女性特有の“気分の落ち込み”や“イライラ”はなぜ起こる?年代別の原因やメンタル不調を防ぐセルフケア法とは
2026.02.09
「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントとともに毎月様々な話題をお届けする本コーナー。
今回は、妊娠・出産期や月経前、更年期など、ライフステージごとに起こりやすい「メンタルの変化」についてご紹介します。
女性が理由もなく気分が落ち込んだり、不安になったり、イライラが強くなったりする背景には、女性ホルモンの変動が深く関係しています。近年、女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンの増減が、心のバランスの乱れにつながることがわかってきています。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、女性のメンタル不調が起こりやすい時期とその原因、生活習慣や食事でできるケア、医療のサポートについてお聞きしました。
INDEX
女性ホルモンの増減がメンタル変化の原因に

はじめに女性がメンタル変化に気を付けるべき時期について教えてください。
メンタル変化に気をつけるべき時期は、ライフステージごとに異なります。20代から40代は、妊娠中や産後、月経前が特に注意すべき時期です。一方、50代から60代は、更年期がメンタルの変化に影響しやすい時期となります。
いずれの時期も、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンが低下あるいは変動するため、メンタル不調が起こりやすくなります。
特に妊娠中と出産後では、女性ホルモンの分泌量が大きく変動します。妊娠中は胎盤から女性ホルモンが大量に分泌され、その量はなんと妊娠前の50倍程度とも言われています。そして出産時に子宮内から胎盤が出ると同時に、大量に分泌されていた女性ホルモンも一気に外に出てしまうため急激に減少します。この急激な女性ホルモンの変動によって、産後から月経が再開する数か月後まではメンタルの不調に陥りやすくなるのです。
女性ホルモンが減ることで、なぜメンタル不調が起こりやすくなるのでしょうか?
女性ホルモンのエストロゲンは、気持ちを安定させるホルモンである「セロトニン」の分泌を助ける働きを持っています。そのため、エストロゲンが減るとセロトニンの分泌も減少してしまうことで、メンタル不調が起こりやすくなるのです。
一方、月経前には妊娠の準備や維持を助けるプロゲステロンが増えます。このプロゲステロンは、ストレス軽減の働きをする「エンドルフィン」というホルモンを減らしてしまうため、なんとなく気分が落ち込みやすくなるのです。
メンタル不調を防ぐセルフケア法とは

メンタルの不調を防ぐために、自分でできることはありますか?
女性ホルモンの変化によるメンタル不調は、自分だけで防ぐのは難しい面があります。ただ、質の良い睡眠は自律神経を安定させるために欠かせません。産後や更年期、月経前などの時期にはホルモンバランスを整えるためにも、しっかり質の良い睡眠をとることを心がけましょう。
また、適度な運動やバランスの良い食事も大切です。運動は気分転換になるだけでなく、元気ホルモンである「セロトニン」の分泌も助けるため、無理のない範囲で日々の生活に取り入れてほしいと思います。
産後などで運動することが難しい人は、息を吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにお腹をゆっくりへこませる「腹式呼吸」がおすすめです。末梢循環を改善し、ストレス状態を緩和することに役立ちますよ。
更年期の方で、メンタル不調を防ぐために気を付けるとよいことはありますか?
太りすぎだけでなく、痩せすぎにも注意が必要です。女性ホルモンは、脂肪細胞からも作られるため、閉経後も体内に脂質があれば少量ではありますが、女性ホルモンは作られ続けます。しかし、痩せすぎて脂質が極端に少ない方は、女性ホルモンが十分に作られずメンタル不調になりやすいため、BMI21~22くらいの適正体重を維持することを心がけてほしいと思います。
不調対策には「食物繊維」や「ビタミンB群」も効果的!

バランスの良い食事もメンタル不調に効果的とのことですが、メンタル不調を防ぐためにとり入れるとよい栄養素を教えてください。
メンタル不調を防ぐためには、きのこや根菜類、海藻などに多く含まれ、腸を整える働きのある「食物繊維」が役立ちます。気持ちを安定させるセロトニンは腸内で作られるため、腸を整えることがメンタル面のケアにつながるのです。また、このセロトニンは自律神経にも働きかけると言われているため、メンタル不調を防ぐ効果が期待できます。
さらに、腸には多くの交感神経が存在しますが、便秘などで腸が拡張してしまうと常に交感神経が刺激され、いわゆるストレス状態となります。このような状態を防ぐためにも、食物繊維を毎日の食事に取り入れていきましょう。
食物繊維が豊富な食材の中でも特におすすめの食材が「きのこ」です。きのこは食物繊維が豊富なことに加えて、メンタルケアに役立つ栄養素が豊富です。例えば、自律神経の乱れを防ぐには末梢循環の改善も効果的ですが、きのこには血行を促すのに役立つ「ナイアシン(ビタミンB3)」や、糖質の代謝を助けて体内で熱をつくるのを助ける「ビタミンB1」など身体を内側から温める栄養素も豊富に含まれています。
さらに、きのこにはストレス緩和や睡眠ケアをサポートする「GABA」「オルニチン」「エルゴチオネイン」なども豊富なため、寝つきの改善や睡眠の質の向上といった効果が期待できます。
きのこと合わせて、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをする「イソフラボン」が豊富な大豆製品(納豆や大豆、豆腐、油揚げなど)も一緒に摂ることで、心身のケアを後押ししてくれます。
メンタル不調は抱え込まずに産婦人科へ
一方、セルフケアだけでは女性ホルモンの変化によるメンタル不調を防ぐのは、難しい面があるとのことでした。
生活習慣を整えたり、必要な栄養素を摂取したりしても、ホルモンバランスの乱れが原因で、気持ちが落ち込むことはあります。そのような場合は、ぜひ産婦人科を受診してほしいと思います。産婦人科では、まず生活習慣の指導や女性ホルモンのバランスを整える漢方薬の処方をされることが多いです。漢方薬でも改善しない場合は、ピルなどの処方が検討されることもあります。
特にPMSの方のなかには、プロゲステロンの作用が強すぎるために、メンタル不調に悩んでいる方も少なくありません。PMSは多くの場合、ピルの服用で改善します。ただ、ピルはエストロゲンとプロゲステロンの合剤であり、服用によりエストロゲンとプロゲステロンの変動が少なくなるためPMSに効果があります。
最後に金山先生から読者の方へ、アドバイスなどがあればお願いします。
ここまでお伝えしてきた通り、女性のメンタルの安定には女性ホルモンの変化と脳内物質・自律神経のバランスが深く関わっています。妊娠・出産期や月経前、更年期といったホルモン変動の大きい時期には、誰でも気分の落ち込みや不安、イライラを感じやすくなりますが、「気のせい」や「我慢すればいい」と抱え込む必要はありません。
もし、質の良い睡眠やバランスのとれた食事、適度な運動で心身の土台を整えてもメンタル不調が続く場合は、産婦人科を受診し、漢方やピルなどの医療の力を借りることも大切な選択肢です。
女性ホルモンの変化を正しく理解し、自分の心と身体のサインに耳を傾けることが、健康的な毎日につながります。ご自分の身体と向き合いながら、日ごろからバランスの良い食事や整った生活習慣を意識して自分自身を大切に過ごしていきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員


