プロアスリートを支える食事に迫る。第54回 体操競技・萱 和磨選手インタビュー
2025.05.01
アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回は体操競技の男子日本代表キャプテンとしてパリ2024オリンピックや2023年の世界選手権で団体金メダルを獲得するなど、世界の大舞台で長く活躍している萱和磨選手です。東京2020オリンピックを含めた国際大会での経験や強さを支える食事の秘訣、スポーツを頑張る方に向けたアドバイスなどをお話しいただきました。
はじめに、体操競技を始めたきっかけを教えてください。
小さい頃から体を動かすことが好きで、小学2年生の夏にアテネオリンピックをテレビで見たのがきっかけです。鉄棒の着地をピタリと止めた冨田洋之さんに憧れましたし、6人の代表選手全員から夢を与えてもらいました。
秋から通い始めた体操クラブでは、みんなが逆立ちをして歩いているのを見て自分もやってみたのですが最初はすぐ倒れてしまうのが悔しくて、頑張りたいという気持ちになりました。
小学校、中学校時代の指導者からは、どのようなことを教わりましたか?
小学生の頃から中学3年生まで指導してくださった松本幸久先生はすごく厳しかったので、当時は怖い印象がありました。でも、漫然と練習していると「その練習にはどんな目的があるのか?」と聞かれるので、目的を持って練習することや上手くなるために必要なことを自分から考える習慣が身につきました。
松本先生は小学生チャンピオンを作ろうとする指導方針ではなくて、高校、大学、社会人で花開くために指導をしていただいたという思いがあります。僕自身、最初はスロースタートだったのですが、中学3年生の後半にやっと結果が出始めました。自分のメンタルの強さは小学校、中学校で磨かれたものだと感謝していますし、今はすごく仲良くさせていただいています。パリオリンピックで金メダルを取った時はとても褒めてくれました。

順天堂大学1年だった2015年に世界選手権に初出場して団体金メダルとあん馬の銅メダルを獲得。しかし2016年のリオデジャネイロオリンピック出場は叶わず、サポートメンバーとして現地に帯同しました。この経験をどのように受け止めたのでしょうか。
今となってはあの経験がバネになったと思いますが、当時は自分の中でとても大きなものを落としてしまったという悔しさに駆られていました。そのときに思ったのが、アスリートに惜しいという言葉はないということ。オリンピックに行けたか行けなかったか、それしかない。それからは結果や自分の実力をより細かく見るようになりましたね。
そして2021年、東京オリンピックの代表入りを果たし、本番ではROCとの接戦の末に団体銀メダルを獲得。個人でもあん馬で銅メダルを獲得しました。
リオからの5年間はしっかりと目標のために計画を立てて練習に取り組み、オリンピックに臨みました。結果は1位のROCに0.103点差で銀メダルでしたからもちろん悔しかったですが、パリがあるという前向きな気持ちがすぐにわいてきました。それはリオの経験があって自分が強くなったからだと感じましたし、だからこそパリでの結果につながったのだと思います。
迎えたパリオリンピックでは再び主将として男子団体チームを牽引し、今度は団体金メダルを獲得しました。最終種目の鉄棒で中国を大逆転するドラマチックな試合でしたが、常に「諦めるな」と仲間に声を掛ける萱選手の姿がありました。改めてパリオリンピックはどんな大会だったでしょうか?
東京オリンピックの時から、日本チームでの僕の役割は「失敗しない」ということでした。パリに向けてはその役割をもっと分厚く遂行するために、「各種目のトップバッターとして演技をし、失敗しない」ことや、「6種目のどれを任されてもいいように」という考えを持って準備を進めました。
実際、団体決勝は最後の種目まで何が起きるか分からないものですし、試合中はずっと諦める理由などないと思っていました。平行棒を終わって3点差があったので大きな得点差ではあったのですが、その点差でも諦める必要はまったくないと感じていました。

