難産を避けるには?安産に必要な3つの条件と食事のコツ
2025.02.17
妊活から妊娠、出産、産後まで、マタニティ期に大切にしたいことを食事のポイントとともにお届けする本コーナー。今回は、「安産のために必要なこと」をテーマにお届けします。
妊娠後期になるといよいよ出産の準備に入ります。予定日が近づくことが楽しみな一方で、難産にならないかを心配されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、難産と安産の違いや安産の条件、安産にするために日頃からできることなどをお聞きしました。
INDEX
安産に必要な3つの条件

まず、難産とはどんなお産を指すのでしょうか?
難産とは、一言でいうと、時間がかかるお産を指します。実は、痛みの大きさは関係ありません。出産にかかる時間は、初産の方であれば陣痛がきてから15〜16時間、経産婦の方であれば8〜9時間くらいが一般的です。安産は、初産で10時間程度、経産婦なら3〜4時間のお産ですね。それに対して、30時間を超えてしまうようなお産のことを難産と言います。
難産になる理由も教えてください。
分娩がスムーズにいく条件は、大きく3つあります。1つ目は産道が正常なこと。骨盤や産道が狭いと赤ちゃんが通りにくいので、時間がかかってしまいます。
2つ目は陣痛が正常なこと。当たり前のことかもしれませんが、陣痛が来ないとお産は始まりません。そして、陣痛がきたとしても弱い場合は、分娩の進みが悪くなってしまいます。ですが、陣痛の強さは子宮収縮薬の点滴で調整ができますから、安心してください。
3つ目は、赤ちゃんが上手に骨盤を通過できるかどうかです。赤ちゃんはお腹の中では横向きなので、生まれるときには90度回り、顔がお母さんのおしりの方を向けて出てきます。このように赤ちゃんが産まれるときに回ることを「回旋」と言いますが、回旋が順調であればスムーズなお産になりやすいのです。これらの3つの条件のうち、1つでも上手くいかないと難産になる可能性が高くなります。
難産を避けるためにお母さんができること
安産にするためには、3つの条件があるとお伺いしました。産道について、お母さん側ができることを教えてください。
骨と子宮の2つの産道がありますが、残念ながら骨の形を変えることはできません。変えられるのは子宮口の状態です。そして、分娩時に子宮口を開くには、赤ちゃんがしっかりと下りること、つまり骨盤にしっかりと入っていることが大切です。
そのためには、妊娠後期にはお産のことを考えて、なるべく赤ちゃんが骨盤の中に入る姿勢を心がけるとよいでしょう。どのような姿勢かというと、お相撲さんがとる蹲踞(そんきょ)の体位です。あぐらをかいたり、草むしりをしたり、雑巾がけをしたりすることで、日常生活にも蹲踞に近い姿勢を取り入れることができると思います。
正常な陣痛が来るように、普段の生活から何かできることはあるのでしょうか?
陣痛は女性ホルモンの変化によって始まります。具体的には、プロゲステロンという黄体ホルモンが減少し、相対的に卵胞ホルモンであるエストロゲンが増加することで陣痛につながるのです。このエストロゲンは、赤ちゃんの胎盤で作られるDHAという物質が、お母さんの胎盤を通過して変化したものです。つまり良い胎盤形成ができれば、妊娠後期にエストロゲンが増えやすいと言えるでしょう。

そして、良い胎盤を作るには、栄養バランスの取れた食事が大切です。特に、エリンギやマイタケなどのきのこ類に豊富なビタミンDは、胎盤を形成する上で重要な栄養素の一つですので、意識をして摂取していただきたいですね。
また、便秘によって腸が慢性的な過緊張状態(ストレス状態)になっているときには、陣痛が起こりにくいといえます。妊娠後期に便秘にならないためには、食物繊維の豊富なきのこ類や根菜類、海藻類などを食べると良いですね。特にきのこ類は、日常的に摂取をすることで善玉菌が増えたり、腸内細菌の「種類」も増えてより良い腸内環境に繋がることがわかっていますので、効率よく便秘を防いでくれますよ。
もちろん、身体を動かすことも腸の活性化に繋がり、便秘の予防に役立ちます。ヨガやウォーキングなどの適度な有酸素運動も取り入れていきましょう。
初産では陣痛が来てから出産までに15時間程度かかるのが一般的だと伺いました。分娩時に陣痛を弱めないためにできることはありますか?
分娩時に陣痛を弱めないためには、エネルギー補給が何よりも重要です。よく出産はマラソンに例えられますが、マラソン選手と同じような栄養摂取をすると良いと思います。つまり、バナナやおにぎり、サンドイッチなど、すぐにエネルギーに変わる食べ物です。脱水になってはいけませんから、水分補給も忘れないようにしましょう。
日頃から腹式呼吸の練習をしておこう

産道と陣痛という2つの条件について、お母さん側でできることをお話いただきました。最後に、赤ちゃんの「回旋」が上手くいくように、お母さんができることがあれば教えてください。
赤ちゃんの回旋を助けるために大切なことは妊娠中姿勢をよくすること。姿勢をよくするには普段から腹式呼吸を意識することです。鼻から息を吸い、その倍の時間をかけて口から吐くのが「腹式呼吸」です。また分娩時腹式呼吸をすることで、二酸化炭素を一定濃度保つことができます。二酸化炭素には血管拡張作用があるので、子宮や赤ちゃんの胎盤の循環が良くなり、順調なお産に繋がるのです。
一方、呼吸が上手くできないと、痛みが原因で過呼吸になるリスクが高まります。過呼吸になると血液中の二酸化炭素が減少してしまうため、血管が収縮して赤ちゃんの血管の循環も悪くなりますよね。すると、赤ちゃんが産道を下りることが難しくなり、さらには急に状態が悪くなって帝王切開になることもあります。ですので、妊娠後期には日頃から、腹式呼吸を練習しておくと良いと思います。

最後に、出産が近い方へ先生からお伝えしたいことがあればお願いします。
最近は、「無痛分娩」が話題になっています。確かに出産時の痛みを和らげる無痛分娩には、痛みに弱い方や体力がない方にはメリットがあると思います。ただ、メリットだけではなく、デメリットもあることはご存じでしょうか。
まず無痛分娩は多くの場合、計画分娩です。陣痛促進剤を使い、娩出の時は赤ちゃんの頭を吸引して取り出す「吸引分娩」や挟んで取り出す「鉗子分娩」といった人工的な分娩が多くなります。さらに、お母さんに投与された麻酔薬が赤ちゃんにも移行してしまいますから、その影響なども考えると赤ちゃん側の負担が減るわけではないのです。ですので、そういったデメリットやメリットの両方をしっかりと知ったうえで、分娩の方法を考えるのが良いと思います。
栄養バランスが取れた食事や適度な有酸素運動を行うことが、安産に繋がります。さらに、妊娠後期からは、腹式呼吸の練習をしたり、あぐらのような姿勢を意識的に取ったりするなど、安心して分娩に臨めるような環境を整えていただけたらと思います。