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これって「産後うつ」?産後、誰もが経験するこころの不調の原因と対策

2024.09.09
これって「産後うつ」?産後、誰もが経験するこころの不調の原因と対策

妊活から妊娠、出産、産後まで、マタニティ期に大切にしたいことを食とともにお届けする本コーナー。今回は、産後に注意したい「産後うつ」をテーマにお届けします。

妊娠・出産を乗り越えたあとも、女性の身体では劇的な変化が続きます。産後うつは「育児の不安や疲れ」として見逃されてしまうこともありますが、重症化させないためには早期発見・治療が重要です。

今回は、出産を終えた女性の身体に起こる変化や産後うつの原因、産後の心と身体をケアする食事や生活のポイントについてご紹介します。

INDEX

出産した女性の約10人に1人が産後うつ状態に

出産後に心が不安定になる女性が多いと聞きます。出産によって、女性の心身にどのような変化が起こるのでしょうか。

妊娠・出産のそれぞれの過程で、女性の体内では女性ホルモンの分泌量が大きく変動します。妊娠中は胎盤から女性ホルモンが大量に分泌され、その分泌量は妊娠前の約100~500倍と言われています。そして赤ちゃんが生まれ子宮内から胎盤が出てくると、大量に分泌されていた女性ホルモン量が一気に減少します。

この急激な変動によって、産後数日から数か月は精神的に不安定になったり、イライラしやすくなったりするのです。また、肌荒れや水分不足、膣炎など、身体的な不調も起こりやすくなります。

それだけでなく、産後は3~4時間おきに授乳したり、泣き止まない赤ちゃんを長時間抱っこしたりと、育児による疲れやストレスも増加します。

こういった理由から、産後は軽い症状の「マタニティブルーズ(通称:マタニティブルー)」から重い症状の「産後うつ」まで、さまざまな精神的不調をきたす女性が多いのです。

マタニティブルーズと産後うつは、どういった違いがあるのでしょうか。

マタニティブルーズとは、ホルモン分泌の変化や育児によるストレス、環境の変化などによって起こる一時的な気分の変動です。涙もろくなる・イライラや不安が募る・気分が落ち込むのがおもな症状ですが、約1~2週間程度で軽快します。

しかし、気分の落ち込みや不安感が2週間以上続く場合、「産後うつ」という病気を発症している可能性があります。産後うつの症状は通常のうつ病とほぼ同じで、イライラや不安感、疲労感、気分の落ち込み、食欲不振、睡眠障害などが挙げられます。過去にうつ病になったことがある女性は産後うつを発症しやすいため、とくに注意が必要です。

マタニティブルーズが一時的な精神の不調であるのに対し、産後うつは自然治癒するケースが少ないため、病院で治療を受ける必要があります。出産を終えた女性のうち、マタニティブルーズは約25~50%、産後うつ状態の人は約10%にのぼると言われています。

産婦人科で行われる「産後2週間健診」は育児や母乳の不安解消のほか、産後うつの早期発見にも役立ちます。「産後の不調は生理的なものだから」「母親だから頑張らないと」などと一人で抱え込まず、つらいと感じたら助産師や産婦人科医に相談しましょう。

産後うつ予防のカギは周囲のサポートと睡眠時間の確保

それでは、出産後の心身の不調に対処するために、産後の女性や家族ができることを教えてください。

多かれ少なかれ、産後は誰でも精神的な不調をきたすため、旦那さんやご両親、親戚など周囲のサポートが必要不可欠です。とくに旦那さんは産後に起こる女性の心身の変化を理解し、女性がなるべく休養できるようにサポートすることが大切です。

少なくとも週に1〜2回は、お母さんが6時間程度の睡眠時間を確保できるよう、あらかじめ搾乳した母乳を旦那さんが与えるのもひとつの方法です。
また、お母さんのストレスを軽減するためには、早めに母乳からミルクに切り替えるのも有効な選択です。生後すぐの赤ちゃんについては母乳を与えることが非常に重要で、母乳は母子の精神的結びつきを深める作用もありますが、栄養学的には生後3か月を過ぎるとミルク(人工乳)のほうが栄養バランスが良くなるということも理解しておくと気が楽かもしれません。

早めに母乳育児をやめると、妊娠中にお休みしていた卵巣機能がもとに戻り、女性ホルモンが分泌されて月経も早く再開します。体内のホルモンバランスが正常に近づくと、精神的な不調も改善しやすいため、産後に精神的失調のある方は長期の母乳育児にこだわり過ぎないことも大切です。

大豆イソフラボンや食物繊維を積極的に取り入れよう

産後の不調をケアするために、食事で意識できることはありますか?

食事面では、できるだけ間食を減らすことが大切です。間食が多いと血糖値が常に高い状態になり、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌量も増加します。インスリンは交感神経を刺激するため、間食をとりすぎるとストレス状態が続きやすくなってしまうのです。

ただ実際のところ、産後1~2か月は授乳の回数も多く、お母さんの生活も不規則になりやすいため間食が増えやすくなってしまいます。できるだけ1日3回バランスの良い食生活を意識することで、無理なく間食を減らせると良いですね。

また、産後は女性ホルモンが減っているため、女性ホルモン「エストロゲン」に似た働きをする栄養素を積極的に摂取するのもおすすめです。なかでも代表的なのが大豆イソフラボンで、納豆や大豆、豆腐、油揚げなどに多く含まれます。

加えて、産後はホルモンバランスの乱れや不規則な生活によって便秘も起こりやすくなるため、腸の調子を整える「食物繊維」も積極的に摂りましょう。
腸には多くの交感神経が存在しますが、便秘によって腸が拡張すると常に交感神経が刺激される「ストレス状態」が続きます。食物繊維はきのこや野菜、海藻などに多く含まれているため、意識的に食物繊維を毎日の食事に取り入れ、腸内環境を整えることが大切です。

中でも「菌類」であるきのこは、他の食材と比べて食物繊維の種類も量も多いため、より多くの善玉菌のエサになります。実際、きのこを定期的に食べることで、腸内フローラ(腸内細菌叢)が改善されたという研究結果も報告されています。

「冷えとり」「腹式呼吸」でさらなるストレス対策に

その他にも、産後の心身をケアする方法があれば教えてください。

おすすめは「身体を温めること」です。身体の「冷え」は交感神経を刺激する要因のひとつになりますので、エアコンを使うときは冷気が身体に直接当たらないようにしたり、気温の下がる朝晩は靴下をはいたりし、入浴の際はできるだけお風呂に浸かって身体を温めることが大切です。

その点、きのこや大豆食品には、体内の一酸化窒素(NO)の産生を高めて血流を促進する「アルギニン」も豊富に含まれており、冷え対策にも役立ちます。
他にもきのこには、血行を良くする効果のある「ナイアシン」や、糖質を代謝することで熱の産生を助ける「ビタミンB1」も豊富に含まれていますよ。

また、母乳育児をしていると猫背になりやすいのですが、姿勢が悪いことでも交感神経が刺激されてしまいます。息を吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにお腹をゆっくりへこませる「腹式呼吸」は、末梢循環を改善し、ストレス状態の緩和に役立つので、日々の生活の中に取り入れてみましょう。

出産後も女性の身体は様々な変化が続きます。出産後のこころの不安は誰もが少なからず経験するものになりますので、日々の食事や生活習慣などできるところから少しずつ整え、決して無理はせず、ご自身のペースで心と身体をケアしていきましょう。

profile

金山 尚裕(かなやま なおひろ)

浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員