プロアスリートを支える食事に迫る。第61回 スポーツジャーナリスト・田中大貴さんインタビュー
2025.12.01
アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今月は、数多くのプロアスリートを取材し発信してきた、スポーツジャーナリストの田中大貴さんに登場いただきます。ご自身も学生時代までは野球に打ち込み、大学卒業後はフジテレビアナウンサーとして活躍。現在はスポーツビジネス企業株式会社Inflightを経営する田中さんに、ご自身の進路を考えるうえで感じたことや、プロスポーツ選手の取材を通じて感じた食事の大切さ、さらにはジュニアアスリートへのアドバイスなどをお伺いしました。
まずは田中さんご自身のことを教えてください。幼少期、野球を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
小学4年生の時、父の影響で始めました。小中学校ぐらいまではピッチャーもやっていましたが、肩を痛めてしまい高校では打者に専念するようになりました。
高校時代、野球と勉強の両立はどのようにしていましたか。
通っていた高校が進学校だったので、野球をするには勉強をしないとグラウンドに立たせてもらえませんでした。甲子園を目指していましたし、大学でも野球を続けたかったので、野球に一番時間を使っていました。
なので、勉強面では、勉強に集中してやっている人には勝てないと思っていたので、3年生の夏に野球部を辞めてからは勉強一本に集中するために荷物を持って祖母の家に行きました。夏休みの間は祖母の家の2階の奥の部屋にこもって毎日1時間半の睡眠で勉強をして、2学期が始まってからは実家に戻り、また1時間半睡眠で勉強をしていました。
その努力が実り志望校の慶応大学に無事に合格されたのですね。
高校3年生の11月頃にアドミッションオフィス(AO)入試を受け、12月に合格発表がありました。ただ、当時は肩の手術をした影響で、入学して野球部に入部した時は腕をつったままのスタートでした。でも1、2年生の間は試合に出られなくても3年生か4年生で勝負できるようにしたいと考えていました。
大学経由でプロに進みたいという希望を持ちながらの手術という選択だったのでしょうか。
そうですね。僕は松坂大輔さんと同学年の“松坂世代”。後に100人以上がプロ野球入りした世代です。東京六大学に行ってレベルの高い松坂世代の皆さんと一緒にプレーしながら4年間研鑽を積んでいけばプロに行ける可能性は高いのではないかと考えていました。
そんななかでフジテレビを受けた理由はどのようなものでしたか。
監督は社会人で野球を続けたらどうだと言ってくださるなかで、社会勉強として就職活動をしてみますと伝えて、たまたま1社受けに行ったのがフジテレビのアナウンサー職で、内定をいただきました。
野球はきっぱりと諦められたのでしょうか。
いえ、内定をいただいたときはまだ野球選手への思いもありました。慶應義塾の野球部には「プロでレギュラーになってタイトルを獲るイメージができないのなら企業に行って活躍しなさい」という考えがあって、野球を続けるか就職するかフジテレビの内定式ぎりぎりになっても悩み続けていましたね。
自分がプロとして通用するだろうかと考えたときに和田毅君(当時早稲田大学、元福岡ソフトバンクスホークス)のボールを打てないとプロでは勝負できないのではないかと思っていたところ、すごく調子の良かった春の早慶戦で和田君に対して結果が出せなかった。それもあり、悩み抜いた末に就職を決めました。
田中さんは、卒業後の選択肢が幅広かった分、逆に選ぶまでの苦しさもあったのではないですか。
選べる状況で良かったねとよく言われるんですけど、実は苦しかったです。ずっと野球と向き合ってきた人生だったので、これで野球を諦めていいのか、このまま逃げていいのかと考え続けていました。
その中でも、自分で決めたことだから意志を貫けたという思いもあるのでしょうか。
相談しても参考にはなるけど答えは出ません。結局自分が決めることになります。だから、決めるまでが一番怖いんですよ。決めて一歩踏み出してしまえばノイズはそぎ落とされてそこに向かうしかなくなるので、決めて一歩を踏み出せるかどうかが一番大事です。
スポーツのアナウンスをする中で大切にしてきたことはありますか。
僕の場合、声がいいわけでもないですし、滑舌がいいわけでもないので、とにかく嘘をつかない、背伸びはしない、自分という人間をそのまま出すしかないのだということを心掛けていました。アナウンスの基礎を徹底的に鍛えて、基礎ができるまでは野球をやってきたという自分の武器は出さないことを決めていました。