ここからは食事についてお聞かせください。子どもの頃はどんな食生活でしたか?
幼少期は食が細く、お菓子やアイスも食べない少年でした。甘いものが好きじゃなくて、ご飯もあまり食べないのでガリガリだったのですが、体操を始めてから少しずつ食べる量が増えました。というのも、先生たちから「体操が上手くなるには食べないとダメだよ」と言われていましたし、家では母が「お茶碗2杯ルール」をつくったんです。
お茶碗2杯のご飯を食べないと練習に行かせませんと言われてからは、必ず2杯食べるようになりました。今の僕は細身ですが周りの人と比べても丈夫ですし、今のところ大きなケガもしていません。
萱選手は今年29歳になります。最近はどんな食生活を心掛けていますか。
大学卒業後に社会人になって一人暮らしを始めてから、朝は必ず納豆を食べるようになりました。スーパーで手軽に買えるし、納豆があればご飯が進みますからね。
結婚してからは納豆ご飯に加えて、お味噌汁と副菜を一品が定番です。ご飯は180グラムと決めています。
僕は食事や生活習慣のルーティンを大事にするタイプなのですが、なぜそうしているかというと、例えば練習で調子が悪い時に原因を考えて、朝食や寝る時間がいつもと一緒だと原因をどこなのかを絞りやすくなりました。
栄養の知識はどこで学んだのですか。
周りの人に聞いたりしながら少しずつ知識を得ていきました。それと、妻が大学に入り直して管理栄養士の資格を取得するために勉強しているので、その知識から献立を考えてくれています。でも食事は楽しむのも大事だと思うので外食することもありますよ。
栄養豊富な食材として「きのこ」も挙げられますが、きのこも良く食べられますか?
妻がきのこ好きなので料理に必ず入っているんですよ。きのこにはいろんな種類がありますし、料理によって使い分けているようで、毎日必ず何かに入っています。
好きな料理はエリンギ入りのパスタ。今朝はお味噌汁の具がきのこと豆腐とほうれん草でした。なめこの味噌汁は昔から好きでした。
きのこは低カロリーで栄養価の高い食材として注目されており、腸内環境を改善する働きも報告されています。そういった知識はお持ちでしたか?
ナショナル合宿に行くと管理栄養士さんがいて、そこで学んだり自分から質問したりして知識を得ています。きのこが入っていると料理の嵩が増すし、僕のイメージではきのこは便通を浴してくれる食材。なので、腸内環境が良くなるといいなと思いながら食べていますし、実際に調子は良いです。
長い競技生活の中で、食生活全般で日頃から大事にしていることはありますか。
シンプルなのですが、やはりご飯などの炭水化物、肉、野菜、ヨーグルトなどの乳製品や果物など、バランス良く摂ることですよね。とはいえ、やはり一食ですべてを摂るのは難しいと思うので、1日の中で補えるように意識しています。

では、いまスポーツを頑張っている人へアドバイスをお願いいたします。
スポーツに限ったことではないと思いますが、やらされてやっている人は、楽しいからやっているという人には絶対に勝てないと思います。小・中学校くらいまでは指導者に言われたことだけをやっていても勝てますが、大学生や社会人になってくると自分から進んで学びに行ったり考えたりしないと勝てませんし、YouTubeやSNSに上がっている動画をキャッチして上手な人の手本を見るのも、やはり楽しいからこそできること。楽しんで追求していってほしいですね。
最後に、食事面でのアドバイスをいただけますでしょうか。
僕は、食事は貯金と一緒だと思っています。社会人になった23歳の時から、パリオリンピックまで頑張って若々しくいるために、今のうちから貯金じゃないけど食生活もちゃんとしておこうと心掛けていました。それがパリにつながりましたし、さらにロサンゼルスオリンピックを目指している今にもつながっていると思います。
多分、23歳の時は若いので何を食べても大丈夫だったと思うんですよ。でもその先を見たら、食べているものでかなり変わってくると思います。
萱選手が今食べたい菌勝メシ
コメント
コンディションを一定に保てるよう食事は栄養バランスを意識しています。チャーハンが大好きなので、チャーハンに栄養価が高いきのこを加えることで体調管理や腸内環境を整えられるのはとても魅力的ですね。

きのこと牛肉のスタミナあんかけチャーハン
きのこに豊富なビタミンB1は、糖質代謝を促すことで効率の良いエネルギーチャージをサポートします。また、にんにくの芽に含まれる「アリシン」はビタミンB1の働きを高める効果があり、きのこと合わせることで効果がアップ!
profile
(かや かずま)
1996年11月19日 163センチ 千葉県千葉市出身。
小学2年生の時にテレビで見たアテネオリンピック男子体操・冨田洋之さんの演技に魅了されて体操を始める。習志野高校時代に頭角を現し、順天堂大学1年生だった2015年に初のナショナル入り。「失敗しない男」の異名を取る確実な演技と、何にも動じないメンタルを武器としている。あん馬と平行棒を得意とし、あん馬では2021年東京オリンピックと2015年および2022年世界選手権で種目別銅メダルを獲得。平行棒では2019年世界選手権で銅メダルを獲得。オリンピックでは通算で金メダル1個、銀メダル1個、銅メダル1個。世界選手権では金メダル2個、銀メダル2個、銅メダル3個を手にしている。
協力:THE DIGEST