プロアスリートを支える食事に迫る。第63回 スキー・ジャンプ 船木和喜選手インタビュー
2026.01.29
アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場いただくのは、スキー・ジャンプのオリンピック金メダリストであり現在も競技者として活動を続ける船木和喜選手。第一線で活躍されてきた背景やその土台となる食への意識、今後への思いなどをお聞きしました。
はじめに、ジャンプを始めたきっかけを教えてください。
僕は北海道余市町の出身なのですけども、同じ余市出身の笠谷幸生さんという札幌オリンピックの金メダリストの方がいらっしゃいました。笠谷さんの功績のおかげで少年団ができて、整備されたジャンプ台が身近にあったのがきっかけです。
最初に飛んだのはいつだったのでしょうか。
小学校1年生のときからアルペン競技をやっていて、5年生のときに初めてジャンプを飛びました。最初のときから怖さはなくて、むしろアルペン競技の方が恐怖心は強かったので、すんなりジャンプを始められましたね。
そこからジャンプに打ち込み始めたのですね。中学時代から日本一になるなど活躍されましたが、ジャンプ一本で、選手として本格的に取り組んでいきたいと思ったのはいつだったのでしょうか?
高校2年生のときですね。企業から卒業後に所属しないかと声をかけていただいて、ジャンプで給料がもらえて生活ができると考えたときに決断しました。
社会人になって1年目の1994-1995シーズンから世界選手権に出場するなど日本代表で活躍されるようになりますが、オリンピックを意識するようになったのはいつ頃だったのでしょうか。
1994年のリレハンメル大会のときはそこまでオリンピックに関心がなかったですね。世界を転戦していく中で、98年は長野での開催ということもあり、照準がそこに向かっていったように思います。
そして1998年、長野オリンピックを迎えます。ノーマルヒルで銀、ラージヒルと団体戦で金メダルと圧倒的な強さを見せました。あれからもう30年近くが経ちますけれども、記憶として強く残っているのはどんなことでしょうか。
だいぶ時間が経ちましたので曖昧な記憶しかないですけど、当時の宿で食べていた毎日の食事ですね。オリンピックに入る10日ぐらい前から食事の時間を試合に合わせて摂っていて、宿の方がいろいろ工夫をしてくれておいしいものを食べられていた。そうしたサポートのおかげでストレスなく試合に臨めたのではないかと思います。
ストレスというのは、どういうものだったのでしょうか。
オリンピックに限ったことではなく、期待とかプレッシャーがかかってくるのは当たり前ことだと考えています。でも、それを重圧として感じてしまうときはどうしてもあって、ストレスがたまると頭がパンパンになってしまうので、食事でリラックスできたことはすごく助かりました。
食事がストレス軽減に大きかったというお話ですが、日本のエースとして期待される中、3種目全てであれだけのパフォーマンスを発揮できた要因は何だったのでしょうか。
五輪に焦点を絞らずにシーズンを通して試合に出ていたからだと思います。長野と同じ冬のシーズンだけでワールドカップが36試合くらいあって、その中の一つがオリンピックという感覚でした。特別な試合に思わなかったのが一番かもしれないです。
しかも当時の日本代表チームは力のある選手が15人くらいいました。そのうちワールドカップに出られるのは8名です。ちょっと調子が悪くなると代わりの選手がたくさんいるわけですから、全試合、全力でやらないといけなかった。しかも、オリンピックになると試合に出られるのは4名ですけど、毎試合そうやって取り組んでいたのでオリンピックが特別だと思わなかったのだと思います。海外の強い選手も年間を通してメンバーが大きく変わることはなかったですね。
長野のあと、所属していた企業を辞めて会社を立ち上げました。当時大きな話題になりましたね。
はい。長野オリンピックの翌年、所属していた企業を辞めて、会社を立ち上げて競技活動を続けました。理由は、海外の選手がみんなプロでやっていたからです。当時、日本はプロというあり方は認められていませんでした。そうした環境のなかで、実質プロという生き方に挑戦してみたいと思いました。
今考えると企業所属という安定した環境を捨てて馬鹿なことをするなと思いますけど、自分で会社を立ち上げたからこそ、今でもジャンプを飛べていると思います。アスリートとして企業にいる以上はいつか肩を叩かれたり、競技を辞める選択をしたりしないといけない時期が必ず来ると思うので。
2002年のソルトレイクシティオリンピックにも出場した後、オリンピックという舞台には届かない状況が続きました。その中でも選手としてジャンプを続けてきて、現在も大会に出ています。その原動力は何でしょうか。
今もスポンサーとして支えてくれている会社があります。結果も出ていない僕を支援してくれるってすごいことだと思います。それに応えようというのが競技を続ける理由の大きな支えになっていますね。もしもスポンサーさんがいなくなったとしても、そのときはアマチュアとしてできるだけジャンプをやりたいなっていう気持ちはあります。
50歳になっても試合に出て飛べること自体が驚きですが、例えば体作りやコンディションはどう意識しているのでしょうか。
できるだけ体を動かそうという気持ちで、仕事の合い間には必ず歩く、走る、をします。あとは階段を使うことですね。札幌にいるときは自宅での生活ですが、家の中で練習は全部完結できるぐらい道具を揃えているので、筋トレなどしていますね。
食事も重要だと思いますが、どのようなことを心がけてきたのでしょうか。
食事の内容とかは10歳ごとにかなり変わってきた印象ですね。食べる量だったり、体の代謝量が変わってくるので、それに合わせて食事内容や練習量を考えたりしなくてはいけないと感じます。一人のときはコンビニや外食が続くこともありますが、札幌にいるときは奥さんが全部考えて作ってくれていて、コントロールしてくれるのでとても助かっています。
日本代表として海外遠征が多かった頃はどうしていましたか?
