根、ネギ、里芋、にんにく、生姜などの根菜類は、血液の流れを促して身体を温める食材といわれます。また、きのこには血行を良くする「ナイアシン」や、三大栄養素の代謝を助けて熱を生み出すビタミンB群が豊富に含まれます。さらに、きのこ類、納豆・豆腐などの大豆食品には「アルギニン」というアミノ酸が多く含まれ、体内の一酸化窒素(NO)産生を高めて血流を促進する作用もあります。
思春期のお子さんがいる方は、ぜひこれらの食材も取り入れてみてください。

では、思春期の男の子を育てる保護者が注意すべきことはどんなことでしょうか。
生殖機能は生活習慣の影響を非常に強く受けるため、男子も痩せていたり生活習慣が乱れたりしていると、精子の状態が悪くなります。女子は月経が順調であれば卵巣機能が正常だと分かりますが、男子は生殖器官が正常かどうかは分かりにくいため、普段からしっかり栄養バランスや生活習慣を整えておく必要があります。
とくに、先ほどもお話ししたアミノ酸の一種「アルギニン」は冷えを予防するだけでなく精子を作る機能(造精機能)にも関係しています。アルギニンはきのこ類や大豆食品、マグロ、卵黄、うなぎなどに多く含まれるため、積極的に取り入れましょう。
思春期は心と体が大人に変化する時期であり、その後の人生に大きくかかわる生殖機能が成熟する大切な時期でもあります。思春期は自身の見た目が気になり始める時期ですが、実際、フランスでは2017年より極端に痩せているモデルの活動を禁止する法律ができるなど、「痩せ」は世界的な問題であり、健康と対極にあるものです。
ぜひ保護者の方には、お子さんの食事面からのサポートや身体の様子も気にかけながら、お子さんのよりよい身体づくり・発達を手助けしていただければと思います。