2018年に退社され、新しいビジネスへと転向された理由を聞かせてください。
2015年ごろからネット配信メディアが出てきたことでリアルタイムに皆さんがスポーツの結果を手軽に知るようになって、テレビの情報は遅れて伝わるようになりました。その時に考えたのは、自分がやってきた実況などのスキルを活かせるのは地上波というプラットフォームに限らないということでした。配信事業社などの新しいメディアが大きくなっていけばいずれはテレビと協業するようになると思っていたので、ならテレビのスキルを持った人間が先にそちらへ行ってやっていこうじゃないか。それはテレビを含めたメディア全体の新しいやり方になってくるし、スポーツ中継やスポーツ番組を救う形になるのではないかと思ったのです。
ここからは食事のお話をお伺いします。田中さんは普段、体調管理はどのようにしていますか。
アナウンサーは体自体が楽器のようなものなので、その楽器を冷やさないことを常に考えています。基本的に温かいものを摂るようにしていて、家にいるときは夜に鍋料理を食べて喉を温めています。夏でもお鍋は欠かせません。
温かいものを食べる意図はなんでしょうか。
基礎代謝を上げて基礎体温を上げることを常々考えています。体が冷えてくると血液循環が悪くなって声にも影響してきます。家で食べる時には基本的に自分でつくり、温かいものにするというルールをずっと続けています。
身体を大切にしているところは田中さんもプロアスリートも同じですね。仕事を通じて栄養に関する知識を得ることもありますか?
そうですね。例えばオリンピック担当の栄養士さんにインタビューをするとか、アスリートの合宿所に行って食事を取材するとか、また、格闘家の方々と向き合うことも多いので、そういった方々の食生活にかなり影響を受けている部分はありますね。
例えばどのような知識でしょうか。
体の成長を促すには食物繊維の多い食材が良いというのはバレーボール選手から聞きましたし、体を温めることについては喉を使っていらっしゃる歌手の皆さんから情報をいただいてきました。
各分野のプロの実体験から学んで、自分自身にも合う方法を見つけてきたのですね。
そうですね。やはり、ひとつのやり方がすべての人に合うということはありません。例えば糖質だったら果物の糖質がいいのか、大豆から摂るのがいいのか、それとも穀物から摂るのがいいのか。僕の場合は果物の糖分は体が太りやすく、緩みやすいのであまり摂らないようにしたり、お米を食べると体調が良くなったりというのはあるので、いろいろな人に情報をいただきつつ自分でも調べながら、自分の体がどう反応するかを試してきましたね。
選手の方々にインタビューをする中で、感じたことや印象的であったことを教えてください。
僕はこれまでに延べ1000人以上にインタビューをしてきているのですが、例えば自分のパフォーマンスを高めていくために、食事面で「これを摂ってはいけない」「ここを我慢しなきゃいけない」という苦しい状況になってくると、精神的に追い詰められてしまうイメージがありますよね。しかし実際は、トップレベルの方々は、ストレスによってパフォーマンスを発揮できないというパターンは少ないと思います。
なぜなら、トップレベルの方々はそこのバランス感がすごく上手。ストレスをためないために、自分の好きなものを摂る時期を作るなど、精神的な部分を考慮したうえでの栄養の摂り方が上手い方々はパフォーマンスが高いなという印象があります。
より深く、具体的なエピソードがあれば教えていただけますか。
プロ野球選手だとレギュラーシーズンの試合は年間に143ありますよね。毎日同じものを食べ続けていると、“味の感じ方の違い”が“体調の変化”に気づくための判断材料になってくるという選手が多いんです。
例えば鳥谷敬さん(元阪神タイガース)も現役時代に毎日、鍋を食べる中で、鍋の種類はいろいろでも白菜を食べた時に味がちょっと違うなとか、お肉を食べた時に感覚が違うなと感じると、自分の体調が弱っているのかもしれないという物差しになっていたといいます。
また、慶応大学の先輩である高橋由伸さんからは、どの球場に行っても必ず試合前の同じ時間に蕎麦やうどんを食べて、味や食感の違いを物差しにしていたと聞きました。
そうだったんですね。ちなみに、“体調管理”に役立つ食材の一つに「きのこ」がありますが、きのこはよく食べられますか?
