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きのこを訪ねて

キヌガサタケのキャンドール

2024.04.08
キヌガサタケのキャンドール

きのこらぼ読者の皆さん、こんにちは。
きのこ愛好家・とよ田キノ子と申します。

きのこグッズの可愛らしさからきのこの世界に足を踏み入れ、今では「キノ子」と名乗ってしまうほどきのこの虜になっている者です。

きのこの面白さは、様々な色や形であったり、生き物としての不思議さ、アートやカルチャーシーンでの表現、そして、食べたりなど、多角的な楽しみ方ができることにあると思いますが、このコラムでは私がライフワークとしている、全国津々浦々のきのこグッズ収集の中からピックアップしたものを、その背景やストーリーと共にご紹介していけたらと思っています。

コレクションしているグッズのひとつひとつには、それぞれに特別なストーリーが詰まっています。例えば、それと出会った時の場所や状況だったり、プレゼントしてくれた人との思い出だったり、そのときに交わした会話だったり。

今回、第1回目でご紹介するものを考えながらコレクション棚を眺めていたとき、最初に目に止まったのは、この「キヌガサタケのキャンドール」でした。

キャンドールとは、キャンドル(candle)とドール(doll)をかけ合わせた造語。今回紹介するのは、ヨウル☆プッキさんによる作品です。文字通り、蝋で作られた立体造形作品なのですが、これはもうキャンドルの域を超えています…!

この作品、実はオーダーメイドで制作していただきました。

私たち夫婦が結婚13年目を迎えた際、何か記念に残したいなと思っていたところ、結婚13年目は「レース婚式」と呼ばれることを知りました。結婚25年目の「銀婚式」や50年目の「金婚式」は特別なお祝いをすることで知られていますが、イギリスでは結婚1年目から15年目まで1年毎の結婚記念日にも呼び名がつけられており、13年目の結婚記念日は「レース婚式」と呼ぶそうです。糸と糸で織りなすレースのように、絆がさらに深くなるようにという意味があり、そのお祝いには「レース」にちなんだプレゼントをするのだとか。

プレゼントにはレースのハンカチやショールなどのレース製品やレース柄が施された品が定番だそうですが、それも素敵だけど、どうも私たちらしくない。レースと言えば、きのこ界にはレースを纏ったキヌガサタケがいるし、せっかくなら、キヌガサタケをモチーフにしたものがいい。そんなときに思い浮かんだのが、ヨウル☆プッキさんのキャンドール作品でした。プッキさんにキヌガサタケのキャンドールを作ってもらったら、それはとても「私たちらしい」記念品になるのではないかと。

プッキさんの作品の魅力は、造形のリアルとキュートのバランス。滑らかで丸みのある蝋特有のテクスチャが程よいリアルさにしてくれていて、愛嬌のあるお顔との調和が絶妙にかわいらしいのです。

オーダーのお話をさせていただいた際に、私たち家族についても詳しくヒアリングしてくださり、それぞれの性格や好きなものを盛り込んでくださいました。子どもたちはふたりが好きなハリネズミになって、当時7歳だった息子はミニカー、2歳だった娘はピンクのリボンを着けています。こういう細かな部分にまで気を遣っていただいたので、あとになって「あの時こうだったなあ〜」と思い返すことができてとても嬉しいです。

そして、なんと言ってもキヌガサタケの造形が素晴らしい!
キヌガサタケはスッポンタケ科スッポンタケ属に属するきのこ。幼菌時はタマゴのような状態で、成熟するとタマゴを割って、中から傘を備えたスポンジ状の柄(托)が伸び、その後、傘の内側からレースのような菌網が広がります。もうひとつ特徴的なのが、胞子の散布方法です。キヌガサタケは傘にグレバと呼ばれる粘液状の胞子を作り、匂いによってハエなどの虫を引き付け、胞子を付着させることで拡散させます。
このキャンドールは、そういったキヌガサタケの特長がしっかり盛り込まれていて、きのこを愛好する者の心も大変満足させてくれました。

ふわりと柔らかく広がるレースのマント(菌網)は実際のキヌガサタケさながらの美しさですし、最上部のグレバにはラメが入っていてキラキラ具合がガーリーなのに、粘液らしい表現にピッタリ!そのグレバにくっついているハエも「子孫繁栄」が込められていて、これまたニクイ演出…。

更に、個人的に注目すべきはツボ(タマゴの殻だった部分)です。真っ白ではなく、赤色を帯びているがお分かりいただけますでしょうか。そう、なんと、赤玉!ただのキヌガサタケではなく、アカダマキヌガサタケだったのです!(正確にはキヌガサタケとアカダマキヌガサタケは別種になるようです)このディテールのこだわりに作家さんの観察力・着眼点・センスを感じ、完全に脱帽したのでした。

そうして、我が家の宝物となったキヌガサタケのキャンドール。

蝋細工という性質上、あまりに気温が高くなると柔らかくなって変形してしまうとのこと。
そんな繊細なところもきのことそっくりだなあと、とても愛しく感じると共に、このときの思い出と一緒にこれから先も大切にしたいと思うのでした。

profile

とよ田キノ子(とよだ きのこ)

ウェブデザイナー、きのこ愛好家。
2007年に“きのこ病”を発症し、以後「とよ田キノ子」名義で活動を開始。
きのこグッズコレクションの展示や、きのこをモチーフにしたイラスト作品展、きのこイベントなどを開催。
日々、きのこの魅力を伝える“胞子活動”を行っている。
『乙女の玉手箱シリーズ きのこ』(グラフィック社)監修、『きのこ旅』(グラフィック社)著、『八画文化会館叢書vol.04 公園手帖2 キノコ公園』(八画出版部)著。
※今回ご紹介したキャンドール作家 ヨウル☆プッキさんの詳細はこちら

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