僕の時代は海外で日本食やアジアの食品を買えるスーパーなどはなくて、見たことのない料理や食材がけっこうありました。僕は好き嫌いがあまりなくて現地のものをなるべく食べるようにしていたので、量をコントロールして体重の上限を守ることを意識して管理していました。好き嫌いがない分、ビュッフェのときはいろいろな料理を偏りなく食べられたので自然と体調管理もできていたのかもしれません。
体重管理も意識されているということですが、低カロリーな食材の代表である「きのこ」もよく食べられますか?
はい。北海道には「落葉きのこ」というのがあります。北海道だけの言い方かもしれませんが、秋に採れるもので昔からよく食べていましたね。今も、きのこ類は鍋・煮物・炊き込みご飯やスパゲッティーで一年を通して色々食べている感じです。きのこはどの味にも合いますしバリエーションが多いので何かと選択することが多いですね。
また、特に天ぷらが好きです。例えばマイタケなど、天ぷらに合うきのこってたくさんありますよね。子どものころはシチューも好きだったので、シチューの具材できのこを食べることもありました。
あと、スロベニアでホームステイをしていた数年はマッシュルームスープなどきのこを使った料理をたくさん食べさせてもらいました。体調管理のためもあるとは思いますが、低カロリーのきのこで食に対してストレスを感じないようにしていてくれていたのだと思います。
きのこは栄養価が高く低カロリー、腸内環境を改善する働きもありますが、これまでに栄養について学ぶ機会はありましたか?
いや、(栄養について学ぶ機会はあまりなく、きのこについては)本当に好きで食べているというところです。好きな食べ物がきのこでしたので自然と腸内環境が保たれていたのかもしれません。
一時期はトレーナーや栄養士の方にもお願いしていましたが、全日本の遠征になると、すでに考えられたメニューを用意して頂けていたので、自分自身で勉強したり、意識をしたりすることはなく、知識はあまりないのが正直なところです。
ミラノ・コルティナオリンピックが始まります。選手にメッセージをおくるとしたらどのような言葉になるでしょうか。
自分もまだ飛んでいますので、出場する選手たちのレベルの高さはわかります。技術的な部分で一番安定しているチームは日本だと思うんですよ。自信を持って飛べれば、結果は必ずついてくるはずなので、そうなってほしいなと思いますね。
ジャンプを頑張っている子どもたち、選手に向けてアドバイス、ジャンプの魅力をお願いします。
いまもジャンプを続けていて、なかなか結果が出てないときや楽しくないなと感じることはあります。でも楽しい顔をしながら飛んでいると思うので、そうした姿を見てもらって、ジャンプって楽しそうだな、やってみたいなと感じてもらえたらなと思います。僕は言葉にして伝えるのが苦手なタイプなので、言葉で教えるよりも、オリンピックに出場する選手たちの活躍を見てもらうことで感じることがあると思うので、それを盛り上げられるような手伝いができればと考えています。
では最後に、シニアから社会人までスポーツに取り組んで頑張っている人に向けて、食事面でのアドバイスがあればお願いします。
僕自身、好き嫌いがないことが良かったなと思います。海外ではビュッフェ形式の食事が多かったですが、好き嫌いがないので見たことのない料理に挑戦することも好きでした。それが体調管理にも繋がっていた気がします。好きなものだけではなく、意識して色々な食事に興味を持って食べて欲しいですね。
船木選手が今食べたい菌勝メシ
コメント
スキー・ジャンプのルール上、体重コントロールには気を遣っています。きのこは低カロリーで体調管理にも役立つため、鍋・煮物・炊き込みご飯など年中食べています。スープ自体が好きなのですが、きのこなどが入った具沢山のスープは体重コントロールにもぴったりですね。
きのこと春雨のクリームスープ
きのこに豊富な食物繊維は、免疫細胞の集まる“腸”を整えることで体調管理をサポートします。また、きのこに豊富なビタミンDはカルシウムの腸での吸収を助けるため、カルシウムの豊富な牛乳と合わせることで丈夫な身体づくりにも役立ちます。
profile
(ふなき かずよし)
1975年4月27日生まれ、北海道余市町出身
小学5年生のときにスキー・ジャンプを始める。1998年長野、2002年ソルトレイクシティと2度オリンピックに出場、長野ではラージヒル、団体で金メダル、ノーマルヒルで銀メダルを獲得。1999年世界選手権ノーマルヒルで金メダル。1999年に会社を設立、今日も幅広く事業を展開しながらジャンプに打ち込む子どもたちなどへの支援を行っている。また競技選手として現在も活動している。
協力:THE DIGEST



