梅雨のきのこ・ツチグリの思い出
2024.06.10
秋のイメージが強いきのこですが、実は雨が多い季節も大好きです。雨によって、きのこたちの活動も活発になってきて、多くの種類を見ることができるようになります。
近年では、きのこが雨雲をつくっているのではないかという研究もあり、天気までコントロールしてしまう能力には驚くばかりです。
雨を利用するという点でユニークな特徴を持っているのが、ツチグリ(土栗)というきのこ。名前の通り、土の中に発生するきのこで、成長とともに地表に現れます。
一般的なきのこのような傘の形ではなく、コロコロとした丸い形状をしていて、成熟すると固い外皮が割れ、ちょうど栗のイガが割れたような星型になります。この様子から英語では「Earthstar(地上の星)」という名前がついています。日本では「栗」と形容されていますが、国が違えば「星」になるのが面白いですね。

この星型の外皮、晴れの日(乾燥している日)には閉じ、雨の日(湿度が高い日)には開きます。乾燥している日は外皮を閉じて、中央の胞子が詰まった袋を押して胞子を放出させ、湿度の高い日は外皮を開くことで、胞子の袋に雨粒を当てて胞子を放出させるのです。
まさに「星型の湿度計」、すごい戦略を考えたものです。
そんな形も生き方も個性的なツチグリは、実は私が一番気に入っているきのこでもあります。その日の湿度によって方法を変える柔軟さというか、どちらに転んでも大丈夫という適応力、人としても見習いたいです。
そして、もちろん見た目の可愛らしさも好きなポイント!かわいいツチグリグッズの中でも特に今回紹介したいのは、佐土原人形(さどわらにんぎょう)の土鈴です。

佐土原人形は、宮崎県宮崎市佐土原町で作られている郷土人形で、400年以上の歴史がある伝統工芸品。代々継承されている型を用いて粘土でつくられる人形は、土の質感の素朴さと鮮やかな色づかいが魅力です。
そんな伝統工芸品の中に、なぜツチグリが??
これは現在も佐土原人形をつくり続けている唯一の人形屋「ますや」さんのオリジナル作品で、2021年に宮崎県総合博物館で開催された特別展「発見!きのこランド」に合わせて作られたものです。
「ますや」さんでは、伝統的なデザイン以外に現代にも合った新しいデザインを取り入れることも稀にあるそうですが、その際には “それを佐土原人形でつくることの意味” を熟慮されるとのこと。今も昔も、これから先の未来も、変わらないということに大きな価値があり、守る部分はきちんと守っていくという姿勢に感銘を受けました。
そういった考えのもと、このきのこシリーズは宮崎県内に自生しているきのこのみをモチーフとして採用し、実際のきのこや博物館のレプリカを観察したうえでデザインに落とし込んだそうです。(たしかに、このツチグリの外皮のひび割れ方、リアルです!)
また、古くから土鈴は「鳴り物」と呼ばれ、音を出すことで魔除けとして用いられていますが、同様に、宮崎県内ではきのこを魔除けやお守りとして利用していたということもあり、その点からもきのこを土鈴のデザインとして取り入れたのだと伺いました。
土鈴ときのこ。一見、縁がないようにも思えましたが、そういった文化的な背景を知ると、とても親和性の高いモチーフでした。

縁といえば、このツチグリ土鈴を紹介してくださったのが、当時宮崎大学で教鞭をとられていた原田栄津子先生でした。原田先生は、私が開催していたきのこトークイベント「キノコナイト」に出演していただいたのをきっかけに、きのこの楽しさを伝えたい!という「胞子活動」をする仲間として仲良くさせていただいていた“菌友”のひとりです。
宮崎県総合博物館での特別展「発見!きのこランド」で行われた関連イベント「宮崎きのこマーケット」を原田先生のきのこ学研究室が主催されており、その際の出展者紹介で「ますや」さんのツチグリ土鈴を知って、あまりのかわいさに一目惚れ!
私はイベント当日に伺うことができなかったため、原田先生に「ますや」さんとの橋渡しをしていただいて、無事購入できたという次第です。
そうして、楽しみにしていたツチグリ土鈴が宮崎県から届いた日、原田先生の訃報も届きました。たった1週間前にツチグリ土鈴の話をしたばかりでした。
本当に急なことで信じられなかったですし、今でも更新が止まったSNSを見ては寂しくなりますが、最後に私と佐土原人形との縁を繋いでくださったおかげで、消えない思い出を残してくれたことにとても感謝しています。
人は亡くなると空の星になるというけれど、きのこをこよなく愛していた原田先生は地上の星になったのかもしれないなあ、なんて、ツチグリ土鈴をカラコロと鳴らしながら、ツチグリ土鈴がつなぐ原田先生との時間を思い出しています。
profile
ウェブデザイナー、きのこ愛好家。
2007年に“きのこ病”を発症し、以後「とよ田キノ子」名義で活動を開始。
きのこグッズコレクションの展示や、きのこをモチーフにしたイラスト作品展、きのこイベントなどを開催。
日々、きのこの魅力を伝える“胞子活動”を行っている。
『乙女の玉手箱シリーズ きのこ』(グラフィック社)監修、『きのこ旅』(グラフィック社)著、『八画文化会館叢書vol.04 公園手帖2 キノコ公園』(八画出版部)著。
※今回ご紹介した佐土原人形 ますやさんの詳細はこちら