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妊娠中の体重管理が赤ちゃんの病気リスクを左右する!胎児発育不全とDOHaDの考え方とは?

2024.11.18
妊娠中の体重管理が赤ちゃんの病気リスクを左右する!胎児発育不全とDOHaDの考え方とは?

妊活から妊娠、出産、産後まで、マタニティ期に大切にしたいことを食とともにお届けする本コーナー。今回は、マタニティ期に気を付けたい“体重管理”に関連して、「胎児発育不全」と「DOHaD(ドーハッド)」をテーマにお届けします。

妊娠中の体重管理は、お母さんや赤ちゃんの健康にとても重要です。体重が増えすぎても増えなさ過ぎても母子に大きなリスクをもたらすため、適正体重を意識しながら妊娠期を過ごすことが大切です。また、近年注目される「DOHaD(ドーハッド)」の考え方では、さまざまな大人の病気の原因が胎児期や出生後早期にあるといわれています。

そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、妊娠時の適正な体重増加量や、体重が十分に増やせないとき・体重が増え過ぎたときのリスク、胎児発育不全を予防するためのポイントについてお聞きしました。

INDEX

妊娠中は「自分自身の適正体重」を知ることが重要

まずは、妊娠中の体重の適切な増加量について教えてください。

実は、妊娠中の適正な体重の増加量は体型によって違います。例えば、痩せ型(BMIが18.5未満)の場合は、妊娠10ヶ月間で12㎏から15㎏、標準(BMI18.5から25未満)の場合は、10㎏から13㎏増やす必要があります。一方で、BMI25.0以上30.0未満では7㎏から10㎏、BMI30以上なら妊娠10か月でも体重増加の上限は5㎏程度であることが望ましいでしょう。

ただ妊婦健診ごと(1〜4週間ごと)の体重の増加は、それほど気にする必要はありません。それよりも、自分の体型を把握して妊娠10か月間をトータルして、適正な体重に増やすことが重要なのです。

妊婦さんが適正な体重に増やせなかったとき、赤ちゃんにはどのような影響が出るのでしょうか?

特に痩せ型の妊婦さんが十分に体重を増やせないと、胎児の推定体重が標準よりかなり下回る「胎児発育不全」のリスクが高まります。その結果、早産や2500g未満で生まれる「低出生体重児」にもつながると言われています。OECD国の中で日本は低出生体重児出生率のワースト3であり大きな問題となっています。

反対に、標準よりもBMIの数値が高い妊婦さんが体重を増やしすぎると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病にかかりやすくなります。それが、難産や早産を引き起こす可能性もあるのです。

そうならないためには、妊婦さんが自身の適正体重を理解して、自分に必要なだけ体重を増やせるよう意識することが大切ですね。

妊娠前から「標準体重」でいることを意識しよう

適正に体重を増やすために、妊娠前から注意した方がよいことはありますか?

標準体重(BMI:18.5から25未満)でない人は、妊娠をする前から栄養バランスの良い食事や規則正しい生活、運動習慣を意識して、標準体重に近づけましょう。中でも痩せ型の人は、急に食べる量を増やすことが難しいため、妊娠前からしっかりと「食べる習慣」をつける必要があります。

目指してほしいのは、朝にたんぱく質を10g摂ること。たんぱく質は筋肉の材料になるため筋肉をつけて体重を増やすのに効果的ですし、朝摂ることで体温が上がりやすくなり健康な身体づくりに役立ちます。例えば、1食あたりのタンパク質は、納豆1パックには約8g、目玉焼きには約7g、ハムには約2g、ヨーグルトには約3g含まれています。

また、タンパク質を筋肉に作り変えるためには、タンパク質を代謝するビタミンB6が必要です。ビタミンB6は赤身肉やマグロ、ジャガイモ、きのこなどに含まれているため、タンパク質と合わせて摂りましょう。

一方で、標準よりBMIの数値が高い人は、カロリーを抑えつつも、1日3食(朝・昼・夕)の食事はしっかりとりましょう。血糖値の上昇を緩やかにするためにも、食物繊維が豊富なきのこ類やこんにゃく、ひじき、玄米や大豆製品がおすすめです。中でもきのこは低カロリーでもありますし、うま味成分も豊富なので、料理の塩分や糖質を減らす効果も期待できますよ。

妊娠後に、適正な体重を維持するために注意した方がよいこともお伺いできますか?