はい。僕が一番好きなきのこは椎茸ですね。母が好きだった影響が大きくて、椎茸の醤油バター焼きは食感も大好きです。
あと、鍋を作る時にはきのこ鍋にして、マイタケ、しめじ、シイタケを入れるきのこ鍋も多投しています!中でも最近よくお鍋で使うのはしめじです。コスパもいいですし、さきほどお話しした“同じものを食べることで体調を図る”という意味では、どこでも買えるという面も重要ですよね。
そんなきのこは食物繊維の豊富な食材ですが、田中さんは腸内環境についても関心が高いとお聞きしました。きのこに腸内環境を整える力があるのはご存知でしたか。
きのこに関しては、腸を含めた内臓機能を高めてくれるイメージがあります。内臓が疲れている時、機能を高めるためにもきのこを食べています。
腸についての知識はどのようにして得たのですか。
内臓の中で腸はとても大事で、しかも内臓は鍛えられないので、それならケアをして保つしかないと思った時に、腸の機能を高めるための指導を受けることを始めました。
夕食を食べてから寝るまでの間が短ければ消化すべきものが残っていて、内臓がずっと動いている状態になります。寝ている間にも腸が動いていては体の疲れが取れず、次の日に持ち越してしまいます。それを知ってからは、寝ている間に腸を休ませ、腸の状態を高めておくことを意識するようになりました。腸活のために腸マッサージにも行っています。
田中さんは高校球児などの学生アスリートとも関わる機会があるかと思いますが、食事や身体づくりへの意識の点で昔と比べて変わったと思うことはありますか。
変わっていますね。例えば、慶應義塾大学野球部はデータの可視化、そしてデータの運用、適用化により、近年、大学野球において好成績を収め続けています。
それと同じように食事管理においても栄養素から見るパフォーマンスへの影響などのデータを参考にし、結果を残す学生が増えていると言えます。
まさにデータ、情報を上手く取り入れられる若きアスリートが食事面でも研究心を向上させていると見ています。
それでは最後に、ジュニアアスリートへ向けて食事面でのアドバイスをお願いします。
体は食べている分だけ縦も横も大きくなれるんですよね。これは有名選手の栄養指導をしているクリニックの先生から聞いたのですが、やはり、中学生ぐらいまでに体を大きくしたいと思うなら、量を食べていないとそうなりません。
その年代で体が大きくならないのは運動によるカロリー消費が多く、摂取カロリーを圧倒的に上回っているのがほとんどです。ちゃんと食べることに体の成長が比例します。栄養バランスについてよく言われますが、ジュニア期はどちらかというと量の方が大事で、もう少し体が出来上がってきてから質を選んでいくというのが僕の考え方です。
田中さんが今おすすめする菌勝メシ
コメント
トップアスリートの特徴には、自分の身体に最適なものを常に考え求めている点があります。きのこは栄養豊富で私も好きな食材。塩分、カロリーが高くなりやすい焼きそばにきのこを入れることで、栄養バランスがとれ、体調管理にも繋がると思います。
シャキシャキきのこの焼きそば
エネルギー源になる糖質が豊富な麺、身体づくりの元となるタンパク質の豊富な豚肉、そして糖質やタンパク質を代謝するのに必要なビタミンB群の豊富なきのこをまとめて摂れる一品。身体に必要な栄養素がバランスよく摂れる、アスリート応援メニューです。
profile
(たなか だいき)
1980年4月28日 187センチ
兵庫県小野市出身。兵庫県立小野高校を経て慶應義塾大学環境情報学部に進学し、体育会野球部に入り東京六大学野球でプレーした。2003年にフジテレビへ入社後は「とくダネ!」「すぽると」などの番組やスポーツ中継でMC·実況を担当し、2010年バンクーバー五輪、2016年リオデジャネイロ五輪では現地キャスターを務める。
2018年に独立して 株式会社Inflight を設立し、2021年に開催された東京2020五輪ではIOCベニューMCを担当。現在はスポーツアンカーとして活動する一方、スポーツチームや企業のビジネスコーディネーション、コンサルティング、メディア制作、CSRイベントの企画運営を手がけ、メディア出演と経営者としての活動を両立している。
協力:THE DIGEST



