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きのこふしぎ発見

菌類が温暖化解決のカギを握る?生態系を縁の下で支えるきのこの力

2023.02.07
菌類が温暖化解決のカギを握る?生態系を縁の下で支えるきのこの力


今年に入って、1月中旬には季節外れの温かさを記録したり、1月下旬には大寒波が到来したりと、気候の変化が生活に大きな影響を及ぼしています。ヨーロッパでも同様に、年明けから記録的な暖冬が続いていると報道されましたが、その後一転して大寒波が到来しました。

暖冬になったり寒冬になったりする原因はまだはっきりわかっていませんが、地球温暖化も関係していると考えられています。地球温暖化が長期化すると自然界のバランスが崩れ、私たちの生活にも様々な影響が及ぶといわれています。

今回は、そんな地球温暖化をテーマに、きのこと気候のダイナミックな関係について詳しく解説していきます。

INDEX

・地球温暖化はなぜ起こる?
・気温で変わるきのこの発生タイミング
・菌類は気候バランスを保つ縁の下の力持ち
・菌類を活用した地球温暖化対策

地球温暖化はなぜ起こる?

地球温暖化の原因とされているのは、温室効果ガスの増大です。

地球の大気は地表から放出される熱の一部を吸収し、宇宙空間に逃げ去ってしまうのを防ぎます。そして、吸収した熱を地表に向かって投げ返し、地球を効率よく温めます。これを「温室効果」といいます。もし大気がなければ、地表の温度はマイナス19度になってしまうそうです。

大気に含まれる気体(ガス)のうち、二酸化炭素や水蒸気などはとくに熱をよく吸収するため、「温室効果ガス」と呼ばれます。
人間の活動が穏やかだったころは、植物や菌類の働きで二酸化炭素がバランスよく循環していました。ところが、産業が発達し、石油などの化石燃料を燃やして大量の二酸化炭素を発生させるようになると、そのバランスが崩れ、大気中に大量の温室効果ガスがとどまるようになり、地球温暖化が始まりました。

気温で変わるきのこの発生タイミング

菌類は気温の変化に敏感で、周囲が適温になったときにだけ生殖活動(子作り)を開始し、きのこを発生させます。それ以外の時期には、細かく枝分かれした糸状の姿で、落ち葉や倒木、土の中などに潜んでいます。この糸状のものが菌類の素の姿で、菌糸と呼ばれます。

ほとんどの菌類は菌糸のままで一生を過ごしますが、一部の菌類は、生殖活動をする時期になると菌糸をたくさん伸ばし、複雑により合わせて、独特の色・形を持つきのこ(子実体)を作ります。そしてきのこから胞子を飛ばして、自分と同じ菌類を増やします。

きのこが発生するタイミングは、菌類が生息する場所の温度に左右されます。マイタケやマツタケなどの秋のきのこは、秋になって気温が下がり、生息場所がそれぞれのきのこにとって適した温度になったところで発生を開始します。

そのため、温暖化による平均気温上昇できのこの発生時期が遅くなり、マツタケなどの収穫に影響が生じるのではないかとも懸念されています。

このように、きのこなどの菌類は気温の変化に敏感に反応しますが、気候から一方的に影響を受けるだけではありません。逆に、気候に影響を与え、地球温暖化を抑制する力も持っているのです。

菌類は気候バランスを保つ縁の下の力持ち

前述のように、地球温暖化は、人間の活動が活発になったことで、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量が増加することで始まりました。しかし本来は、動植物の活動で発生した二酸化炭素は植物が吸収するという自然界のサイクルがあり、バランスが保たれていました。

自然界での二酸化炭素のサイクルは以下の通りです。

  1. 植物は光のエネルギーを使って二酸化炭素から各種の糖などの有機物を作り出します。大気中の二酸化炭素は植物に吸収され、有機物のなかに固定されます。菌類などの微生物がこうした植物の働きを支えています。
  2. 有機物は植物の体をつくるとともに、植物を食べた動物、さらにその動物を食べた動物の体に吸収されて、命を支えます。
  3. やがてそれらの動植物が死骸となると、菌類などの微生物は、死骸に含まれる有機物を分解し、そこから自分たちの栄養を取り出します。菌類によって有機物が分解される際に二酸化炭素が排出され、二酸化炭素は再び大気に戻っていきます。