妊娠前と同様に、栄養のバランスを考えて食事をとることが大切です。
さらに、舞茸やエリンギなどのきのこ類に多く含まれるビタミンDは、妊婦さんの健康な身体作りや胎盤形成に役立ちます。ビタミンD不足は早産につながりやすいとも言われますので、意識して摂りたい食材です。

また、バランスのよい食事に加えて適度な有酸素運動をするのもおすすめです。代表的なものはウォーキングですが、その他にも水泳やエアロビクス、ヨガなども怪我の心配なく行えます。最近では、妊婦さん向けのマタニティエアロビクスやマタニティヨガを行うジムも増えているため、興味がある方は覗いてみるとよいかもしれません。

「胎児発育不全」を予防するために体重コントロールを

先ほど、妊娠中に体重が十分増やせない場合、「胎児発育不全」のリスクが高まるとお伺いしました。胎児発育不全についても詳しく教えてください。

胎児の大きさはSD(標準偏差)という値で表しますが、推定体重がSDの一つの目安である「ー1.5SD」を下回るときに「胎児発育不全」といいます。
例えば、27週だとおよそ1,000gが標準体重です。同じ週数で推定体重が700g〜800gしかない場合はー1.5SDを下回ることになりますので、胎児発育不全と診断されます。そして、胎児発育不全は2500g未満で生まれる「低出生体重児」にもつながってしまいます。

近年注目を集める「DOHaD(ドーハッド)」と呼ばれる考え方では、低出生体重児は、短期的にだけでなく長期的にもさまざまな病気のリスクを背負い、20〜30年以上経っても肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病になりやすいと言われています。

胎児発育不全を防ぐためにも、妊娠中の適正な体重増加が重要なのですね。

胎児発育不全を予防するには、妊娠中はもちろん、妊娠前から適正な体重を維持することが大切です。日本では、「胎児発育不全」や「低出生体重児」が増えていますが、その理由はBMI値が18.5未満の若い女性の比率が増加していることにあります。現在、20代の女性の20%以上、30代の女性の10%以上はBMI値が18.5未満です(※)。学生のころからダイエットなどで食べない習慣がついてしまい、そのまま妊娠に至っていることが原因だと考えられます。

胎児発育不全を予防するためには、妊娠を考え始める前、つまり10代の頃から栄養バランスの良い食事や規則正しい生活、運動習慣を身に着けることが重要です。

注目される「DOHaD」とは?

先ほどお話にでてきた、「DOHaD(ドーハッド)」についても教えてください。

DOHaD(ドーハッド)とは、Developmental Origins of Health and Disease の略称です。「胎児期」や生後半年〜2年くらいまでの「生後早期」の環境が、生まれてから10年、20年、30年後の将来の健康と病気にも関係するという考え方です。

妊婦さんが体重を適正に増やすことができないと、胎児発育不全や低出生体重児のリスクが高まります。そして、胎児期に飢餓状態だった低出生体重児は、出生後に過剰にエネルギーを摂取しようとするため、乳児期や幼児期以降に肥満になりやすいのです。さらに、その後10年以上経っても高血圧、糖尿病につながりやすいのだと言われています。

このように妊娠中の体重増加は、赤ちゃんの将来の健康にもつながります。妊婦健診ごとの体重の増加を気にしすぎる必要はありませんが、自分自身の適正体重を理解することは大切です。
ぜひ、今妊婦である方も、これから妊娠を望む方も、健康で安全な妊娠・出産・子育てができるよう、日々の食事や生活習慣を整えることから始めていきましょう。

(※)平成29年「国民健康・栄養調査」の結果より

profile

金山 尚裕(かなやま なおひろ)

浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員

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