更年期の不調は“我慢”しなくていい!気をつけたい症状と不調を和らげるセルフケア
2025.07.14
「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月様々な話題をお届けする本コーナー。
今回は、40代以降に多くの女性が経験する「更年期」をテーマにお届けします。
「最近なんだかイライラする」「急にたくさんの汗が出ることがある」「腟にかゆみや違和感がある」―こうした不調は更年期障害と呼ばれ、更年期には、女性ホルモンの急激な減少により、心や身体にさまざまな症状が現れます。なかには、高血圧や骨粗しょう症など、放置することで将来的な健康リスクにつながるものもあります。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、更年期に起こる身体の変化や注意したい症状、また日常生活の中でできるセルフケアについてお聞きしました。
INDEX
- 更年期の身体には何が起きている?
- 40代~50代こそ、かかりつけの産婦人科を
- 更年期の体調管理は「頭寒足熱」が基本
- 更年期の不調対策にはきのこのビタミンB群や食物繊維がオススメ!
- 今の更年期の治療は「貼る・塗る」が主流
更年期の身体には何が起きている?

まずは、更年期に起こる身体の変化について教えてください。
日本人女性の平均閉経年齢は約51歳です。そのため、個人差はありますが40代〜50代の間に女性ホルモンは減少していきます。女性ホルモンは、子宮や卵巣だけではなく、血管や骨、皮膚、全身の臓器や筋肉など、全身の健康に影響を与えるホルモンです。それが減少するため40代~50代にかけては、心や身体のさまざまなところに望ましくない変化が出てきます。初期に出やすいのは神経系の症状ですね。例えば、ほてりや発汗、動機、息切れ、イライラや睡眠不足、肩こりなどが該当します。
また、女性ホルモンの減少により排卵がなくなりますので、生理不順が起こりやすくなります。特に40代後半になると、生理不順の方が増えてきますね。それに伴って、不正出血の症状があらわれることも少なくありません。更年期症状の1つとしてあらわれる不正出血は問題ありませんが、なかには、子宮がん、卵巣腫瘍や卵巣がんなどの病気が隠れていることもありますので、不正出血がある場合はまずは早めに婦人科を受診することが大切です。また、乳がんの発症が最も増えるのも更年期である40代~50代ですから、あわせて乳がん検診も定期的に受けてほしいですね。
40代~50代こそ、かかりつけの産婦人科を

不正出血があった場合には、「更年期によくあること」と放置せず、産婦人科を受診した方がよいとお伺いしました。他に、「こんな症状が出たら受診したほうがよい」というものはありますか?
泌尿生殖器症候群(以下GSM:Genitourinary Syndrome of Menopause)の症状である、「腟や外陰部の違和感、痛み、かゆみ、乾燥感」は、産婦人科で処方されるエストロゲンの腟剤で改善できる場合がほとんどです。この症状の原因は、女性ホルモンであるエストロゲンが減ることによって、腟内の乳酸菌が減少すること。乳酸菌が減ると腟内や尿道周辺が荒れてしまい、炎症や違和感が出てくるのです。
実は50代以降の女性の8割以上は、何らかのGSMの症状があると言われていますが、「年だから仕方ない」「恥ずかしい」「受診するほどの症状ではない」と我慢をしているのが現状なのです。市販の軟膏などで対応している人もいるかもしれませんが、残念ながらそれらで根本的に解決することは難しいですね。
確かに、GSMはなかなか受診しづらい症状ですね。「GSMは、受診をすればすぐに改善できる」と知らなければ、病院に行こうと思わない方が多いと思います。
そうですね。そのほか、受診をおすすめしたい症状に血圧の上昇があります。閉経頃から血圧が上がってきた場合には、まずは産婦人科医に相談をしてほしいと思います。エストロゲンが減ると血圧が高くなり、コレステロール値も上昇します。さらに閉経後の女性ホルモン減少によって起こる、骨密度や筋肉量の低下も特に注意が必要です。
女性ホルモンは、血管、代謝、神経系、免疫系、筋肉、骨など、全身のあらゆるところに関係しています。妊娠・出産に関わらない限り、産婦人科は自分に関係ないと考えている方が多いかもしれませんが、40代~50代こそ、かかりつけの産婦人科を持ってほしいのです。風邪を引いたら内科に受診するのと同じように「不調を感じたら産婦人科で診てもらうこと」を習慣にしていただきたいと思います。
更年期の体調管理は「頭寒足熱」が基本