大気中に戻った二酸化炭素は再び森や農地の植物に吸収されて有機物となり、やがて有機物が分解されるとまた二酸化炭素になって大気中に戻っていきます。こうして、二酸化炭素は形を変えながら地球のなかを循環しています。

二酸化炭素が循環するサイクルのなかで、菌類は2種類の働きをしています。

A.植物を助け、二酸化炭素を有機物のなかに固定する働きを促進すること
B.有機物を分解し、再び二酸化炭素を大気中に戻すこと

Aの働きのわかりやすい例が、菌根菌と呼ばれる菌類と樹木の共生です。菌根菌は樹木の根に住み着き、樹木から有機物をもらう代わりに、水分や窒素、リンなど、植物にとって必要なものを地中から取り出して植物に供給します。マツタケも菌根菌の一種で、アカマツと共生しています。
菌類が動植物の死骸に含まれる有機物を分解する際には、二酸化炭素が排出される(B)だけでなく、分解物の一部が土壌の栄養分となり、土を豊かにします。その結果、植物がよく育ち、活発に働くようになり、二酸化炭素を吸収する力が高まります(A)。
地球温暖化を解決するには、菌類の助けを借りて植物の働きを促進し、二酸化炭素循環のバランスを正常に戻すことが必要です。

一方、細菌の一種である「放線菌」や「根粒菌」、「硝酸菌」は、農作物が必要なそのままでは取り込むことができない「窒素」を、農作物が取り込むことができる「硝酸イオン」へと変換させて植物へと供給します。

菌類を活用した地球温暖化対策

植物が自然のサイクルの中で行っている、二酸化炭素を有機物に変える働きを、炭素固定と言います。二酸化炭素は大気中にあれば温室効果ガスとなり、温暖化を引き起こしてしまいますが、有機物のなかに組み込まれて生物の体や土壌などにとどまっている間は、そうした作用を持ちません。

二酸化炭素循環のバランスを修正するためには、人間の活動による二酸化炭素の排出を抑制するだけでなく、植物による炭素固定を促進することが必要です。

炭素固定の主役となるのは植物であり、それを縁の下で支えるのが菌類などの微生物です。

炭素固定を促進するには、既存の緑(森林など)を守りながら、各地に木や草花を植えて緑化を進めていくことが効果的ですが、そのためには、植物の活動を支える豊かな土壌と生態系を守り育んでいくことが求められます。

人間の力で無理矢理自然を作り変えようとしてもうまくいきません。もともと自然界には、菌類や植物の働きによって循環のバランスを正常に保とうとする仕組みがあります。そうした自然の仕組みを後押しするような方法で環境を改良していくことが必要なのです。

特に、きのこなどの菌類は植物にとって欠かせないパートナーであり、森林保全や緑化の分野では鍵となる存在です。なかでも、菌根菌に注目が集まっており、樹木と共生する菌根菌の力を借りて森を健康にし、緑化を促進するための取り組みが、世界各地で進められているところです。

さらに菌根菌のなかには、植物にとって有害なアルミニウムなどの金属を無害な状態に変える力を持つ種類もあり、そうした菌類の力をうまく借りることで、植物が育たないような荒廃地でも緑化を進めることができるようになるのではないかと期待されています。

きのこなどの菌類は、食卓から私たちの健康を守ってくれるだけでなく、目に見えない土の中から、地球の健康も守ってくれているのです。

参考文献

  1. 温室効果のメカニズム
        
  2. キノコの生育と栽培
        
  3. 地球温暖化に適応したマツタケ発生林施業法の開発
        
  4. 生態系でのエネルギーと物質の流れ
        
  5. 土壌微生物を利用した緑地回復と環境保護
        
  6. アルミニウムによる外生菌根菌の有機酸代謝変動の網羅的解析
        
生命力を食べる。 人と菌の物語

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