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きのこふしぎ発見

研究がすすむ、きのこの健康効果。がんや認知症との関係とは。

2023.04.01
研究がすすむ、きのこの健康効果。がんや認知症との関係とは。

古くから私たちの食卓に並び、独特の風味や食感から多くの人に愛され、食べられてきたきのこたち。その美味しさに加えて、昔から身体に良い食材として重宝されてきましたが、昨今の研究で、きのこの健康へのさらなる効果が確立されつつあります。
今回は、今注目されているきのこの有用性について、実際の研究をもとに紹介していきたいと思います。

食材としてのきのこがもつ、栄養的価値

食材としてのきのこがもつ、栄養的価値(イメージ)

古くから日本でも広く食されているきのこには、以前にも紹介した通り、食物繊維やビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれており、健康な身体をつくるのに役立つとして栄養的にも価値の高い食品として親しまれてきました。

低カロリーで食物繊維が豊富というイメージから、漠然と健康に良いという印象を持たれることも多いきのこですが、最近の研究では、きのこを継続的に食べることによって免疫力が向上したり、体脂肪の減少・高血圧や脂質異常症の改善といった生活習慣病が改善したりする可能性も示されており、研究が進むことで、きのこの栄養的価値は今後ますます高まっていくと考えられます。

今や私たちの健康づくりに欠かせない食材の一つとなっているきのこですが、今、その成分が注目を集めています。

がんときのこの研究

がんときのこの研究(イメージ)

栄養的価値に注目が集まるきのこですが、実はがんや認知症の予防にも役立つ可能性が示唆されており、期待が高まってきています。

① きのこを食べている人はがんリスクが下がる

19,732例のがん症例を集めて解析した研究では、きのこをたくさん食べる人ほどがんになるリスクが低く、毎日18gのきのこを食べている人は、きのこを食べていない人に比べて、がんになるリスクが45%下がると報告されています。

② βグルカンによる免疫を介した抗がん作用

きのこ類の細胞壁に含まれる食物繊維の一種である「β-グルカン」には免疫細胞を活性化させ、がん細胞への免疫応答を高める効果が報告されています。また、一般的に抗がん剤による治療下では、QOLの低下や免疫機能の低下が起こりますが、シイタケの「菌糸体抽出物」を摂ることで、QOLの向上や免疫機能の改善につながる可能性が示唆されています。
がんと診断されている患者にシイタケの「菌糸体抽出物」を経口摂取してもらい、聞き取りによって状態を評価した結果、自身の身体や心理に関する項目や、疲れやすさなどに関する項目で点数が上がり、QOL が向上したという結果が得られています。

認知症ときのこの研究

認知症ときのこの研究(イメージ)

きのこを取り入れた食生活は、認知症予防に役立つ可能性も明らかになってきています。特に、きのこ特有の成分が認知症の抑制に関与することが報告されています。

① きのこを食べている人は認知症発症リスクが低い

日本で行われた大規模な調査研究では、約1万3千人の高齢者を対象に5.7年間の食生活の調査を行った結果、きのこを週3回以上食べる人は、ほとんど食べない人に比べて認知症発症リスクが低いことが示されました。

② きのこに多く含まれる「エルゴチオネイン」が役に立つ

エルゴチオネインは、きのこ類に多く含まれる天然の抗酸化物質で、神経細胞を守る作用が知られています。血中のエルゴチオネイン濃度が低い人ほど認知症発症リスクが高いことが報告され、軽度認知障害の患者に1年間エルゴチオネインを摂取してもらった臨床試験では、体内のエルゴチオネイン濃度が上昇し、摂取前に比べて言語記憶力など一部の認知機能の向上が確認されました。

③ 注目を集める、ヤマブシタケの「ヘリセノン」「エリナシン」

また、きのこの一種であるヤマブシタケに含まれる「ヘリセノン」や「エリナシン」という成分には、認知症の原因となるアルツハイマー病に効果があるとされています。
アルツハイマー病は、神経成長物質の欠損やアミロイドβタンパクと呼ばれる物質が脳に蓄積されることで発症します。しかし、ヤマブシタケに含まれるこれらの成分は、神経成長物質の合成を促したり、アミロイドβタンパクの働きを抑制したりすることでアルツハイマー病の抑制につながると考えられています。

「ヘリセノン」や「エリナシン」を投与した動物実験では、認知症症状の改善効果が確認されています。また、ヤマブシタケの乾燥粉末を 1 日 2 回、3 ヵ月食べてもらう臨床試験では、 18 人の男女のうち、11 人に認知機能の改善が見られ、ヤマブシタケに含まれる成分が人間の認知機能の改善にも役立つ可能性が示されています。

古くから食材として重宝されてきたきのこですが、研究が進むことできのこの栄養的価値について、さらなる有用性が確立されてきています。
美味しく栄養のある食材としてのきのこに含まれる様々な成分が、私たちの豊かな生活を支える一助になるかもしれません。今後、さらに研究が進むことを期待したいですね。

<記事更新:2025年9月1日>

参考文献

  1. 木方正「キノコが体に良いわけ」
        
  2. 「がん患者におけるシイタケ菌糸体抽出物配合顆粒の QOL 改善作用」
        
  3. 水野卓 「キノコの薬効成分と食品機能」
        
  4. 須賀哲也「免疫賦活成分β-グルカン含有機能性食品の研究開発」
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  6. Ba D. M., et al., Adv. Nutr., 2021, nmab015.
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  8. Wu LY, et al., Antioxidants (Basel). 2022,11(9):1717.
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  10. Yau YF, et al., J Alzheimers Dis. 2024, 102(3):841-854.
生命力を食べる。 人と菌の物語