ソライロタケで感じる1/fゆらぎ
2024.07.15いよいよ梅雨も明け、本格的な夏を感じることが多くなってくる頃。
森のきのこたちにも恵みとなる梅雨時期は、私たち人間にとってもしっとりした景色や雨音が心地よい時期なのですが、それでも雨や曇りの日が続くとやっぱり恋しくなってしまうのが青空。
毎日子どもたちが汚してくる服や水着を洗濯する身としては、洗濯物がカラッと乾いてくれるお天気を待ち遠しく思ってしまいます。
青空もそうですが、夏を感じ始めると涼を求めるせいか、気になってしまうのが青系の色。森の中でも涼しげな青や紫の草花に惹かれてしまいます。
ツユクサ、コアジサイ、オダマキ、ギボウシ、エゾムラサキ、マツムシソウ…
自然の中での青系色はちょっと異質な感じもしますが、どれもそれぞれに美しく、見ているだけで気持ちがスーーッと涼しくなる気がします。
そして、森の中で見つけられる青色は草花だけではありません。
そうです、もちろん、青いきのこも。
その名も、ソライロタケ(空色茸)。カサから柄まで、鮮やかな空色をしています。
ただし、すこしでも触れたりすると黄色に変色しまうという繊細な一面もあり、完全にきれいな空色の状態で見られることは珍しいようです。
実際の空も刻一刻と変化してしまいますし、そんなところまで空っぽい。
日本各地に分布しているようですが、都道府県によってはレッドデータブックで希少種とされているなど、一度は見てみたい憧れのきのこのひとつです。
お気づきかと思いますが、私はまだ実物のソライロタケを見たことがありません。
どんな空色なのかなあ、やっぱり夏の空みたいな色なのかなと、想像しかできないのですが、そんな憧れの空色をイメージして作られたのがこちら、ソライロタケのボトルインクです。
文具の老舗「セーラー万年筆」と筆記具専門店「キングダムノート」のコラボによる、日本の生物シリーズ「きのこ」の中のひとつで、ソライロタケの他は、カワラタケ、モエギタケ、サクラタケ、ベニテングタケもラインナップされています。
ちなみにこのきのこインク、セーラー万年筆にいらっしゃるカリスマ インクブレンダーの方による調色とのこと。
インクブレンダーという職業があることを初めて知りましたが、自分だけのオリジナルインクを作ってもらえるのはトキメキますね。
例えば、ムラサキヤマドリタケの深い紫色、ササクレヒトヨタケの少し褐色の入った墨黒、フカミドリヤマタケの濃い緑色など、このきのこシリーズにないきのこの色が欲しくなってしまいます。
私はお手紙を書くときに万年筆を使うことが多いのですが、その魅力はインクの濃淡(インク溜まり)で生まれる味だと思います。
あと、こころなしか字がうまく見えるのもいい…。
普段はデジタルな仕事をしているからこそ、アナログの「インク溜まり」「にじみ」「かすれ」の偶然性にエモさを感じます。
そういえば、デジタルフォントの種類でも「にじみ」や「墨だまり」が付いている書体を選びがちです。
(※文字の線が交差する部分が墨だまりのように丸みを帯びている書体。活版印刷のような温もりを感じるデザインのフォントです。)
いつもは万年筆に入れて使っているインクですが、せっかくなので付けペンで描いてみました。付けペンは紙に引っかかるペン先の感触や、カリカリ、シャッシャッという音もいいですね。
個人的に、ソライロタケのチャームポイントは「柄のねじれ」だと思っていますので、繊維状のねじれ模様が存分に描けて満たされました。
ソライロタケ色のインクで描いたソライロタケ、本物もこんなかんじかしら。
欲を言えば、実際のソライロタケのように時間の経過で色が黄色みを帯びてくるといった「ゆらぎ」のあるインクがあったら面白いですね。
自然界に存在する予測できない変化や動きのことを「1/fゆらぎ」と言うそうですが、人は不規則と規則正しさが調和した状態に心地よさを感じるとか。
冒頭に書いた雨の音もそうですが、ソライロタケの空色、草花の色、夏の青空、インクの濃淡、紙の上を走るペンの音、どれも一定のようでいて実際には予測できない不規則なゆらぎがあり、私はそこに心地よさを感じ、惹かれていたのかもしれません。
なんとなく思っていることにもきちんと理由があるということを、ソライロタケを通して知ることができました。
いつか、ソライロタケに会えたときにはお礼を言いたいと思います。
profile
ウェブデザイナー、きのこ愛好家。
2007年に“きのこ病”を発症し、以後「とよ田キノ子」名義で活動を開始。
きのこグッズコレクションの展示や、きのこをモチーフにしたイラスト作品展、きのこイベントなどを開催。
日々、きのこの魅力を伝える“胞子活動”を行っている。
『乙女の玉手箱シリーズ きのこ』(グラフィック社)監修、『きのこ旅』(グラフィック社)著、『八画文化会館叢書vol.04 公園手帖2 キノコ公園』(八画出版部)著。
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