産婦人科を受診する以外に、更年期の不調をやわらげるためには、どのようなことに気をつけたらよいでしょうか。
先ほどもお伝えした通り、加齢や女性ホルモンの減少とともに筋肉量も減っていきますから、生活の中に筋肉量を維持するための運動を取り入れることも、とても大切ですね。特に骨盤周辺の筋肉が減ってしまうと、子宮や膀胱が下がってきたり尿もれが起きやすくなったりしますので、ぜひ骨盤底筋のトレーニングも取り入れてみてください。
運動以外にも、心がけるとよいことはありますか?
「3食しっかり食べること」「質の高い睡眠をとること」「身体を冷やさないこと」は基本となります。特に更年期において、「冷え」は大敵です。足を冷やすことは絶対に避けてほしいですね。これからの暑くなる季節は素足にサンダルで外出してしまい、エアコンの風によって、知らないうちに足が冷えていることもあるかもしれません。
そのような足の冷えは、実は子宮や卵巣、腸などの内臓の機能低下にもつながるため注意が必要です。身体が冷えることで、消化不良を起こしたり、便秘になったりするのもその一例ですね。「冷えは万病のもと」だと昔から言われています。夏場こそ、「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」、つまり、上半身は涼しく、下半身はしっかり温めることを心がけてください。
更年期の不調対策にはきのこのビタミンB群や食物繊維がオススメ!

身体、特に足を冷やさないことが大切なのですね。では、身体を冷やさないために取り入れると良い食材にはどのようなものがあるのでしょうか?
身体の中から冷えを防ぐには、血行を促進する食材がおすすめですね。例えば、きのこに含まれる、ナイアシン(ビタミンB3)は、血行を良くする働きがあります。さらに、きのこには代謝を高める「ビタミンB1」も豊富ですので、身体をあたためる効果のある根菜類などとあわせて、ぜひ食事に取り入れてほしいと思います。その他にも、減少する女性ホルモンを補うために、女性ホルモンと似た働きをするイソフラボンは積極的に摂取したい栄養素です。
では、更年期に増加するメンタル面の不調のために、積極的に摂取するとよい食材はありますか?
冒頭でお伝えしたように、更年期の症状であるほてりやイライラ、睡眠不足などは、自律神経の乱れが原因です。きのこや野菜、海藻などに多く含まれる食物繊維は、腸内環境を整えて腸内でセロトニンを合成します。セロトニンは、「幸福ホルモン」と呼ばれておりメンタルの安定に役立つうえ、自律神経にも働きかけると言われていますから、食物繊維もぜひ意識して取り入れてほしいと思います。
また、きのこに含まれるストレス緩和や睡眠の質を高める3つの成分「GABA」「オルニチン」「エルゴチオネイン」もおすすめしたい栄養素です。これらは、寝つきが良くなる・深い眠りが続きやすくなるといった効果も期待できますよ。
今の更年期の治療は「貼る・塗るだけ」が主流

更年期において大切な生活習慣や栄養素を理解できました。ただ、やはり更年期の症状での受診のハードルはあるかもしれません。
更年期の症状で産婦人科を受診すると、すぐにホルモン補充が始まるのでは、と心配をされている方にはハードルが高いかもしれません。ですが例えば、イライラが始まるなど、比較的症状が軽い段階であれば、血液検査でホルモン量を確認して、生活習慣の指導や漢方薬の処方で様子を見ることもよくあります。それでも改善しない方は、イソフラボンなどのサプリメントを。それでも改善しない場合には、ホルモン補充を考えるという流れが多いと思います。
いきなりホルモン補充は不安だという方も、治療が選べるのですね。
ピルを飲んだことがない方は、ホルモン補充に抵抗がある方もいらっしゃいます。ただ実際の治療では、ピルの1/5ほどの弱さのエストロゲンを使う「ホルモン補充療法(HRT)」が一般的です。この治療で今主流となっているのは、ピルのように飲むタイプではなく「貼るタイプ(パッチ型)」や「塗るタイプ(ジェル型)」です。どちらも皮膚から吸収されるため、飲み薬よりも負担が少なく、使い勝手もよいですよ。ただ塗るタイプのエストロゲンは長期服用の際は黄体ホルモンの飲み薬が必要になります。
ここまでお伝えしてきた通り、更年期の不調は「我慢するもの」ではありません。生活習慣や食事の工夫で症状が和らぐこともありますし、「貼るだけ」「塗るだけ」で改善する治療法もあります。不調を一人で抱え込まず、まずは産婦人科に相談してみましょう。更年期を前向きに乗り切る第一歩として、身体を冷やさない工夫や、心と身体にやさしい栄養素を取り入れながら、自分自身を大切に過ごしていきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員